第11話 贈り物と私と物思い

 手紙や贈り物は最低限、そう決めていたけれど相手から贈られるなんて想定はしていなかったことから困惑してしまった。

 箱の中身は人気の焼き菓子のセットで、もしかしたら私が『美味しいらしいけれど食べたことがない』なんて言ったのを覚えていてくれたのだろうか?


(……そうだったら嬉しいけれど、さすがに自意識過剰よね)


 多分キリアンのことだから、人気の品を買って贈ってくれたに違いない。

 毎回お兄様に私の好みを確認して、お店の人に相談して……ってしていたみたいだから。


 お兄様が笑いながら教えてくれたから知っているの。

 私はそうまでして贈り物を選んでくれたんだ! って嬉しかったんだけど……。


『アイツ、店に行って一番人気はどれか厳めしい顔して聞くもんだから毎回店員に怯えられるんだ。それで苦情が来たってんで僕が付き添いを騎士団から頼まれてさあ……』


 そんな苦情が出ているからキリアンにあんまりプレゼントをするなって叱られたのよね。

 私がキリアンに何でもない日まで贈り物をするから、そのお返しを毎回しなくちゃならない彼のことを考えてやれって。


(……本当に、私ったら周りが見えていないんだから!)


 思い出すだけで顔から火が出ちゃうんじゃないかと思うわ。

 迷惑をかけて申し訳なかったなあ……と思うのに、今も彼からの贈り物だというだけでこの花束が輝いて見えるのだから困ったものだ。


「……お礼の手紙を書かなければね。先日買った便箋を出してもらえる? 薄い青みのある便箋とセットの……」


「はい、かしこまりました」


 手紙も最低限って決めていたのに、早速彼に向けて書くことになるなんて!


 でもこれは贈り物をいただいたから、そう、しょうがないことなの。

 だっていただいておきながらなんのお礼もしないなんて失礼極まりないじゃない!

 なら受け取らなければ良いって話なんだけど、婚約者なんだから受け取らないワケにはいかないんだし……だからこれはしょうがないの。


 誰にともなく言い訳を胸の内で繰り返し、ナナネラに持ってきてもらった便箋に手紙を認める。


 一文字一文字心を込めて、模範的なお礼の手紙が書けたことにまずは満足。

 だけれど少しだけ考えて私はもう少しだけ、付け足した。


〝特に何もない日に贈り物をして負担をかけていたと聞き及んでおります。

 今後は記念日などのみとさせていただきますので、キリアンもそのようにしてください。

 これまでご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございませんでした。

 この手紙に対しても、返事は不要です。〟


「……これで大丈夫よね!」


 お兄様から文句を言われることも、騎士団に苦情が行くことも、キリアンの負担も減って一石三鳥だわ!!

 私としては彼への愛情表現の一つとして贈り物をしていただけなのだけれど、負担に感じさせていただなんてお兄様に言われなかったらわからなかったことよね……。

 

 相手の懐事情に応じて授業の内容を精査するように、相手への贈り物だってそうなんだわ。

 私がこれまで学んできたことってきっと他にも役に立つはずよ。


「ナナネラ、これを出しておいて」


「かしこまりました。本日はいかがなさいますか?」


「教会に行ってお布施とお祈りをするわ。あまり長居はしないつもりよ。ナナネラ、ついてきてくれる?」


「はい。それでは手紙を出すのと一緒に馬車と護衛の準備をして参ります」


「ええ、お願いね」


 明日は友人たちとのお茶会。

 私と同じく家を継げずにどこかに嫁ぐか、家庭教師ガヴァネスとして一人で生きていけるよう稼いでいくかしなければならないということで友人と言うよりは仲間に近いかもしれない。


 早い子はすでに知人や親戚宅への面接を終えて子供たちと顔を合わせていると言うから、その話を聞いて私もきたる面接に備えたいと思うのだった。

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