四章 月光姫への求婚者たち
第十一話 月姫は嘆息する
「はあ」
「月姫さま、どうかなさいましたか?」
「ちょっとめんどくさくなってしまって」
月姫は山のような文に視線を送った。
「ああ」と
月姫は宮中の生活を楽しんでいた。
最近で
雅楽と歌に合わせて舞う、舞姫たち。
五節の舞姫は豪奢な衣装を身にまとい、とても優雅に舞った。
ゆっくりとした動作の五節の舞はこの世界にとても合っていると月姫は思う。
第一階層では時間はもっと早く過ぎた。しかし、ここはゆっくりと時間が進む。
帝と共に行った
帝と
そして、
それは、月姫に、
「月姫、いかがでしょう?」
「この香りは、まるで月から降って来る光のようでございます」
「月の光とともにやってきたあなたにそう言われると、とても嬉しいよ」
帝は満足げに目を細めた。
「月姫の
そのようにして、月姫は宮中の生活を楽しんだのだ。
薫物合わせだけでなく、貝合わせをしたり双六をしたりもした。
問題は、月姫の噂を聞きつけて送られてくる文である。
まず第一に数が多かった。
最初は丁寧に返事を書いていたのだが、次第にそれも追いつかなくなっていった。
もちろん、全てお断わりしていたのだけれど、あまりの文の多さに、何か間違いがあってはいけないとピリピリした空気が漂った。
帝と結婚させるつもりでいるのに、他の男に攫われたのは全く意味がない、というわけである。
それでも文は次から次へと届けられた。
月姫も
「もうめんどくさいわ」というのは、このところの月姫の決まり文句だった。
「お断りしているのに、なかなか諦めてくださいませんねえ」
「ほんとうに、そう。お父さまからもお兄さまからもきつく言われているから、帝以外には気のあるそぶりなんて見せていないわ」
それに[
……もしかして、[
ああ、でも、そんな使い方をしたことないから、うまく出来るかしら。
――それより。
月姫は帝の顔を思い浮かべた。
それより問題なのは、
あのあと何度試みても、[
……最も、[
月姫は
『月白さま、
『私にもお前の[
『それは月白さまが上位個体だからでしょう』
『
『え?』
第七階層の住人なのに? と月姫は思った。
『ともかくお前は、第七階層第八エリアを観察し、そして審判を下す任務がある。それを忘れるな』
『はい』
『三年の間、そこに住み、任務を果たすがいい。それがお前の贖罪となる』
『……はい』
そのとき、三年が、なぜだかとても短いように月姫には感じられた。
帝に[
「大丈夫だよ、月姫。鈴子さまは形だけだから。俺が保証する!」
そうは言っても、パートナーは一人という第一階層の常識から照らし合わせると、やっぱりなんとなくもやもやした。
そのことを月白に告げると、月白は『お前がそれを言うか⁉』と笑ったのだけれど。
でも、あたしは結婚したりしていないもん! そばにあたしを好きな人を置いて、いい気分を味わっただけで、特定の誰かに決めたりとかましてや夜を一緒に過ごしたりとか、そんなことしていないんだもん! ただ、あたしのことを好きっていう、ふわっとした甘い思いで満たされたかっただけ。
月姫はそう思うと、またため息をつくのである。
知識としては、一夫多妻制を理解しているのだけれど、それから
なんだか不安になるのよね。鈴子さまの存在。
そういう意味でも[
……あれ?
あたし、どうして不安になったりこんなに悩んだりしているのかしら。
帝に形式だけの妻がいることに。そんなこと、出仕前から分かっていたのに。
……でもだって。
なんだかもやもやするんだもん!
――こういうの、どういう気持ちなんだろう?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます