第2話 急な知らせ


時は数日前に遡る。


王城で至急集められた貴族会議は、どの顔ぶれも有力貴族たちだ。


「…実は、隣国ユリアスが我が国を攻めようと兵を動員していることがわかった」

「…!」


それまで貴族としてのプライドだろうか、あるいは偉そうなその狭い心からだろうか、余裕ぶっていた彼らの顔が真っ青になる。

隣国ユリアスとはーーこの二百年間、無敗の強国だ。その無敵さから代々皇帝は冷酷、無慈悲と言われ、それは子にも受け継がれるとか。

そんな国に攻められたらーー。


「どうにか…解決策はないのですか!」


大臣たちは顔を真っ青にして焦りながら尋ねる。

王はしばし黙り、それから重々しく口を開いた。


「ーー人質だ」

「は…」


その場にいる全員が息を呑む。


「…有力貴族の娘を嫁がせるか。あるいは子息をあちらの有力貴族の女に婿入りさせるかーー」

「そんなことできません!」


どこかの公爵夫人が口を開く。


「この国は皆役の立つために生まれています。それはわかっています!ーーけれど、ユリアスと我が国にしかない貴重な「魔法属性のある子女」をほいほい外にやるのですか!?」


魔法属性は、一般に、国を助けるためにあると教えられる。

実際貴重な使い手も多々現れ、国に貢献しているといっても過言ではないだろう。

そんな彼らになるかもしれない子女を、失っては損しかない、というのが夫人の考えだ。


王は口をつぐんだーーそのとき。


「…なら、魔法属性がなければよろしいのですわね?」


皆、言葉が発された途端に俯きがちだった顔をあげる。


「…あなたは何を言っているのかわかっているのか?ーーグレイス・ララリア嬢!」

「もちろんです。…皆様の考えでは、「魔法属性のない」者は、ほとんどが平民だとお考えのようですわね?ーーですが、違いましてよ」


「魔法属性のない」平民は、例え人質になっても教養のある者が少なく、本来の「人質」の意味をなさなくなる。

だから、どの国も「人質」として貴族の子女を送り込んできたのだがーー。


「私の姉、アナスタシア・ララリアは魔法属性がございませんわ」

「……!!」


ですが、すでに彼女には婚約者がーーリティス公爵子息がいるだろうと誰かが発言した。しかし、グレイスは余裕そうな表情を見せ、すぐにリティス公爵子息ことアランのそばに駆け寄る。


「実はぁ…私たち、愛し合っていますの」


その場は二派に分かれた。

浮気なんてみっともない、というのと、グレイス嬢の方がお似合いだ、という意見。


そこで、アランは言葉を発した。


「ええ、そうです。ーー今度、彼女に婚約破棄を突きつけようと思っていまして」

「ほう」


王は少し乗り気だ。

その態度に、二派に分かれた彼らは何も言わなくなる。


「…どうか、機会をください、陛下。今度行われる王室パーティーで、ぜひとも彼女に真実を教えてあげたいのです」

「アラン様…それは、見せしめだわ。お姉様が…」

「ああ、優しいな、グレイスは。大丈夫だーー陛下も賛成してくれている」


グレイスがばっと振り返って王を見ると、頷く姿が。

流石にこれ以上反対すると王の意思に反するので、グレイスはこくんと頷いた。


「では、アナスタシア・ララリア嬢とアラン・リティス子息の婚約を破棄し、アナスタシア嬢をユスリアの人質とする。決定だ。解散!」


王の、少しばかり威厳のある声がある女にとっては非常に不愉快だった。


(一体何を考えているの…!)



「人質、でしょうか」

「そうだ」


これは、決定事項なのだ。

周りの貴族から反発もなく、助けようとする者もいない。ーーそれは、王に従うためか、それとも単に醜い私を助けたくないのかーー。


ーーいいえ、どちらも、でしょうね。


その後、私は軽く詳細の説明を受け、すぐに身支度にとりかかった。


「これくらいかしら?」


小さい頃、唯一もらえたペンダント。アクセサリーも取り上げられて、残るは使用人用の服二着と薄手の部屋着二着。


「四着もあれば、十分ね」


うん。十分。

生活には困らないのだし。ーー無理に着飾ってまた笑われたくもない。


「あらぁ〜まだなの?遅いわねぇ」

「…グレイス」

「ふん。そんなに時間がかかるほどたくさん物を持ってるの?」

「いえ」


へぇ〜と鞄の中身を探ってくる。

そして満足したのか、再び元に戻して笑い始めた。


「ふっふふ、あはははは!ボロボロのドレスに本一冊。ほんとにお姉様ったらなぁ〜んにも持っていないのねぇ?」


元はと言えば、あなたたちに取り上げられたせいだけど。

だけど、そんなこと言えない。ーー何をされるかわからないもの。



「お母様ぁ〜どうしてお姉様はこんなに可愛いものをたくさん持ってるの?」

「本当ね…アナスタシア、グレイスにあげなさい」

「えっ…い、嫌!」


パシッと手を解くと…。


「っ、生意気な!お前は「落ちこぼれ」なのよ、グレイスと一緒にしちゃダメなのよ!?そんなこともわからないのね…この愚図が!」

「お母様…お姉様は「おちこぼれ」なの?」

「そうよ」



それから、どんどん物は取り上げられていって、いつのまにか部屋も移されていたのだけど。

そんなことーー覚えてもいないのでしょうね……。


「なぁに?私の前で考え事?」

「!そ、そういうわけでは…!」

「「落ちこぼれ」風情が偉そうに…どうせ、捨てられるのがオチでしょうけど」


くすくす、と楽しそうに笑って、彼女は指先にひと風の魔法を現した。

彼女の魔法属性「風」である。


「きゃっ!」


なんとかセットした髪は崩れてドレスがめくれる。もともとボロボロだから、ほつれた糸が顕になってしまった。


「きゃあぁ、汚い!」


自分でしたくせに、妹は一歩後ろに下がった。

もちろん、その叫び声は階下まで届きーー。






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