三章 月姫は、宮中に輝くばかりの光を放つ
第七話 月姫への和歌と返歌
赤子の月光る姫をこの両手で包み込んだのは私なのだ。小さな赤子でもとても美しかった。
成人の儀の折、お忍びで腰結の儀を見に行った。
月光る姫はすくすくと大きくなり、身体だけでなく精神的にも成長していると、
月光る姫に文を送り、
「
「今日も美しいですよ。あのような美しい姫を他には知りません」
「……そうか。お前は会っているんだよな」
「私も会いたいよ。何しろ、この手のひらの中にいたんだよ。あの即位の礼の夜、光に包まれて」
そしてそのように言って、自分の手のひらを見つめた。
「
しかし、あれは
鈴子は、まず見た目が少々残念だった。ただ細いばかりでとても大人の女性には見えず、しかも飾り立ててはいるものの、貴族の姫君らしからぬ雰囲気で上品さがなかった。顔立ちも美人とは言い難く、焦点の定まらない目つきで、目と目の間が離れていたし、口はいつもだらしなく半開きだった。
これでまだ、まともな受け答えの出来る姫だったらよかったのだが、何を言っても「そうね」と言うばかり。言葉を発することも少なく、好むのは人形遊びばかりで、身の回りのことは全て、
しかし、鈴子を気に入らなかったのは仕方あるまいが、その後も好きな女性がいるわけでもなさそうで、実のところ、
この整った顔立ちの聡明な帝のお世継ぎが欲しい、と。
何と言っても、
もちろん、
だけど、と
だけど、俺はとても単純に、
「月光る姫に――ああ、お前たちは
「どうぞ、帝も、月姫とお呼びください」
「では、月姫と呼ばせてもらおう。……月姫に早く
「かしこまりました」
父である左大臣
しかし、
そうして、
美しさも賢さも本当のところだったので、噂は瞬く間に広がっていった。
初めから
月姫は神さまからの使いの娘だ。もちろん疎かには出来ない。
されど、ごり押しをして
まず、愛されなくては!
そのために、帝に月姫がいかに素晴らしい女性であるかを伝えるのだよ。
そう力説していた父
我らが伝えずとも、月姫の噂は帝の耳に入り、そうして月姫に会いたい気持ちでいっぱいになっているようですよ、父上。
孝真はがそう思っていたとき、帝が言った。
「
そのときの
「はい、帝」
と答えながら
逢ふことを月の光の神に問ふ 手のひらの君に
(あなたと逢うことを、あなたを私のもとに遣わした月光の神にお願いしております。お逢いいただけますか? 私の手のひらにいらっしゃったあなたにずっと恋しています。)
月姫は帝の文を読み、ほうっと息を吐いた。
あたしも早くお逢いしたいです。かっこいいもの!
月姫は返歌をしたためた。
ゆふづく夜桂の影のおほふかな あまつ空なる君を思ほゆ
(夕月が射している夜、月の光が辺り一面に広がります。
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