女戦士




「長の無礼を、お許しください」



若い女は旅人に歩み寄ると、頭を下げた。


貴女あなたは…?」


旅人は、少し戸惑いながら尋ねた。


というのも、今まで見てきた女たちはみな丸腰まるごし簡素かんそな布の服を着ていた。それは村の長でも、変わらないものだった。

例外と言えば、村の門番が、腰に剣を下げていることだけだった。


ところが、この女はこれからいくさに向かわんばかりに武装している。


俗説通りの女戦士アマゾネスがそこにいた。



殿方とのがたを驚かせてしまいましたね、如何いかんせん旅路たびじは物騒なもので」


女は長の孫娘で、これからアマゾーン国の女王のもとに向かうという。



「祖母はかたくなに村の伝統に固執こしつして、貴方あなたこばみました。これは、殿方に対する侮辱ぶじょくです」


「いえ、私こそ不躾ぶしつけな真似を」


「いいえ、おかげで決心がつきました。私たちは村に閉じこもるのではなく、外に活路かつろを見いだすべきなのです」


そう言うと孫娘は、家が立ち並ぶ方に向き直った。



「みんなも、そう思うわよね!」




すると、家々の裏からこっそり様子を見ていた何人もの女たちが、おずおずと顔を出した。


「長のことはもう、心配しなくていいわ。今後この村を治めるのは、母になるでしょう。私たちはみやこを目指しましょう!」



孫娘の言葉に、女たちの表情が晴れる。

ともに、さらに大勢の女たちが姿をあらわした。


周囲から歓声がこり、女たちは孫娘を取り囲んで、何度も名前を呼びながらたたえはじめた。




「殿方、貴方を都にお連れしたいのです!」



めどなく増えつづける群衆をき分けて、孫娘が旅人に手を差し伸べる。



「私を…ですか!?」



「都には、貴方あなたのような使者が世界中の国々から集まります、どうか女王様に会ってください。きっと喜ばれるでしょう」



唐突とうとつもうに、旅人は驚きを隠せなかったが、同時にある考えも浮かんだ。


(これは、アマゾーン国の都に乗り込む絶好ぜっこう機会きかいだ)



これをに我が王国とアマゾーン国が友好関係をきずけば、周辺国への牽制けんせいになるだろう。



アマゾーンの住む地域は、周辺国しゅうへんこくをそれぞれ囲むように広がっているので、良い緩衝かんしょう地帯ちたいになる。それに、彼女たちが平和を好む気質きしつとはいえ、少数でも好戦的な者がいた場合、相手国あいてこくの手に渡るのは好ましくない。


彼女たちについては、まだ未知な部分が多い。

うちめた戦闘力はあなどれないからだ。



それにしても、他の国々に先をされているとは、知らなかった。急がねば。




「はい!是非ぜひともお連れください」



旅人が孫娘の手を取ると、女たちはどよめいて、それからますます喜んだ。




の恩寵だ!」




みなが叫ぶと、孫娘がたしなめる。


「恩寵は神々からたまわるものですよ、人間 風情ふぜいが勝手に決めて良いものではありません。それに、この方は大事な使命があるのですから」



女たちは急に静かになって、二人ふたりから距離を置いた。



「殿方は、私が責任を持ってお守りします」


「ありがとう」




二人は肩をならべて、石畳の道を歩いた。





「実は、お願いがあります」


「何でしょうか?」



「これから、私を迎えに従者が来ます。都に行く前に、会ってこれまでのことを伝えておきたいので、しばらく待ってもらえませんか?」


「わかりました。村の入り口には、旅の支度したくませた者たちがいます、そこで待ちましょう」





門の前には、孫娘と変わらぬ装備そうびかためた女戦士たちが、馬を連れて待機していた。



「殿方、さっきは、すまなかった」


門番の女が、二人に駆け寄ってきた。



「まさか、村の外から男が来るなんて信じられなくてな、目を疑ったよ」


門番は頭をきながら、気まずそうに笑う。



「それに、うっかり村に入れたら、面倒なことになりそうでな…。いやー、本当にははぎみが来てくれて、よかったよかった」


「母は、祖母を説得するために、貴方を会わせたのです。祖母は外の文化には、とても興味を持っていましたから」


孫娘は、門番を一瞥いちべつしてから、旅人を見た。


「しかし、祖母は村の男を守ることばかりにこだわって、村は衰退する一方なのです」



「男と会うために、いちいち村の許可なんて取ってられるかよ!」



二人が振り返ると、女たちがいた。女たちは二人を追って、門の周りに集まったのだ。



「私たちは、自由になるんだ!」



女たちは、一斉いっせいにニッコリ笑った。




やがて日がかたむくころ、旅人の従者が戻ってきた。



「村のことは、母とみなに任せます。どうか、この村に繁栄が戻りますように」



孫娘は、女たちに見送られながら、女戦士たちと共に都を目指して出発した。




「若さま、本当に行かれるのですか?」


「なに、心配するにはおよばぬ。私は王国のほまれになるのだ」



彼女たちのあとつづいて馬をすすめながらも、主人の身をあんずる従者のとなりで、旅人は意気いき揚々ようようと馬をあやつる。



「そうですか…なら、ここでお別れですね」


「良い知らせを、待っていてくれ」



旅人は、彼女たちのもとへ去って行った。




従者は王国へ帰るべく、馬の向きを変えた。



アマゾーンに比べれば小柄こがらだが、それなりの鍛錬たんれんんだこの女性は、今まで何人なんにんも主人を守り送り出してきた。


いことだ、よろこばしいことだと自分に言い聞かせながら、彼女は馬を走らせる。




「若さま…」




おだやかな平原に、聞く者のない声がひびき渡った。




どうかお元気で!










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