第14話 重たいオンナね、私ったら!
キリアンから届いた封筒。
確かに宛名は私だし、差出人はキリアンだ。
表を確認して、裏を確認して、それを三度繰り返したところでナナネラに止められてしまった。
「お嬢様、何度見ても手紙でございます」
「そ、そうよね!」
「まずは内容を確認されてはいかがでしょうか」
「そ、そうよね!」
ナナネラがしっかり者で本当に助かるわ!
私、結婚してこの家を出た時にナナネラがいなくて本当に大丈夫かしら?
ちょっぴり不安になってきてしまったわ……。
いえだめね、私ももう大人の仲間入りをするのだからしっかりしなくては!
キリアンのお母様みたいに家庭をしっかり支えていける女性になるんだから!!
ドキドキしながら封を開けると、便箋とチケットが入っていた。
それは私が以前行ってみたいとキリアンに話したことのある、演劇のもの。
「……『チケットが買えないか上司に相談しておいたものが手に入ったので、是非ご一緒していただけたらと思います。当日迎えに参りますので不都合でしたらご連絡ください』……ですって」
「まあ、よろしかったじゃございませんか」
「なんで!?」
「なんで!?」
思わず問いかけてしまったらナナネラも同じ言葉で驚いてしまった。
いや、うん、これは私が悪いわね。
でもなんで!?
ナナネラも思わず驚いてしまったことが恥ずかしかったのか、少し赤い顔をして咳払いをしている。
ごめんね、ナナネラ……。
「どうして驚かれるのですか。お嬢様のご希望を婚約者様が覚えていて準備してくださったということでしょう?」
「うん、まあそうよね……」
普通に考えておかしな点はどこにもない。
私が彼に話したことを、キリアンが覚えていて、人気の演目だからチケットが手に入るかどうかなんてわからないから私には何も言っていなかった。
でも当たったから良かったら一緒に……というお誘い。
うん、普通よね。
でも、私たちにとっては普通じゃない。はずだ。
(なんで? ……どうして? キリアン……)
今までこんなことなかったのに。
ああ、いえ。
彼はいつだって私が話した内容を覚えていて、それに添った贈り物やデートを考えてくれていたことはわかっている。
わかっているのだけれど……どうしてという気持ちが拭えないのは、どうしてだろう。
(手紙も贈り物も控えるって私が言った傍から……)
頭ではわかっているのだけれど、心がついていかないの。
上司の方にお願いしたチケットが
だってチケットなんていつ手に入るかわからないものね?
しかも上司の方にお願いしていたんだものね?
(……これまでも、私がお願いしたらどこにでも連れて行ってくれたけど)
でもキリアンは本当は絵画展も刺繍展も、演劇も。
好きじゃないってことくらい、私もわかっているのよ?
我が儘な婚約者に振り回されても嫌な顔一つせず、こうして私が望むものを手に入れるために尽力してくれて誘ってくれる。
とても素敵な婚約者よね。
私だってそう思うもの。
でも、だからこそだめなのよ。
彼の負担にならないって決めたばかりの私の心が、
素直に『嬉しい』と受け取るのが可愛い女のすることよね。
そして大人の女性としての振る舞いならば『ありがとう』って笑顔でお礼を言って、エスコートされるべきなのよね。
頭ではわかっているのに、どうしても『どうして?』ってキリアンに対して八つ当たりみたいな気持ちが出てきてしまうの。
(……これはありがたく受け取って、しばらくこういうことは控えてもらえるよう話をしなくちゃ……)
ちょっと前までだったらきっと楽しみで仕方なかったであろう演目も、今となってはずぅんと気が重くなるのだった。
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