第十二話「竜の首の宝玉」を持って来てね!
しかし、今なおしつこく文を送る人物がいた。
「……なかなかですねえ」
月姫は、彼らからの文を見ていたら、なんだか無性に腹立たしい気持ちになってきた。
結局、
そして、今、ついにそのイライラが頂点に達して「分かったわ!」と言い放った。
「え?」
「
「ええ、まあ、会いたいというかそのあの」
会うというのは、つまりは、あの、恋人として夜を過ごしたいってことだと思うのよね。
でも、左大臣さまは月姫さまを帝と結婚させたいのだから、決してそのような間違いがないようにと、あたしたちにも厳しく目を光らせているのよ。手引きしたりしないように。……するはずもないのだけれど。だって、月姫さまは、たぶん……。
なかなか減らない文にイライラしている――ように見えて、実のところ別のことにイライラしているのだと
「
「はい、何でしょう?」
お父上である左大臣さまか、或いは帝本人に、文について何事かお願いするのかな、と思って
「あたし、『竜の首の宝玉』を持って来てくれた方と会うことにするわ!」
「は?」
「
「ええ、知っていますけど。蓬莱の山に住む竜の首には宝玉があるという、あの伝説ですよね? 大変美しく、七色に光る宝玉だとか」
「その『竜の首の宝玉』を取って来てもらうのよ」
「……それは大変なことでございますわ。蓬莱山はすごく遠くにある山ですし。山も大変険しいとのこと」
「ええ、大変よ。とても! でも、その大変さを乗り越えて来たのなら、会ってもいいかと思うのよ」
月姫は胸を張って言うのだった。
……なんか、話が明後日の方向に進んでいるような気がする。
月姫さまは帝のことがお好きなのだと思うのだけど、どうしてこのようなことを言い出してしまわれたのかしら。
殿は、左大臣さまはなんとおっしゃるかしら。
月光る姫、今では皆に月姫と呼ばれているその人の宮中への出仕を止められなかったばかりか、桂城帝に気に入られるのを阻止することも出来なかったからである。
「きいいいぃぃぃ‼」
奇声を上げ、
「殿! おやめください!」
女官が必死になって言うも、
月姫の元に男を通わせてしまえばいいと思っても、厳重な警戒で守られていて、つけいる隙はなかった。妙齢の男たちに文を送らせても、つれない返事ばかり。
しかも、どうやら帝のお気に入りらしいという噂がたち、帝の怒りを恐れた者どもは皆、文を送るのを止めたのだ。その噂には「鈴子さまが妻ではなあ……。帝もおかわいそうに。月姫とならばお似合いだ」という言葉までくっついていたので、
ああ! 鈴子がもう少しまともなおなごであれば!
いやいや、でも、月のもの(生理)も、年に数回はあるとかいうことだ。
子どもさえ出来ればよかったのに……‼
ああでも、お渡りさえないのであれば、もうそれも望めぬ。
ああいったい、どうしたらよいのだ……!
「父上」
振り向くと、一番下の息子の
「ああ、
「父上、ご安心ください。この、
「そうか」
「はい。まず、月姫への文を送り続けるよう、それとなくそそのかしている男たちがいます。その者たちに期待しましょう」
「そうか。でも、月姫はつれない返事をしていると聞くぞ」
「それが、此度、『竜の首の宝玉』を持って来た人と会う、と言ったらしいのです」
「『竜の首の宝玉』? そんなもの、どうやって取りに行くのだ」
「ですから、父上。そこはそっと手を貸すのですよ。さすれば、『竜の首の宝玉』も手に入りましょう。月姫も、よもや自分が言ったことを反故にはすまい。会わせていただきましょう。……会ってしまえば、どうとでもなります。月姫は恋もまだ知らぬ乙女でしょうから」
「それから、万が一、これが失敗したときのために……」
夜更けまでその話し合いは続いた。
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