蒼白のリヴァイアサン
抱き合う流児とシエラにむかって、ヴォズマーは全身のエネルギーを喉に集束を開始。それまるで、この一撃をもって全てを滅ぼさんとするかのようだった。
「ッ! またその光線か。シエラ、俺の後ろに──」
今度は守ると覚悟を決めて、流児はシエラを背に庇う。
全身に蒼き光を巡らせて、ヴォズマーの攻撃に腕を交差させて待ち受ける──その時だった。
「──マスターへの害意、及び脅威的エネルギーを感知。防衛アプリ起動。【龍の咆哮】を発射します。離れてください」
「なっシエラ!?」
シエラを護る様に前へ出た流児は、シエラの声を聞き驚愕する。シエラは防衛アプリ起動すると、己の新しい主である流児を護るため、敵を排除するため、エネルギーのチャージを開始。白い光──無垢なヨクトマシンの光──を両手に溜める。
「……シエラ、俺も戦うぞ!」
「──了解。ヨクトマシンを同期、エネルギー回路を接続」
流児はシエラの手に自身の手を添えて、共に戦うため力を込める。
そして、両者の攻撃が同時に放たれた。
「■■■■ーーーーッ!!!」
「発射します」
「オオオオオッ!!」
深紅と蒼白の光線がぶつかり合い、拮抗する。
その音は遥か先まで轟き、その光は超深層までもを明るく照らし出した。
「クッ……まだッ足りないか……!!」
「──エネルギー残量、六〇パーセント」
自分達を護るにも、敵を倒すのにも後少し足りない。
エネルギーも無限では無いようで、シエラの警告が耳を打つ。心做しか、流児自身も加速する疲労感を感じ始めている。
「不味いな……一旦引くか?」
そう聞くと、シエラは周囲をキョロキョロと見回し何かを見つけ、流児に向かって微笑んだ。
「──援軍を確認」
「援軍? ……まさかッ!?」
シエラの援軍と言う言葉に、先程から共に戦ってくれている海洋生物達の事が頭をよぎる。
その瞬間、海に蒼い星の光が瞬いた。
それは段々と数を増し、海を星空へと変えてゆく。
そして星の一つ一つが蒼い尾を引いて、流星となって二人のもとへと近付いて来たのだ。
「あれは……!」
「──援軍より伝令『我等が主であり父を護るため、ともに戦う』と」
彼等海洋生物は、ティア・マリアより産み出された存在。そして、その産まれる切っ掛けは自分自身だった事を、流児は思い出した。
「……ッ援軍、感謝する!」
遠洋より海洋生物達が参戦。各々が光線を放ち、ヴォズマーへと攻撃を開始する。
「■■■■……ッ!!」
ヴォズマーは、苛ついたように唸り声を上げる。
意識がそれた所為か、光線の勢いが落ちる。
「よし、いける──オオオオー!!!」
力を振り絞り、光線の威力を上げる。
「──敵に高エネルギー反応」
「なにッ!?」
「■■■■■■■■ーーーーーー!!!!」
シエラが呟いたその直後、ヴォズマーの目が深紅に染まり、海に警笛の様な轟音を放った。
すると、周囲から深紅の光─ヴォズマーに共鳴したヨクトマシン─が発生。その光は徐々にヴォズマーに向かって集まり始めた。
「クッ……アイツも本気か……シエラ、何かあるか?」
「──不明なアクセスを検知しました……直ちに接続を停止してください……」
「なにっ!? 大丈夫か!?」
流児がシエラに問う。すると、シエラはノイズの混じった声で不穏なことを言った。
しかし、直ぐにノイズ混じりの声も戻ると、シエラは行動を開始する。
「──大……丈夫です」
「大丈夫ならいいさ! それで、どうなった!?」
「海龍による接続を許可しました。生成生物の召集を開始します」
シエラは力を溜める様にして踏ん張ると、身体からソナーの様な音波を放った。
「うお、いったい何をッ!?」
「──モード【リヴァイアサン】を発動します」
言うと、流児とシエラの背後に海洋生物達が集まり始めた。生成生物達は流児に触れ、その列をどんどんと伸ばして行き、やがて一匹の大きな生き物の姿が浮かび上がる。白い身体の蛇の様なシルエット。蒼い鰭を持つ水掻き付きの手足。牙の並んだ口と、水に揺らめく長い髭。
「──エネルギーの同期を開始します」
「……何だか分かんないけど、いけそうだなッ!」
流児は、何故か不思議な安心感に包まれた気がした。
海洋生物達は自らのエネルギーを二人へと流し込み、その力を増幅させて行く。
「──【多接式直列光子加速砲】の発射許可を求めます」
「……ああ、許可する。終わらせよう!」
「──了解。発射します!」
直後、光線の勢いが増し、その破壊力を上げて行く。
拮抗は崩れ、その破壊の光がヴォズマーへと迫る。
「■■ッ!? ■■■■~~~~!!!?」
ヴォズマーが、何処か悲哀を誘う呻き声の様な音を漏らす。
その深紅に染まった満月の様な瞳には、彼が信仰する海龍が──蒼白のリヴァイアサンが自身を討ち滅ぼさんと睨みつける姿が映っていたのだ。
「うおおおおおおー!!!」
「──リミッター解除。エネルギー、全開……!」
「■■~~! ──■ッ!?」
破壊の光がヴォズマーへと迫る。
悲鳴に似た音を出しながら逃げようとするが、それは海洋生物達が許さない。
表皮を押す程度の小さな攻撃だが、それは確りとヴォズマーをその場に縛り付け逃走の妨害している。
「■■ッ!? ■■■■ーー!!? ■■■■■■ーーーー────」
やがて、破壊の光がヴォズマーを包む。全身を焼かれ、腕を消し飛ばされ、破れた喉袋その更に奥を撃ち抜かれたヴォズマー。
やがてその身体から光が離散すると、ヴォズマーだったものは海底へと沈んで行き、大爆発を巻き起こした。衝撃波が流児達を襲う。
「うおおっ!?」
「──対ショック姿勢」
「……!」
強烈な波が流児達を飲み込もうとしたその瞬間、二人と一匹を青白い光が包み込んだ。
「……ん、何だ──おおおっ!」
「──海龍様」
「……!!!」
『────』
流児達を包む青白い光の珠が、海龍の手に収まる。すると海龍は二人と一匹を導く様に、光の指す方へ向けて泳ぎ出した。
「……終わったんだね……」
「──脅威の排除を確認。通常モードへ移行します」
「……そうか……ねえ、シエラ」
「──何でしょうか?」
静かになった海中。陽の光に照らされる
「俺は、君が好きだ」
「──はい」
「君を愛してる」
「──はい」
シエラは答える。その表情が、段々と柔らかくなって行くのが分かる。
「……俺と一緒に、これからを生きてくれないか……?」
「──はい。私は──シエラは、貴方と共に生きて行きます」
流児の告白に、シエラは暖かな笑顔で答えてくれた。
「……ッ! 良かった……ありがとう……ありがとう……シエラ……!」
こうして、二人の旅は終わりを迎えた。
『────』
抱き合う二人を海龍は尊い者を見るようにして紺碧の龍眼を細め、その時を守る様にゆっくりと泳いで行く。
その周囲で、二人を祝福するように今まで出会ってきた様々な海洋生物達が周囲を囲み、共に泳いで行った。
とある砂浜。そこには、共に歩む仲睦まじい様子の足跡があった。
そして離れ行く二人の背中に向けて、何時までも何時までも、ガザミはハサミを振っている。
そして、二人が見えなくなると、そのまま元の海へと帰っていった。
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