第五話 月光る姫は三月で成人する
驚くべきことに、猫の子ほどの小さな赤子だった月光る姫は、たったの
赤子のときも美しかったが、成人した月光る姫は赤子のときよりもいっそう美しく、輝くばかりだった。
黒髪は豊かにさらさらと流れるようで、瞳は黒曜石のように濡れて光っていた。唇はふっくらとした桜色で、その唇から発せられる声は鈴の音のようで、聞く者を魅了した。
月光る姫は、
大納言である
月光をまとって神から遣わされ、しかも
普通の赤子とは異なり、驚くべき速さでしかもこの上なく美しく成長していく月光る姫の姿を見て、
これは良い!
我が家は男ばかりの三兄弟だ。
おなごが生まれていれば、
この三兄弟もまた、月光る姫を非常にかわいがった。男ばかりの兄弟の中、清らかな美しい妹が出来たのだから当然と言えば当然である。
「
「お人形がありますよ、月姫。お人形で遊びましょう」
「月姫、お菓子持ってきたよ」
月光る姫は、ごく親しい間柄では月姫と呼ばれるようになっていた。
「あなたたち、月姫がびっくりしていますよ」
月姫が兄たちに取り囲まれていると、いつも淑子がそう言い、月姫を抱っこして優しく頭を撫でた。
月姫が左大臣家の屋敷に来て、一ヶ月くらい経った頃、月姫は五歳くらいの幼女に成長していた。
「月姫は大きくなるのが早いのね。さすが神さまからの贈り物」
淑子は月姫がかわいくて仕方がないというように、月姫の頬を撫でた。
「おかあさま」
月姫は淑子に頬を撫でられると、そう言ってにっこりと笑った。月姫は誰よりも淑子に懐いていた。
「くう! 俺も月姫にあんなふうに笑いかけられたいっ」
「かわいいっ」
「私のところにおいで、月姫」
「
「ほんとほんと。天女の子どものようだった!」
兄たちがそう騒いでいると、「月光る姫は神さまからの授かり物ですよ」という声がした。見ると、この館の主、
「父上!」
月姫はそんなふうにかわいがられ、すくすく育ち、
平安朝のこの世、女子は十二歳から十四歳で成人の儀である
月姫は髪上げの儀を行い
月姫の美しさをおもしろくないと思っている人物がいた。
右大臣を父に持つ、大納言の
せっかく、我が娘
……まあ、そもそも無理なことだとは分かっていたのだが。
鈴子は純真な娘であった。
しかし、愚鈍であった。
いや、と
しかし、中身があれではやはり駄目か。
たとえ、中身が五歳の童女であろうとも、子どもさえ産めば問題はないと思っていたが、
そして、月光る姫の
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