第十八話 愛は温かくて
二人を見ていたら、
「
「はい! 月姫さまのおかげです。ありがとうございます!」
「お前は俺をもっと信じろよ」
伊吹が言って、
「だって、あたしは伊吹一人がいいって思っていて、伊吹にもあたしだけでいて欲しいって思っていたけど、世の中、本当は何人も妻を持っていいんだもん。だから、伊吹があたし以外の人に興味を持っても仕方がないかも、と思っちゃったのよ。――だけど、あたし、どうしてもそれが受け入れられなくて……」
「そこはちゃんと話しただろ?」
「うん」
「俺は
「……うん」
「ずっと、
「うん……ありがとう、伊吹」
寄り添い合う二人。
……いいなあ。
あたしもあんなふうになりたい。
――帝と?
「月姫さま?」
「あ、ううん、何でもないのよ」
月姫が顔を赤くしてもじもじしていると、
「月姫、いるかい?」
「はい」
「今度行う管弦の宴について、少し話したくて」
孝真と共に、
帝……!
「月姫、久しぶりだね」
「は、はい、帝」
月姫は、
あまりにかっこよくて、息が止まりそうになった。
白皙の顔に切れ長の瞳。瞳の色は青みがかって見える。整った顔立ち。
……なんて美しい方なんだろう。
「月姫は、楽器は
「は、はい。でも、
久しぶりに耳にする帝の深く落ち着いた声は、月姫の心の中に入り込んで心を揺すった。
月姫はこのどの楽器も弾きこなすことが出来た。
第一階層でギターを弾いていたのがよかったかも! と月姫は思う。
仕事で歌をうたっていたし、もともと音楽が好きだった。
「そうか。……実はね、今度の管弦の宴で、私も楽器を演奏しようかと思っていてね。月姫もいっしょにどうかと思って訊いたのだよ」
「帝は何の楽器が得意でいらっしゃいますか?」
「私はやはり
帝は微笑みを浮かべながら言った。
支柱を使わない七本の弦の
「では、帝は
「実は、母上は――
「ええ! 大丈夫ですし、大変光栄です」
「これからしばらく、練習で忙しくなるけれど」
「頑張ります!」
ということは、あたし、
そう思うと、月姫は力が沸いてくるのを感じた。
嬉しい。
頑張ろう!
細々とした打ち合わせをして、
帝は
「ありがとう、
「はい。――月姫も喜ぶと思います」
「月姫が『竜の首の宝玉』を持って来た人と会う、と宣言したときはどうなることかと思ったが」
帝はくすくすと楽しそうに笑った。過ぎ去ってみれば、どうということもなかった。
しかし。
「だが、
「……偽物でよろしゅうございました」
「本当だ。それも、
「帝の
「しかし、あれは
「――恐らくは
「なるほどな。……用心せねばなるまいな」
「ええ」
「ところで、月姫が恋文での『会う』をよく理解していなかったのは……大変かわいらしいことだったね」
「……三月で成人したとは言え、やはり生まれて数ヶ月ですから。時折、そのようにかわいらしい様子を見せるのです」
「なんて清らかな姫なんだろうと思ったよ。……そう。私の手のひらに在った、光る月の球のように」
きっと、月姫が現れたときのことを思い出しているに違いないと、
「
「そうだな」
「
「もしかして、あの騒動も
「――分かりません。ただ、気をつけるに越したことはありません」
「私が鈴子との間に子をもうけなかったからいけなかったのかな」
「……
風が吹き過ぎた。
季節はいつの間にか廻っており、風は春のかおりを運んできた。
『そんなわけで、今度帝といっしょに
『月姫、楽しそうだね』
『はい!』
『この間言っていた、愛とはどのようなものか、については分かったのかな?』
『……それはよく分かりません。ただ、帝はあたしには、とても特別な方なんです』
『なるほど。――第一階層に戻る日も近そうだな』
『でもまだ、一年も経っておりません』
『今お前が第一階層に戻ったら、魂のよき管理者になれることだろう。魂を扱う者の心構えというものが大事なのだよ』
『でも、まだ管弦の宴がありますし、それに典侍としての仕事もあります』
『そんなもの、どうとでもなるよ、月姫――いや、凛月。よき管理者として戻ってくるのを待っているよ』
『
月姫が月白との交信を終えて、ほうっと息をついたところに、
「月姫さま、こちらにいらしたのですか」
「ええ。月が見たくて」
「……
「
ゆふぐれに月の光ぞ清かなる君を思ひて歎き寝せむと
(夕暮れの空の月の光が清らかに美しく輝いています。月光る姫、あなたを思わずにいられません。お会い出来ないので、悲しみにくれて眠るのです。)
なぜだろう?
月姫は、
恋する気持ちを歌っているようでいて、それは表面だけのことで、内面がなぜかどろりとした禍々しいものが潜んで、牙を研いでいるように思えたのである。
月姫がそんなことを考えていたとき、「大変です、月姫さま!」という声が聞こえた。
「
「今、伊吹が来て――帝の御寝所から、呪術の
「え?」
呪術の
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