青年は再度膝から崩れ落ちた(心の中で) 1

 フィリアから返事が来ない。

 一切来ない。

 

 これまでそんなこと一度もなかったのに、である。

 例の件で避けられた時でさえ、彼女は返事をくれたのだ。


 とはいえ、贈り物や手紙の受け取り拒否をされているわけではない。

 アレンからも連絡は特にないし、考えすぎなのかもしれない。

 つい最近体調を崩したと手紙にあって、見舞いを断られはしたが……弱っている姿を見られるのは恥ずかしいと言われれば、キリアンも引き下がるしかできなかった。

 それからそろそろ二週間が経とうとしていた。


 キリアンに不安が重くのし掛かる。

 

 以前のように、フィリアは自分を避けているのではないか。

 己の心情を吐露し、彼女に尽くすと決めたこの気持ちが重苦しく、また気持ち悪く見えたのかもしれないと思うとキリアンは不安でたまらない。


 言わなければ伝わらない。

 だが謝罪も、この愛情も、諦めてしまったフィリアにとっては押しつけにしか過ぎないとキリアンはわかっているからこそ不安になる。


 この不安ですら、自分が招いたことなのだから誰に文句を言えるでもない。


(……フィリアはこれ以上の不安を味わったんだから、俺がどうこう言える話じゃない……)


 会いに行こうかとも思ったが、迷惑だと思われたらと考えると動けない。

 仕事をして、少し間を開けて小さな、彼女が好みそうな花や菓子を買って贈る。

 それが最近キリアンの日課だった。

 

悶々としつつも着実に仕事をこなす。

 職務を疎かにしてフィリアに幻滅されることは避けたかったし、何よりも騎士としての矜持があった。


「キ、キリアン! 待ってくれ!!」


 特にトラブルもなくいつものように退勤して今日は花でも見るかと歩き出したキリアンの背後から、彼を呼び止める声に振り向く。

 そこにはアレンの姿があった。


「ア、アレン!? どうしたんだ、その怪我……!?」


「あ、いやこれは……その、キャサリンにってそんなことはどうでもいいんだよ」


「どうでもいいってお前、そんなデカい絆創膏を頬に貼って……キャサリン殿に殴られたのか? 喧嘩でもしたのか?」


「いや……その、ちょっといいか……?」


「……?」


 痛々しい姿のアレンに首を傾げつつも、キリアンは大人しくアレンについて行く。

 向かった先は王城からそう遠くない、貴族たちがよく利用する喫茶店だった。


 そこで待っていたのはくだんのキャサリンであり、喧嘩の仲裁ではないのかとキリアンは目を瞬かせる。

 彼女はアレンとキリアンの姿を認めるとすぐさま席を立ち、深々と頭を下げた。


「……!?」


 キリアンは愕然とする。

 だが彼らから聞かされたことで、一気に顔色をなくした。


 そう、心の中では――盛大に、膝から崩れ落ちたのである。

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