第12話 私だってできるはず!
集まった友人たちの元気な姿に、私もホッとする。
というのも、卒業間近にした私たちは各所への面接や登録といったことが中心の生活になっており、学校生活というものはもうそれほどないのだ。
登校日に進捗を提出、進路が決まりかねるようであれば学校側からの推薦をもらうとかそういったことになる。
だが基本的には自分で開拓していかなければならないのが貴族家の
その上、社交界に顔が利く貴族家の
逆を言えば、すでにそういった
(緊張するわ……私は親戚ということでお話をいただけたけど、これで面接に失敗したら従姉の顔に泥を塗ることになるんだと思うと胃が痛い……)
気の良い方々だから大丈夫だって言われているけれど。
だってこれが初めての面接だもの!
友人たちの進捗を聞いて励まされるのと同時に、重圧を感じるのは私の精神が未熟なせいなのかしら?
それともみんなそうなのかしら……聞いてもみんな『そうだ』って言うけれど、私よりもずっと堂々として見えるからつい私を慰めるためにそんなことを言っているんじゃないかって疑心暗鬼になってしまうの。
こんな後ろ向きな考えなんてしてもいいことなんてなにもないってわかっているのだけれど。
「はあ……」
「お嬢様、お疲れですか? どこかでお休みになった方が……」
「ああ、大丈夫よナナネラ。みんなと話していて、今度の面接への緊張感が高まっちゃって」
「……お嬢様ならきっと大丈夫でございます」
「ありがとう、ナナネラがそう言ってくれて励まされるわ」
私たちはみんな、元々子供が好きだとか……教育に興味があるとか、貴族としての志がどうとか、そんな大層な理由なんてものはなく、ただただ『貴族の子女として』『跡取りやそれに準ずる相手に嫁ぐわけではないから』手に職をつけるために女学校に通っていたようなものだ。
これがどこぞの貴族家の嫡子と姻族となるのであれば、当主夫人として学ばなければならない処世術や社交術、家宰を取り仕切るためのものや嫁ぎ先の領地情報、夫となる人の交友関係といったものを頭に叩き込まない。
要するに、貴族夫人という職業は、数が少ない貴族としての職ということになる。
それ以外にも文官や武官になるというのも一つの手段ではあるのだけれど、これは貴族令嬢として蝶よ花よと育てられた私たちにはとても厳しいものだ。
その点、
条件は貴族家出身者であるか、あるいは平民であろうと学位を持っているかだから。
そういう意味で
勿論男女共に優れた教師として認められれば、跡取り教育に入った子供たちの教師として招かれることもあるけれど……新人がそこに抜擢されるなんてことはまずない。
経験と実績、そこからくる信頼。それらがとにかく必要なのだ。
(……キリアンにも、ちゃんと家計に役立つよう頑張るって言っちゃったしな……)
正直に言うと、私はそこまで
子供は嫌いじゃないし、いつかキリアンとの間に彼そっくりの子が生まれたら嬉しいなと思う程度には好きだけれど……。
でもキリアンと結婚するということは当然、伯爵令嬢ではなくなるのだ。
ややこしい話ではあるのだけれど、実家から縁を切られるのでなければ私自身が〝貴族である〟ことに変わりはないのだけれど、嫁いで戸籍が変わればそれは伯爵家の人間ではないってこと。
当然ながらただの貴族という身分に何か効力があるのかと問われれば、身分証明をする際に実家が後ろ盾になってくれるってことくらいかしら?
騎士爵であるキリアンの妻というのが一番最初にくる身分であり、貴族家と縁があるんだなとわかりやすいくらいかしら?
(キリアンのお母様は平民だものね)
パン屋の娘だったというキリアンのお母様の焼くパンは絶品なのよね……。
騎士爵でそれなりに稼ぎがあるとはいえ、格別裕福かと言われたらそういうわけじゃないらしいっていうことはぼやかした感じで説明は受けている。
ただ、私も女学校で平民の富裕層と中間層の年間所得やそれにおける教育の水準変移、子供たちの就労状況などについても学んだのである程度は理解しているつもりだ。
ちなみにそれらは後々領主となる、あるいはその補佐や配偶者となる可能性を秘めた子供たちを指導するための一環として教師となる人間こそ知っておけと先生が口を酸っぱくして……ってどうでもいいわね。
「ねえ、ナナネラ。市場によって帰ろうかしら。最近料理の練習をしていなかったから、久しぶりにパンを焼いてみようと思うの」
「かしこまりました。……お嬢様のパンと聞いたら旦那様と若様がきっとお喜びになりますね」
「明日の朝に出せるよう頑張るわ」
私がそう笑ってみせれば、ナナネラもどこか安心したように笑ってくれた。
……だめだなあ、心配かけているんだなあ。
しっかりしなくちゃ! 私!!
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