最後の海龍頼み
「──ッ……寒……」
意識が覚醒する。続いて全身を包む水の冷たさに生存本能が刺激され、心臓が稼働を早める。
「……ここは……?」
ふらつく頭を押さえながら、浮力を調整して浮きながら周囲を確認する。しかし、その目は暗闇しか映さない。
「……目がッ……いや違う……たしか、超深層だったか……」
私は自身の星にも存在するそれを思い出した。確かそこは、星の中心へと続く溝であり、罪人の廃棄所だったとか。
「ふん……罪人か……」
ならばあの害虫も来ているのだろう。いや、必ずいるはずだ。何せ私から端末を奪ったのだ。ここに居なければおかしいとも言える。
そこでふと、私の頭に考えたくも無い事が過る。それは、とある場所で絶対に端末を取り戻す事が出来ると言うものだ。
「そうだ……端末は龍教会に入れない──うん?」
感じた違和感に言葉が止まる。端末は教会に入れない……これは問題無い。そもそも端末どころかあらゆる機器の持ち込みが禁止なのだから。だがそれが……いや、それではない。端末は単独ではない。
「マズイッ!」
私はふらつく頭を叩いて戻し、痛む身体を無理矢理動かし龍教会へと急ぐ。心情的にもあの害虫が龍教会に入るのは許せないが、それは私の認識でしかない。
害虫は異星の原生生物──もとい、原住民だ。
我が故郷であるVOLDARの星教に成った龍神教は、星の法律で他星の生物が龍教会へ入る事を赦していない。
つまり、このまま奴が龍教会に入り、それがバレてしまったら……。
「つくづく私を怒らせる……害虫がッ!!!」
私は超深層で唯一光を放つ龍教会へ向けて急ぐのであった。
龍教会へと到着した私は、教義に従い教会へと一礼して静かに門を開ける。この時ばかりは心地よい手応えを返す門の重さに焦りが湧いてくる。
「よし、中は……間に合わなかったか……」
門を開いた私を、教会は温かく迎えてくれた。土地の主が指示しなければ点らない光を放って。
つまりだ、このエルセラリウムにある龍教会は、私か端末が指示を出さなければ光など点灯する筈がないと言う事。つまり、奴は既にこの中へと入ってしまったということだ。
「ああ、クソッ……龍教会を汚しやがって……ッ!」
床を汚す砂の痕跡を追う。薄汚れた害虫の所為で汚れてしまった床につい苛立つ。教会内では常に冷静でなければいけないというのに。
「ふぅ~……今はいい。それより端末を…………は?」
その光景を見て、私は間抜けにも口を開いて固まってしまった。
まず、聖堂の間の扉が開きっぱなしの状態なのに驚いた。少なくとも文明を持つ知的生物なら開けた扉は閉めろと考え、次に空っぽな荷物置き場を見て固まる。
「ああ……ほんとに……クソ害虫がぁッ!」
理解出来ない事態に脳が止まる。そして事態を理解した私は、途方も無い怒りに身を焼く思いだ。
奴は聖堂に侵入した挙句、中まで端末を持っていってしまったのだ。
法律云々はこの際置いておこう。だがもう、奴が私を傷付け欺いた事は許せないッ!
荒ぶる心を抑えつけ、聖堂へと入る。そこはいつ来ても美しく、こんな状況でなければ暫く祈っていたいほどに居心地が良かった。
「海龍様、どうか私をお赦し下さい。そして、あの害虫を始末する様をどうかお楽しみ下さい」
此方を見下ろす海龍を象った石像に祈る。その時石像の瞳が、赤く輝いた気がした。海龍は怒り、私を応援してくださっているようだった。
薄暗い非常通路を痕跡を追って進む。扉が空いているのだろう、光の漏れる先を目指し、静かにゆっくりと近付く。
そして扉を開けたそこに、奴がいた。
私の端末を抱き寄せ何かをしている、憎たらしい害虫が……私を傷付け欺いた宿敵が、そこにいた。
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