第二話 第一階層の管理者

 世界は、零点源ゼロポイントを起点に第一階層から第十二階層まで分かれている。


 第一階層は神のいる零点源ゼロポイントに最も近く、世界の魂の管理を行う場所であった。

 この世の生き物は全て、死んだら魂となり一旦零点源ゼロポイントに行き、その後第一階層でさまざまに振り分けられる。どの階層に行きどのような生き物となるのか。


 第一階層の人々は管理者と呼ばれ、老いもなく病もなく、また寿命というには気の遠くなるほどの長い時間を生きた。そうして、変化のない静寂の中で世界中の魂の管理を行っているのである。


 第一階層の住人に「死」の概念は希薄で、魂の器であるところの肉体が機能不全に陥ると、自ら魂の輪廻を行い肉体の器を用意し、第一階層に再び生まれていた。

 つまり、第一階層の住人はずっと、第一階層のままなのである。

 第一階層では、男女が番になって命が生まれるのではない。第一階層の、「生まれ出る場」に出現するのである。赤子として出現し三月みつき経てば成人し、魂の管理をするようになる。


 凛月りるは、何百年生きたか分からない住人の多い第一階層において、非常に若い管理者だった。なおかつ、その魂はもともと第一階層にあったものではなく、下層階にあったものだった。これも非常に珍しい特性だった。

 魂の管理者たる第一階層の住人は、転生後の行き先を選ぶことが出来る。ほとんどのものは同じ第一階層を選ぶが、稀に他の階層へ行くものもいた。その場合、欠員が出るので、別の階層の魂が第一階層に来ることになる。凛月りるはそういう魂の持ち主だったのだ。



 あーあ、下位階層に落ちるなんて、ほんとついてない。

 凛月りるは光の球体の中で、独りごとを言った。

 光りの球体は不思議な空間で、居心地は悪くなかった。ただ、下位階層に落ちるのが憂鬱なだけだった。


 第七階層って、人間世界よね。

 野蛮だった気がする! ああ、もうせっかく第一階層の管理者になれたのになあ。

 つまんない。

 凛月りるは唇を尖らせた。

 

 魂の管理をし、神のいる零点源ゼロポイントに最も近いところに住んでいるからか、第一階層の人間は特権意識を持っていた。


 もっとも、あたし、第一階層に出現する前は、第一階層じゃなくて、下位階層に住んでいたらしいんだけどね。――全然覚えてない。あたし、どこに住んでいて、どんなふうに生きたのだろう?

 第一階層から第一階層への転生は記憶が引き継がれるのに、ほんと、ずるいよね!


 ……あたし、大丈夫かなあ。第七階層へ行って。


 凛月りるがそう不安に思ったとき、月白つきしろからのメッセージが脳内に届いた。

凛月りるよ、任務内容を伝える。任務は第七階層第八エリアの観察。詳細は第七階層に着いたときに脳内に知らせる』

 えー、めんどくさそう。

 凛月りる月白りるからのメッセージに心の中で答えた。


『なお、転生の形態をとるので、第七階層に落ちたとき、お前は赤子の姿になる』

 えっ! やだ! どういうこと⁉ 死んじゃったらどうすんの!

 ――まあ、死んでも魂が零点源ゼロポイントに戻るだけだろうけど。でも、赤子なんていう脆い存在で行くなんて、すっごく嫌だよー!


『任務のため、記憶はそのまま維持出来る』

 記憶なかったら、任務出来ないよねえ。

『それから、ギフトとして、異能力[魅了チャーム]はそのまま使えるものとする』

 やった!

魅了チャーム]があれば任務もちょろいよね。

 凛月りるはうふふと笑った。

『なお、第七階層と第一階層は月を中継地点として通信することにする』

 はいはーい、了解です!



 凛月りるがそう答えたとき、凛月りるを取り囲んでいる光の球体がひと際大きく輝いた。

 眩しい……!

 凛月りるの意識はそこで、一旦途絶えた。

 そして、次に目を覚ましたとき、凛月りるの目は見たことのない世界を捉えていた。



 ……ここが第七階層?

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