第四話 凛月改め、月光る姫となりました!

 ああ、あたし、本当に赤子になっちゃってるー! 

 凛月りるは手足をバタバタさせた。


 しかし、うまく動くことが出来ないことが分かり、無駄な足掻きはやめて、辺りを見回すことにした。

 ……ここが第七階層ね。

 想像した世界よりもずっと美しくて、凛月りるは驚きつつも安堵した。


 なんだか、立派な式典の最中?

 ……あ! イケメンがいる! しかも何だか一番立派な恰好してる! ええい、あたし、あの人の近くに行きたい! イケメン好き。好みのタイプ!

 凛月りるがそう思うと、光る球体はふわふわとその人物の方向へ向かった。

 あら、この光る球体も結構便利なのね!


みかど、お気をつけください!」

 ああん、イケメンとの間に邪魔が入った!


 ん?

 あたし、この階層の言語が分かるみたい。

 すると『第七階層第八エリアの言語や文化に関する基礎的な知識は脳内に入れておいた』という月白つきしろの声が響いた。

 なるほど。

 なかなか便利じゃないの。


「大丈夫だ、何ともない」

 イケメンが言う。

 そうそう、平気よ! この光る球体の中にはあたしがいるだけだもの。

 凛月りるの入った光る球体はイケメンの手のひらの上に行った。

『移動球体を解除する』

 分かったわ。このまま解除されれば、イケメンの手のひらの中にいられる! 月白つきしろさま、今よ!


 凛月りるがそう思ったとき、光る球体は光を放った。そして、凛月りるの脳内に、また何か新たな情報が入って来たのを感じた。

『この場における重要人物の情報も入れておく』

 ……なるほど、このイケメンはみかどなのね。うふふ。

 光る球体が消え、凛月りるはイケメン帝の手のひらの中に収まった。

 きゃん、なんかいい感じっ!


「神よりの使いですとも」という声が凛月りるの耳に入る。

 神さまの使いかあ。

 うーん、管理者は神さまとは違うけど、神さまに一番近いところにいるから、まあそれでいっか。

 などと凛月りるが考えていると、「姫ですね」という声が聞こえてきた。

 きゃん! ちょっと! このオヤジ、どこ見てんのよ! えっち!

 ムカムカしたけれど、イケメン帝の手のひらの中だったので凛月りるはぐっと堪えた。


 すると、そのオヤジが「月の光から現れた、月光る姫」と言うのが聞こえた。

 あたしの名前は凛月りるなんだけど……ま、いっか。月光る姫で。

 月白つきしろさま! あたし、この第七階層では月光る姫って名前です! よろしくね。

 月白つきしろのため息が聞こえたような気が、した。


 大丈夫よ、月白つきしろさま。

 あたし、出来るだけ早く第一階層に戻れるように頑張るから! 幸い[魅了チャーム]の異能力はそのまま使えるらしいし。[魅了チャーム]を使いまくれば、きっとすぐに任務を果たせるわ。


凛月りるよ。なぜ第一階層から落とされたのか、その理由をよく考えてみるのも大事なことだ』

 月白つきしろさま、分かっているから平気よ。

 あたし、今度は上手に[魅了チャーム]を使うから!

『そういうことではない』

 早く第一階層に帰りたいもん。

『……ともかく、任務を忘れるな。それから己の罪と向き合うがいい』

 はぁーい。

『通信は月の夜に』

 月白の声はそこで途絶えた。


 凛月りる――月光る姫は、目を大きく見開いて、自分を見ている人物の顔をじっと見た。

 美しく着飾り、「桂城帝かつらぎてい」と皆に呼ばれているその人は、第一階層にいたときの自分と同じくらいの年に見えた。細面の、整った美しい顔立ち。切れ長の黒い瞳が月光る姫をじっと見つめた。


 あーん、どきどきしちゃう。かっこいい!

 早く成人したい。

 成人した姿で、この人に会いたい!

 月光る姫は、月白つきしろに言われたことなど、ほとんどどこかに飛んで行ってしまっていた。

 第一階層で起こしたトラブルもどこかに消し去り、月光る姫は成人後の生活に思いを飛ばし、わくわくした気持ちでいっぱいになっていた。



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