第1話佐倉あまねはvtuberになりたい!その1

いつものように学校に通う。


陽キャやヤンキーがワイワイガヤガヤしながら戯れ会い、女子たちは大股びらきで大口を開ける。


下品だ。


俺は下を向きながら目を合わせないように廊下を歩く。


教室に着いたらホームルームが始まるまで俺は寝るかタブレットPCでイラストを描くかのどちらかをしている。


ルーティーンと化している。


授業中は流石にイラストを描くわけにはいかないからノートに落書きをしながら黒板に書かれた文字を写している。


放課後は誰もいない教室で一人イラストを描くのが楽しみだ。


自分がどこまで早く上手に描けるようになったのかを実感するのが楽しみだからだ。


天雲五月先生のアーカイブを見直しながら俺は彼女のファンアートを描いていたのだが、「やべぇ、トイレ行きたい……」


すぐさまトイレに駆けつける。


トイレで用を済ませた後、俺はトイレの洗面所で手を洗い、手をズボンに擦り付け水木を拭き取る。


教室に戻ってファンアートの続きを描こうと入ろうとしたその時だ。


「みんな帰ったはずなのに……」


一人だけ、俺の机でタブレットPCを眺めている女子がいた。


最悪だ……


よりにもよって学年一の美女と称されている佐倉さくらあまねがいたのだ。


「あっ、あのぉ〜……」


俺はか細い声で彼女に訊ねる。


「もしかして、これって天雲五月先生のファンアート?」


意外なことに、佐倉あまねは彼女の名前を呼んだのだ。


絶対バカにされる、適当に誤魔化そう。


そう思ったのだが……


「実は私、天雲先生のファンなの!稲葉君もそうなの?」


彼女の目は宝石のように輝き、俺に問う。


「そっ、そうだけど……」


俺はオドオドとした声で頷く。


天音みこは誰にでも優しく、特に男子からの人気が高い。


普通の高校生ならみんな彼女に欲情するのだが俺は違う。


俺は二次元の美少女でなければ恋愛感情を抱かないからだ。


それなのにあいつは俺の心の中にズケズケと入り、俺の憩いの空間を邪魔する。


早くどこかへ消えてほしい。


俺のファンアートを描く時間を返せ!


生身の女の言葉はとにかく信用できん、何か裏があるはずだ。


とにかく疑り深く、人間不信な様子で俺は彼女が手に持っていたタブレットPCを取り上げ、バッグに入れる。


「待って!」


「んっ、何?俺、用があるから……」


彼女は俺を引き止めようとするが俺は声を振るわせ小走りで教室を出ようとした。


「私も五月先生のファンアート描いてるから見てほしいの!」


俺は後ろを振り向き、彼女はスマホを取り出し画面を見せる。


「うっ、上手い!」


俺より全然上手い。


その上、容姿も漫画やアニメから飛び出したかのような妖艶さだってある。


完敗だ。


「私ね、実はvtuberになりたいの!でも……」


彼女はそう言いながらも言葉を詰まらせる。


「二次創作はできても一次創作が苦手で……、だから……勇気を出して言うね」


俺は帰るタイミングを忘れてそのまま聞き入ってしまう。


「私、vtuberになりたいから神谷君にイラストのデザインを担当してほしいの!」


「はぁっ!?」


いやいや、俺より上手いのにイラストのデザインしろ?


バカにしてるのか?


俺よりイラストだって全然上手いのに、一次創作ができないからってさ。


「なんで俺なの?一度も会話したことすらないのに……」


「snsで五月先生のファンアート見かけた時に、神谷君の絵だ!てすぐに気づいたんだけどね、五月先生のファンアートを描く前は一次創作をしてたじゃない?だから、同じクラスの稲葉君にイラストのデザインをしてほしい!て思ったの。私ね、神谷君がいつも昼休みや授業中に絵描いてるの気づいてたの」


まぁ、五月先生のファンを名乗ってるわけだしsnsをやってもなんら不思議ではない。


でも、俺はフォロワー数もたった二桁の底辺だぜ?


そんな俺のイラストを見てる人がいた?


信じられない。


「デザインって、俺そんなのしたことないけど……」


生身の女は苦手だし断ろう。


「イメージとしてはね、清楚でおっぱいは大きめで母性的でロングヘアーのお姉さんに描いてくれたら嬉しいな!」


人の話を聞いてないなこいつ。


しかも、恥じらいもなしにおっぱいとか言っちゃってるよ。


俺は溜め息を吐く。


「それ、まんま佐倉さんじゃん。つか、俺より絵上手いんだから自分で描けよ!」


俺は無愛想な表情で冷たく返す。


「どうして?私は神谷君のイラスト好きだよ?」


眉をひそめながらそう言う。


「とにかくダメなものはダメだ!自分でデザインできないなら他当たってくれ!俺は生身の女に興味はない!」


俺は強い口調で断り、そのまま教室を飛び出した。


彼女は必死に引き止めようとしていたが俺の耳には一切入らず、廊下を駆け抜ける。


佐倉あまねの表情はどこか悲しげだった。


俺だって分かってる。


あんなこと言わずに素直にデザインすればよかったと。


明日謝ろう。


そう思いながら自宅への帰路を辿る。

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vtuberに恋をする〜少年は底辺から成り上がる〜 JoJo @jojorock

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