第22話 私たちは妥協点を見つけたのだ!(きっと、多分、おそらく)
キリアンが私の名前を頑なに呼ばなかった理由を話してくれた。
私は何も知らなかった。
本当に、何も知らなかったんだわ……!
彼にとって身分差というものがそこまで大きなものであって、私が伯爵家の令嬢であると言うことがそんなにも負担だったなんて、本当に、これっぽっちも、気づいていなかったの!!
お父様に『彼がお前の婚約者のキリアンだ』と紹介されて、お兄様に『彼は僕の友人だから二人が婚約してくれて嬉しい』と言われていたから彼にとっても
(でもそうよね、少し考えたらわかったことだわ……)
贈り物に関しても、手紙のやりとりに関しても。
貴族と平民では、そもそもの価値観が違って、その違いをすりあわせていくのが本来婚約した者たちの間ですべきこと……。
少なくともキリアンは、騎士爵を得るということで貴族令嬢である私に釣り合うよう……彼なりのすりあわせを行ったということなんだと思う。
他にも、私の希望に添った行動をしてくれていたのだから!
では私はどうだったろうか?
伯爵令嬢としての品位を損ねる行動はしていない。
だけど、それだけだ。
(……私はいつまで経っても『騎士のキリアン』の婚約者ではなく、『アシュリー家の娘』としての位置からこの婚約を見ていたんだわ……それは足並みが揃わなくて当然だわ!!)
それなのにやれ彼が名前で呼んでくれない、彼から行動を起こしてくれない、触れてくれない……と不満に思っていた自分がどれだけ子供だったのかと思うと恥ずかしくて穴があったら入りたい!!
(キリアンはちゃんと私を婚約者として見てくれていたんだわ……)
私が子供だっただけ。
ちゃんと結婚する相手として見てくれていた彼に対して、私のしてきたことはおままごとのようなものだったと反省する。
(……だからこそ、十の方法はこれからの私たちにきっと役立つわ。うん、そうよ!)
大人の女性として恥ずかしくない振る舞いを!
彼への感謝を胸に、堂々としなくちゃ!!
恋人にはなれなくても、キリアンはこんなにも婚約者として私を大事にしてくれるんだから私もそれに応えなくっちゃ!!
「ええ、勿論です。嬉しいわキリアン」
「……フィリア」
「はい」
「フィリア。……こうして名前を呼べる日を、ずっと待っていたんです」
「口調も崩してくれていいのに」
「……それは、おいおい。俺は……その、男兄弟に囲まれていたせいか、その、口調が荒っぽいとアレンにも言われているので……」
「まあ、お兄様が?」
一線を引かれていると思っていたのは、遠慮だったのね。
婚約者としてお見合いをして、恋心を抱くのは難しいけれど……キリアンは私のことをこんなにも大事にしてくれていたと知れて、それだけでも良かったわ。
(私たちはきっといい夫婦になる)
そうよ、恋心なんてなくてもいいの。
私たちは結婚
望むようになっているのに、これ以上を望んではいけない。
「……今度騎士団の訓練にお邪魔してもいいかしら。キリアンの同僚の方々とも顔見知りになっておきたいの。今度は是非、他の奥様たちともお会いできたら嬉しいわ」
「それは……」
「それに、キリアンのお母様から習ったパンを使ってサンドイッチを上手に作れるようになったから……もし良かったら、お昼の差し入れをしたいと思って……」
「俺にですか!」
「ええ。味の方は家族にも試食してもらっているから安心してくださいね!」
「……嬉しいです」
「それと、こういったお店も素敵だけれど、今度は是非キリアンが普段使うお店も行ってみたいわ。貴方が大丈夫だと言ってくれる範囲でいいの」
「フィリア……!!」
キリアンがほっとした表情を見せてくれたことに、私も安堵する。
そうよね、毎回このレベルのお店を求められたらどうしようってきっと心配していたわよね!
大丈夫よキリアン、私だって貴方の妻になるんだから世間一般の金銭感覚ってやつを貴方のお母様から少しずつだけど学んでいるんだし、苦労をかけないように頑張るからね……!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます