3話 抑えていた想い

「わ、分かったから! 先生、誰かに見られちゃうってぇ……いつも、誰か探しに来てたでしょ。先生!」


「あ、そ、そっか……そうだな。続きは……放課後だな」



 はい? 続き……!? 続きあるの? この続きって……なに? え? き、キス? その先とか……? わぁ。



「続きって……なに? 放課後?」


「嫌か? 恋人同士らしい事をしたいんだろ? 先生もしたかったんだ……抑えて抑えて我慢をしていたんだぞ」


「……はい。お、お願いします」


「お願いされなくても……な」



 先生がニコッと笑い、再び抱きしめてきて……不意に私の頬に、ちゅっ。と音を立てキスをして来た。



「わ。わわわぁっ。キス……先生が私に……はぅ」



 初めての異性からの頬笑のキス、抱きしめられるという事態に顔が熱く、鼓動が更に早くなりクラクラしてくる。


 

「……キスと言っても頬にな……。座って話すか」



 あ、それ助かります……立っていられないし。これ以上は無理だよ……座らせてぇ。すぐ帰るつもりだったので何も用意してきてないけど。

 

「……教科書もノートも用意してないよ」


「大丈夫だろ。進路指導とか相談的な……感じに見えるだろ」



 ニコニコの笑顔になった先生と、向き合って話をした。いつもの雰囲気とは違う。先生の頬が少しだけ赤く、表情もいつもの表情とは違い……恋人同士といるような表情をしていた。


 先生も、こんな表情をするんだなぁ……それを私に向けてきているんだ。嬉しいかも。


「ねぇ。先生、その表情は他の人に見せないでよね」


「ん? どんな表情をだ? いつも通りにしているつもりだぞ?」


「ふぅ〜いつも通り……そんな恋人同士でいるような表情で? 過ごしてたの? へぇ〜。てっきり私だけに、その表情を向けてくれてると思ってたんですけど。それは残念だなぁ……」



 今までの仕返しのつもりで、ちょっとだけイジワルな言い方をした。


  

「……照れ隠しで言っただけだ。分かっている……。浮かれている顔をしてるって言いたいんだろ……実際、浮かれてるしな……」



 ヤバい。という感じで慌てて言い訳をしてくるので、その仕草が可愛い。こんな感じの先生を見るのも初めてだ。


 

「なぁ……放課後だが、移動教室棟の屋上へ上がる階段で待ち合わせで良いか? 先生が先に行って、待ってるから来てくれよな?」



 そ、そんな場所で会うの!? えぇ? まぁ……私が望んでたんだけどさぁ、急すぎじゃない? はぅぅ……どうなっちゃうの私。


 そんな考えをしているけれど……嬉しさと期待で胸がいっぱいだ。早く……放課後になれっ! と心の中で思っていた。


 いつもは授業を真面目に聞いていて、気付けば授業が終わっている感じだった。だが今日は、授業に集中どころか放課後の事ばかりを考えていて、やたらと授業が長く感じていた。


 もぉ〜今日は、時間が経つのが遅くない!? こんなに授業って長かったっけ? でも……この待っている時間も好きかもっ♪ こんな気分は、先生と付き合い出した日とか前日の夜とかワクワク、ドキドキしていたなぁ……


 帰りのホームルームの時間に、先生もソワソワして帰りの時間になる前にテキパキと説明と予定、持ち物の話を終えた。その後は、時計をチラチラと見て終了の3分前にシビレをきらせた。


 

「ちょっと早いが、終わりにするが……他のクラスはホームルーム中だから静かに帰れよ〜!? 苦情が出たら、次から無いからな!」



 一応、先生らしいことを言って早めに終わらせると、チラッと私の方を見て、心配そうな表情をして足早に教室を出た。


 えっと……早く行っても、先生がいないよね? 遅く行った方が良いのかな? でも、今の時間なら誰にも会わずに行けるよね。それを考えて早めに終わらせたんじゃ? うふふ……♪ 取り敢えず普通にして向かおうっと。


 とは言いつつも、周りを気にしつつ後を着けれられていないか注意をして移動教室棟へ向かった。まだ、ホームルーム中で、同じクラスの人が数人見掛ける程度だった。


 階段を登って後ろを振り返り、足音を気にしていたらおかしく思えてきた。


 私の後を付けてくる人なんかいる!? いる訳が無いじゃん! そんなにモテることもないし、友達は居るけど……放課後まで遊ぶような友達はいないしね。


 屋上へ続く階段を登ると踊り場があり、屋上へ出る扉のすりガラスから陽の光が入り明るくなっているが、掃除をされている気配は無く埃っぽい。もう一つの扉には窓が無くスチール製の扉がある。


 ここが待ち合わせの部屋かな? 随分と厳重そうだけど……なんの部屋?


 ノブに手を掛けてみるが開く様子はない。


 さすがに、まだ早かったかぁ……。先生は職員室に戻って鍵を持ってくると思うから、もう少し待たないとか。


 陽の光でポカポカして眠くなってくる……ウトウトしていると。



「ヒマリ……おい。こんな所で寝るなよ」



 先生に呼ばれる声がして目が覚めた。

 


「うぅぅ〜ん……寝てたぁ?」



 ほんやりと先生の顔が見えて、ニコッと笑い返事を返した。笑顔を返された先生は呆れた表情をしていたが、笑顔を返されて恥ずかしそうに目を逸らし、文句を言ってきた。

 


「お前、警戒心ゼロだな……人が少ないから、ゆっくり来いって行っただろ?」


「そうだっけ? えへへ……動揺してて、聞いてなかったかも」


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