七章 管弦の宴
第二十三話 重なり合う旋律と心
不穏な事態の最中ではあったが、管弦の宴は予定通り行われた。
男性も女性も美しく着飾り、宴に参加した。
特に女たちの
建物や室内も美しく飾り立てられており、いつもとは異なる華やかさを醸し出していた。
ふと顔を上げると、
「準備はいいかい?」
桜の花びらが揺れる庭園に、音が美しく響いて行く。
それぞれの楽器の音色が重なりあって、幻想的な
月姫は少し笑って、それに応える。
音は遠くまで飛んでいくようだった。月姫たちの思いを乗せて。
この旋律が、第一階層にまで届けばいいのに、と月姫は願った。
第一階層にはなかった、この美しさが、届くといい。
薄いピンクの花びらが音と絡まるように舞う。
皆、息をするのも忘れたかのように、聴き入っていた。
重なり合う旋律に、皆何を思い描くのだろう?
弦が空気を震わせ音を作り、同時に人々の心も震わせる。
音楽が終わり、余韻が微かに残った。
そして拍手が起こる。
「月姫、成功したよ。すばらしい演奏だった」
「ええ、帝も。それから
「ごいっしょに演奏出来て、光栄でしたわ。月姫さまは何でもお出来になるのね」
「いいえ、
「ふふふ。ではわたくしは向こうに参りますね。……
「え? よろしくお願いしますって?」
その場所には、いつの間にか
もちろん、
「
「そばに座ってくれるかい?」
「はい」
月姫は緊張しながらも、帝の横に座った。
そして、他の場所から聞こえて来る
「美しいな」
「……はい」
月姫は
「月姫。私はね、月光の中のあなたを見て、神さまの使いだと、思ったのだよ。……私の手のひらにいたことを覚えているかい?」
「はい。とても温かでした」
「……それはよかった。……なんて不思議なのだろう? あの、猫の子ほどの赤子が、このように美しい女性になるとは……」
「美しいのは、帝です」
「え?」
「……あたし、帝のことを、最初からずっと、なんて美しい方なのだろうと思っておりました」
「月姫……」
「帝……」
月姫は
この方はどうしてこんなにあたしを惹きつけるのだろう?
「美しいのは、あなたの方だよ。まるで、月の
「帝?」
「私はね、月姫。あなたの詠む歌が好きだ」
「あたしも、帝の歌、好きです」
「それから、
「あたしは、帝の調合された
「……ありがとう。あなたは何かにつけて、才があるのを見せてくれる。呪術の
「……それは」
それは、異能力があったから。
「そうそう。『竜の首の宝玉』の件に関しては、驚いたな」
「あ、あのことは――忘れてください!」
月姫は顔を赤くして顔を隠しながら、言った。
「……顔を隠さないで? あなたはどのような顔も美しいのだから」
「帝……」
「あなたは神秘的でありながら、時に大胆で、私に新鮮な驚きをくれるのだよ。呪術の
「あのときは必死で。……だって、帝に傷ついて欲しくなかったから。帝をお守りしたくて」
「そういうところだよ、私は惹かれるのは。――
それは本当にそうだ。
月姫は息が止まりそうになりながら、その抱擁を受け入れていた。
「月姫。あなたの
「はい、帝」
「……月姫、私と結婚してくれる?」
遠くで雅楽の美しい旋律が流れているのが聞こえた。
全てが夢の中の出来事のように、月姫には感じられた。
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