第32話 強くならなきゃやってらんない
驚いた。
とりあえずキリアンには『一回落ち着いて話したいから日を改めて会おう』と約束をして帰ってもらい、混乱しつつナナネラに来てもらって全容がわかった。
先日のキリアンの謝罪に思い悩み、ついつい彼への対応をなおざりにしてしまったのが一週間以上。
そして知恵熱を出して見舞いを断って、お兄様の件で三日間引き籠もって……で、二週間。
たった二週間、されど二週間。
この間に起きたことと言えば面接予定だった二件にお詫びの手紙を送っておいたけれど、やはりというか案の定そちらは別の
まあこれは想定内。
自業自得の体調不良なので、言い訳のしようもない。
次にキリアンの謝罪。
これについてはやっぱり許せるか許せないかで言えば、心情的には許せない。
ただし事情を知ってしまったし、これまでも価値観の違いや自分が理解していなかった点も踏まえ出た結論は私たちは圧倒的に〝大事な〟会話が足りていなかったって点。
(でも許さなくてもいいって、キリアンが許してくれたから)
だからもう少しだけ、私は砕けた恋心の分だけ、この怒りや失望を、諦めの気持ちを、保っていたいと思う。
そうじゃないとこれまでの私があまりにも可哀想だから。
で、キャサリン様。
自分が言葉を選んで説明したのが不十分だったせいでお兄様が暴走したことにとても心を痛めていらした。
そんなことはない。話を聞いてくれて、いろいろとボカしてお兄様たちに説明してくれただけなのだ。
そしてお兄様。
自分にとって正しいと思った行動をしたわけだけど、それがこれまでも含めて裏目に出てしまったことにとても落ち込んでいた。
うん……悪い人じゃないのだけれどね……これまでも周囲に助けられてきたとはいえ、今後は気をつけてもらいたいと思う。
最後にナナネラ。
私のあまりの落ち込みように、いつ世を儚むかとものすごく心配していた。
本当にごめん。そんなつもりはなかったんだってば!
(ううーん、こんな騒ぎになっていただなんて……)
館の中は本当に私を案じる人たちでてんやわんやだったんだとか。
お医者様を呼ぶべきだ、司祭様を呼ぶべきだ……なんて騒ぎにもなっていたんだとか。
本当に呼ばれなくて良かった!
不幸中の幸いは、お父様が仕事関係で地方にお出かけだったってことね……。
「……お兄様」
「はい」
「これに懲りたらもう勝手なことはなさらず、まずはキャサリン様に相談してね」
「はい……」
「キリアンとの件は自分たちで話し合うことにします。間に人を挟むといいことがなさそうだから」
「はい……」
「キャサリン様も、どうかお気になさらないで。それと申し訳ございませんが、兄のことをよろしくお願いします」
「力の及ぶ限り努力いたしますわ!」
私が引き籠もってから兄が何度も部屋の前に来ていたことは知っていたけど……ナナネラ曰く、廊下に膝をついて頭を下げ続けていたっていうから驚きよ。
無言でそれをやっている姿に使用人たちもドン引きだったんだとか。
東洋の作法で最上級の謝罪らしいのだけれど、引き籠もっていた私には見えないから意味ないと思うんだけど。
でもまあ、謝罪の気持ちは伝わったということにしておかないと、兄の奇行が終わらない者ね。
「それから、例の夜会についてはもう触れないでください。騎士隊も調査をしていたと聞きますし、私ももう思い出したくありません」
「わかった……」
「よろしくお願いしますね」
とりあえず家庭内はこれでよし!
次はキリアン……そうよね、キリアンが一番の問題よ!
やってやろうじゃないの、フィリア!
……何をかは、決まってないけれど。
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