スーパーエコーロケーションビーム

 小さな海獣子供のザトウクジラへと伸ばした私の手を、黒く大きい、肥大化した頭の海獣マッコウクジラが押して逸らす。そして私に向かって吠えたのだ。生成生物ごときがッ!!


「控えろ生成生物プリント・アニマ!!」


 至近距離で怒声を食らった海獣は暫しよろめくと離れて行く。勝負にならないと理解して何故吠えたのか理解に苦しむが、そんな思考を捨て本来の目的に移る。しかし、今度は残った海獣達が害虫と端末を食らった子供の海獣を内に寄せて私から隠そうとしている。

 呆れつつも腕を伸ばして海獣を退かそうとするが、海獣は私に吠え、体当たりし、離れたはずの黒い海獣が腕に噛み付いてきたのだ。


「グッ……ダァッ!!」


 腕に痛みが走る。海獣を殴り飛ばし患部を見ると、僅かに体液が滲み出ていた。コイツらは私を傷付けた。


「おのれぇぇぇぇ!!!!」


 愚かにも噛み付いてきた海獣を殴り飛ばし、吠えるだけの海獣ザトウクジラを引っ掻いて退かす。

 そうして海獣共を退かし、端末を食らった小さな海獣に手を伸ばした。その時だった。


「カチカチカチ」


「何だこの音は? ッキサマ何処へ────!?!?」


 自身の体を打つ異音に気を取られた所為か、小さな海獣に逃げられてしまった。そして捕らえようと手を伸ばした私の頭を、強力な衝撃波が貫いたのだ。


(──なッ、何が起こっているッ!?)


 不意の攻撃に備えて身体に力を込め、ヨクトマシンを張って居なければやられていた。六つの目で周囲を確認すると、此方に頭を向けている肥大化した頭の海獣がいた。


「────キサマかッ…………!」


 攻撃方法が分かれば次は食らわない。全ての目で海獣共を睨み付け、油断せず警戒する。

 すると何故か、海獣の群れからの小さな海獣が出てきた。その頭に何かが乗っているが、今はそんな事などどうでもよい。小さな海獣へと手を伸ばし向かおうとした、その時だった。


「グアアッ!?」


 今まで散発的だった海獣達が、急に連携を始めて攻撃してきたではないか。牙を持つ海獣が噛み付いて、髭の海獣が体当たりをしてくる。


「ええい、邪魔をするなッ!」


 直ぐに冷静さを取り戻し、海獣共を殴り飛ばす。何度も繰り返したやりとりに嫌気が差した時だった。

 自身の身体を、無数の泡粒の壁が包み込んだのだ。


「ッ!? まさかッ!」


 新たに植え付けられたトラウマに、焦り下方を見る。するとそこには、髭の海獣が泡粒を出し、私に向かって突撃して来ていた。


「そう同じ手を食らうものかッ!」


 今避けたとしても追いかけて来るだけだ。ならば寸前で躱してしまえば良いと下方から迫る髭の海獣を警戒した。


 途端、私の身体を異音が打つ。


「ッ、まさかッ!?」


 即座に顔を上げ四方を見る。するとそこには、肥大化した頭を私に向けて睨み付けている牙を持つ海獣がいた。三方向から私を囲む海獣。


「「「カチカチカチ」」」

「まッ──────………………」


 三方向より放たれた衝撃波。それらは私の身体を穿ち、内部で衝撃波同士がぶつかり合って乱反射する。

 ヨクトマシンによる防御すら貫いたその攻撃に、私は意識を失ってしまった。


 浮力を失い身体が沈んで行く。段々と冷たくなる水に意識が溶けて行く。


 此方を見下ろす端末を見付けた。私が選び設定した美しい白が深海に映えている。


 取り戻そうと手を伸ばすが届かない。端末は害虫と繋がりながら、私を一瞥して海獣にのり泳いで行ってしまった。


「私の端末……何故だ……何故なんだ……」


 薄まる意識の中、譫言のように言葉が漏れる。こうなってしまった原因を考えるが、その全てが自身の所為である事しか分からない。


 軈て私は、光もろくに通さない寒々しい水底へと沈んで行くのであった。

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