第十二話 幼馴染
生徒会。
会長、副会長、会計、書記、庶務の五人からなる学院における上位者だ。
会員一人一人が一教師を超える権限を有し、独断で生徒を停学させる事まで出来るという、どうしてそうなったのかわからないほどの権力者だ。
そんな生徒会役員の巣窟である生徒会室に呼ばれたわけだけど、正直緊張はしていなかった。
ただ思うのは、将来的な立場を約束されているであろう生徒会役員たちに俺の秘密が知られてしまう事についてのリスク。
察していたイズキが言っていたように、この秘密は大火の火種になりうる。それによって最も被害を受けるのは俺じゃない。
ロロコだ。
「失礼します!」
生徒会室の扉をノックし扉越しに知っている声から入室許可を貰うと、改めて挨拶してからドアノブを捻った。
あの日から半年。白夜との会話であいつが副会長になっている事を知った。
嫌われている自覚はあるけど、下手な嫌がらせをするような奴じゃない。最悪の場合には庇ってくれると信じたいけど……どうかな。
学院における上級階層、生徒会。そんな彼女たちがどんな部屋で活動しているのか少しだけ興味があったけど……普通だ。
部屋の中央にあるのは大テーブルに五つの椅子。
ふかふかソファーとか、会長専用コの字型のテーブルと玉座みたいな高級椅子なんてものはなかった。
……まあ、現実はこんなものか。
ついつい憧れに意識が向いてしまったけど、何より重要なのは生徒会の面々だ。
生徒会が学院内の治安維持も担当している以上、戦力としてその実力は白夜やイズキと同等か、それ以上のはずだ。
ロロコからアドバイスを貰いながら訓練し、騎士見習いが相手なら負ける事はないだろうと太鼓判を押されてるけど、生徒会は別だよね。
白夜とイズキ。既に同等以上の前例がいるわけだし、生徒会のレベルは同じかそれ以上だと思った方が良い。
実の所、結構緊張してたんだけど……おや?
「来ましたね。志季春護」
「や、やっほー、春護君」
生徒会室に居たのは生徒会のフルメンバーではなく、見知った二人の少女だった。
長い黒髪をポニーテールにし、記憶の中にある半年前の姿とは違って眼鏡を外している小柄な少女、大空常。
彼女は生徒会役員じゃなかったはずだけど、どうしてここにいるんだ?
もう一人は元々長身でスタイルも良かったけど、この半年で更なる色気を身に付けた少女。煌めく長い金髪をハーフアップにしている小泉雫だ。
小泉は一年の頃から生徒会役員だったけど、二年になった今は副会長になっているらしい。
ちなみにだけどちょっとした暗号を残そうと思います。常はAで小泉は……黒曜より大きいしF以上かな。
大空が小さく、小泉が大きい。……まあ、苗字は関係ないよね。
「聞いてるかもしれないけど紹介しとくね。こいつは水花、俺の新しい相棒だよ」
「改めて水花です。春護所有の魔装人形です」
自己紹介を終え、丁寧に頭を下げる水花。
「わたしは生徒会副会長の小泉雫です。今朝は勘違いで一方的な失言をしてしまい、本当にすみませんでした」
「えっ? だ、大丈夫です。アタシは気にしてないです」
水花に対する失言というより、俺に対する暴言だよね。こっちに謝罪は? どうせしませんね。わかってます。それで良いですよ。
「ですが一つ良いですか?」
「え? え、ええ、勿論です」
あれ、水花は一体何を言うつもりだ? それにこの感覚は……怒ってる?
無表情のまま小泉の目を見詰めると、水花は首を傾けた。
「もしも次、春護に不当な攻撃をしようとした時には、その命を失う覚悟をする事です」
「——っ、すみませんでした志季さん。勘違いで叩こうとして」
水花にではなく、俺に向かって謝罪の言葉を口にした小泉。水花にとってもそれが正解だったんだろうね。いつの間にか目を伏せて半歩下がっていた。
「まあ、あれは仕方がなったかなって思うけど。水花? そんな過保護にならなくて平気だからね?」
「アタシは春護の魔装人形です。何より春護の身が優先されるのは突然の事です」
「……そっか」
受け取り前? 契約前? 初対面の時は殺意マシマシで殺しに来ましたけどね……とは流石に言えないか。やめておこう。
「あはっ、水花ちゃんって面白いんだね。魔装人形って聞いてたけど、本当に人間みたいだー」
「ど、どうもです?」
楽しそうに笑いながら、水花に向かって手を伸ばす常。
なんだが随分と明るくなったね? 明らかに声色が今までとは別人のようだった。
水花が困惑した顔をして手を伸ばそうとした途端、常は捕まえるかのように両手でその手を包み握っていた。
「あたしは大空常! 仲良くしてねん!」
「水花です。よろしくです?」
「えー、なんで疑問形なのさー。それにしてもやっぱり……ううん、なんでもない」
「どうかしましたか?」
「綺麗な茶髪が羨ましいなーって思っただけだよん。黒髪ってありふれててつまらないじゃん?」
「それは俺にも刺さるぞー」
別に黒髪が嫌だって思った事はないけど、髪は女の命っていうらしいし、常にとっては重要な事なのかな。
それに普段一緒にいる小泉が金髪だからね。目立つし、憧れもあるのかもしれない。
「春護君は男だから別問題でしょー?」
「やっぱりそういうもの?」
「そゆこと!」
確かに俺は髪にこだわりとかないからね。同じ黒髪でも俺のと常のじゃまるで違う。艶っていうのかな?
きっと常は日頃からちゃんと手入れをしているんだろうね。
俺はシャンプーして終わり。わざわざ乾かすのも面倒だし、自然乾燥させるのがいつもの事だけど、確かそういうのって髪には良くないって聞いた事ある。
「アタシは大空さんの黒髪、とても綺麗だと思います」
「おおっ、嬉しい事言ってくれるねー。はい、ぎゅー」
「わわっ」
嬉しそうに笑いながら水花を抱き締める常。
二人とも小柄だからなんだか見ていて微笑ましいね。
……ここまで気にしてなかったけど、水花は……Dかな。イズキより大きく、黒曜よりは小さい。
常と水花がくっ付いている姿は、なんというか良いね。
……なんだろう。急に戦いの毎日から日常に戻って来たからかな。思考回路がどうもロロコっぽいというかなんというか……まあ、自分で言うのもアレだけど思春期だから仕方がないって事で。
「志季さん」
「えっ、な、何?」
「水花さんは本当に魔装人形なのですよね?」
「うん、そうだよ。見てたでしょ? 水花が[魔装]を使ってる姿」
「……はあー、わざとですか?」
呆れたようなため息をした後、腕を組んでジト目を向けて来る小泉。
「うん、そうかな。だからちゃんと話すよ。小泉にも心配かけちゃったみたいだし」
「わたしはあなたの心配なんてしていません。ただ常ちゃまが——」
「はいはい、それでも気にしてくれてたんじゃん。それに、白夜の暴走だって止めてくれたわけだしさ。流石にあの時は焦ったよ」
白夜のアレは明らかにオーバーキルだったと思うんだよね。手加減してくれていたと信じたいけど……してなさそう。
どんな魔操術だったのかわからなかったけど、対応するのは難しいと思うんだ。
「あれは生徒会役員としてするべき事をしただけです」
「そういえば小泉の魔操術って初めてみたけど、何あれ? 威力と弾速も凄いけと、何より術式の構築と起動速度早過ぎじゃない?」
「褒めても何も出ませんよ。そんな事よりそろそろ本題に入りましょう」
小泉に言われ二対二で向かい合う形で着席すると、とりあえず質問。
「なあ、小泉がいるのは当然として、常がいる理由は?」
「言葉には気を付ける事ですね。常ちゃまのおかげでこの状況になったのですよ」
「……説明求む」
常大好き健全百合っ子な小泉の話は難解な事が多い。普段はわかりやすいんだけど、常が関わると一気に難易度が上がる。
実際に今だって、何かをしたのは常であって小泉ではないと思うんだけど、普段の冷めた表情から一転してドヤ顔だ。
腕を組んでるのはサービスかな? 元々主張の強い部分が更に強調されていて男の本能が喜んでおります。
説明はこのまま小泉が? それとも何かをしたらしい常がするのかな?
どうやら正解は常みたいだ。
「ねえ春護君。単刀直入に言うけど……その、どうして魔装具無しで魔装術式が使えるの?」
「——っ!」
彼女の言葉に驚いていたのは俺ではなく、隣に座っている水花だった。
いや、驚いたというより、反応したって言うべきなのかな。
その事について誰も気にする事なく、話は続いた。
「あたしも春護君と同じ
人間大の魔装具じゃないと無理か。わざわざそんな言い方をしたって事は、大体わかってるんだろうね。……そっか、だからか。
「ありがとね常」
「……そっか。やっぱりそうなんだ」
「常ちゃま? 一体何を言っているのですか?」
小泉はわかってないみたい。やっぱり魔装科と魔操科の違いなのかな。
座ったらまま目を伏せている常。当たって欲しくはなかった。そんな風に見えた。
「春護さん、説明して下さい」
「うん。常は察したみたいだけど……というか、同じ魔装科だとしてもなんでわかったのって感じなんだけど、やっぱりこれを見てもらうのが一番早いかな」
「なっ、何をしようとしているのですか!」
「いずみん」
「常ちゃま……」
ありがとう常。そういう意味でも常がここに居てくれてよかった。
俺の行動に過剰な反応を見せた小泉。いや、小泉ってモテるのにそういう話を聞いた事がないし、まだまだ乙女なのかな。
正直なところ常の事をそういう目で見てないかなって心配ではあるけど、健全な内は放置で良いって思ってる。
いや、どっちにせよ常が嫌がってない内は干渉するべきじゃないかな。
そろそろ話を戻そうか。小泉が反応した俺の行動とは、あまりにも唐突過ぎる脱衣だった。
ブレザーのボタンを外し始めた段階で小泉は立ち上がっていた。
その反応が想像できなかったわけじゃない。だけどこれは信頼かな。常がいるから大丈夫だって思ったんだ。
常の言葉と視線によって動きを封じられた小泉は、随分と葛藤しているみたいだったけど大人しくしてくれた。
ブレザーを脱ぎ、ワイシャツのボタンも外していく。
「こういう事だよ」
そして俺はそれを見せた。服によって擬態していた内側の真実を。
「「「——っ!」」」
水花を含めた全員が目を見開いていた。
察していただろう常も同じように驚愕していた。半信半疑……いや、信じたくなかったんだろう。
自身の常識が壊れる事。それは……これ以上経験したくないほどの恐怖だ。それを俺は良く知っている。
三人の視線が注がれているのは、ワイシャツのボタンが全て外れた事で露わになっている俺の身体の一部。
正確に言うなら左胸だ。
「……春護、それは何?」
いつも通りの無表情のまま、目を丸くし、震えた声を出したのは水花だ。
そんな彼女の目に映っているのは、俺の左胸から露出している……明らかな人工物だった。
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