死闘
(何処だ……アイツは何処にッ……!?)
ヴォズマーを追うために道を
しかし外に出たは良いものの、ヴォズマーの泳いで行った方向が分からない。
「クソッ……どうしたら……ん?」
闇雲に周囲を見回す流児。
するとどうだろう、まるで流児を誘導するかの様に、深海に様々な光の道標が浮かんでいた。
「あれは……そうか、深海魚達の発光器官ッ!」
方向を示す光の矢印。泳ぐ道を案内するようなガイドライン。そのどれもが、餌やりをした深海魚達の出す光で作り出された道標だった。
「ありがとう!」
流児は深海魚達に礼を言うと、光の案内に従って泳いで行く。すると、泳ぐ流児の後ろを無数の魚達が追泳しだはじめた。
それは、自らが産まれ至る要因の
光の届く深度に浮かぶその長大なシルエットは、まるで一匹の龍の様であった。
行く先々で海洋生物達に案内を受けた流児は、超深海を抜け、深海を越えてシエラの元へと
「ッ──見付けたッ!」
「──、■■■■ーー!!」
そして、流児は漸くヴォズマーに追い付いたのだった。
流児の存在に気付いヴォズマーは、叫び声に似た咆哮を放つと、側にある岩を砕きその破片を尾びれで弾き飛ばして攻撃してきた。
「マズッ──」
迫り来る大岩。避けようとする流児だが、スピードが乗りすぎているため回避が間に合わない。
衝撃に備えた流児。しかし訪れない痛みをいぶかしんで目を開くと、そこには深海魚達が流児を攻撃から守るよう泳いでいた。
「なッ、お前達ッ!?」
驚く流児を追い抜いて、魚達が自身を犠牲にして流児の進む道を抉じ開けてくれていたのだ。
細かい欠片は小魚達が身を盾にして防ぎ、大きな岩は大型の魚が体当たりして軌道を反らす。
ヴォズマーが攻撃する度に、魚達がその命を散らす。
その変わりに、流児は段々とヴォズマーへと近付いていく。
「ごめんッ──それと、ありがとうッ!」
流児を守る度に、魚達は砕け散って行く。
その魚達の体から漏れ出た、血とは違う
(あと少しッ!)
「オオオオオッ!!」
──あと少しで手が届く。それは、ヴォズマーも同じだった。
「──ガアッ!?」
自身に後一歩の所まで近づき手を伸ばす流児を、ヴォズマーは手を薙ぎ払うことではね除けたのだ。
たったそれだけで、流児の身体は小魚のように弾かれ、海底へと叩き付けられてしまう。
「……う、うぅ……」
一撃で死の淵へと叩き落とされた流児。
ヴォズマーへの恐怖が強まり、頭に諦めが過る。
『──流児』
「シッ……シエラ……ッ!」
ヴォズマーの喉袋。その中から流児を見つめるシエラと目が合った。
互いに手を伸ばすが、その手が重なることは無い。
「……まて……待てッ……!」
立ち去るヴォズマーを目で追いながら、流児は悔しさに震える。
「力が……もっと力が……シエラを助ける力があればッ!」
拳を握り締め、シエラを救う力を求めた。その時だった。流児を追いかけていた魚達が側に集まってきたではないか。
魚達は流児に近付き、その身から蒼い光を──
その輝きが流児の傷を癒やし、力を与える。
「……ありがとう、お前達。──行ってくるッ!」
身体の奥底から力を湧いてくるのを実感し、これなら行けると、流児は海底から飛翔する。
蒼い光を惑い駆け上がるその姿は、まるで流星の様であった。
■
蒼き輝きを放ち、流児は流星が如く海を駆ける。
「ヴォズマァァァァーーー!!!」
「■■……!? ──■■■■ーーーー!!!」
その姿に、数瞬の間硬直するヴォズマー。
しかし直ぐに正気を取り戻し、流児に向かって咆哮を放つと、再び流児を撃ち落とさんと距離を取りながら攻撃を開始する。
「クソッ攻撃が激しいッ……! そんなに抵抗するなら、シエラを離してんじゃねぇよッ!!」
「■■■■!!」
より激しくなったヴォズマーの攻撃。放たれる紅い光線。鰭から光の刃を発生させて薙ぎ払い。流児に向けた腕──その指から、光弾を放ち撒き散らす。
流児はそれを避け、ヨクトマシンを腕に纏うことで攻撃を弾き、受け流す。
(ええい、クソッ! あと一歩が届かないッ! ……これでもダメなのかッ……!?)
後少しと言う所でその一歩が届かず焦る流児。
ヴォズマーは巨体であるにも関わらず俊敏。
懐に飛び込もうとする流児に向けて、鰭より発生する紅い光刃を振るい、その接近を許さない。
こちらを見つめて手を伸ばすシエラの姿も相まって、流児はより焦燥に駆られる。
「ッ……一か八かだ……オオオオッ!!」
ヴォズマーの懐へ強引に飛び込み、シエラに手を伸ばす。
──それが、大きな隙となった。
「届け──うおあっ!? 」
シエラへと手を伸ばす流児を、突如下から巻き上がった海流が襲う。
それは、ヴォズマーが内へと尾を巻くことで起こされた、意図的な波だ。
波に揉まれ、流児は身動きが取れない。
そんな流児を仕留めるべく、ヴォズマーは口を大きく開け、その喉元に殺意の光を溜め──放つ。
「マズッ──ガアアッ!?」
紅い光流が流児を撃つ。
流児は腕に蒼い光を集め、体を守るよう交差させるが、しかしそれでも攻撃を完全に防ぐことができず、ジリジリと体は焼け、海底へと押し込まれてしまう。
「グハァッ!」
勢いをそのままに、壁に叩き付けられる流児。
ヴォズマーは流児に止めの刺すため、再び喉に光を集める。
「……シエラッ……!」
深紅の光が海を照らす。
死にかけている自身ではなく、捕らわれているシエラを案じて手を伸ばす。
(もうダメなのかッ……!?)
流児が諦めかけた──その時だった。
「……!」
「ガザミ……!?」
伸ばした手の上に、これまでずっと一緒にいたガザミが降りて来たのだ。
そして、ガザミはハサミを振って何かを呼び出した。
ヴォズマーが深紅の光を吐き出す──その瞬間、黒い影の群れがヴォズマーへと突撃し、光線をあらぬ方角へと反らした。
「……あれは……!?」
影の群れへと目を向ける流児。
その正体は、海流を流れた際に餌を上げた、クロマグロの群れだった。
「■■■■ーー!!」
クロマグロに向けて怒りの咆哮を放つと、ヴォズマーは再び流児を仕留めるため、深紅の光を溜めようとする。
「マズイっ……動け体ァ!」
「……!」
しかしそれも、顎を何かに強引に閉じられ失敗する。光線が口内を乱反射し、爆発を引き起こした。
「■■■■!?!?」
「ッ!? 今度はなんだ!」
ヴォズマーの顎をかち上げたのは、流児と盛大な鬼ごっこをして、群れと泳いで行ったバンドウイルカの子イルカ達だった。
「お前達っ……!」
「ピュイィー!!」
「ギー、ギー!」
子イルカが司令塔となり、ヴォズマーの攻撃を妨害していたのだ。
尚もヴォズマーへの妨害が続く。
「■■ーー!」
クロマグロの群れがヴォズマーへと突撃。気を散らし、隙を生み出す。
「ピー!」
「キュイィ!」
「■■!?」
そこへ、イルカやシャチが眼下から加速し、下顎に向かって体当たりをする。
「■■ーー! ■■!?」
ヴォズマーがイルカやシャチに狙いを変えようとすれば、その眼前でイカやタコが墨の煙幕を張る。
「■■~~~~!」
ヴォズマーが煙幕を晴らそうと腕を振る最中、シイラやカツオ、オニカマスに乗ったカニやエビ達がヴォズマーの喉袋へと取り付く。そしてヨクトマシンによって強化されたハサミで喉袋を傷突けて行く。
「みんな、あの時の……助けてくれるのか……!?」
まるで流児を助けるかのような動きで、恐ろしい異形の存在であるヴォズマーを囲い攻撃や妨害をする海洋生物達。
その全てが、流児が旅をする道中で餌をやり、触れ合ってきた者達だった。
「っ……このまま寝てる訳にはいかない……ん、どうした?」
その光景に感動する流児は、傷だらけの身体を無視して立つ。すると、自身の周りに戦いに向かないような小さな魚達が集まって来ていることに気付いた。
「……、……!!」
目の前で遊泳脚を動かしホバリングするガザミがハサミを掲げる。すると、周囲に集まった魚達から蒼い光が集い、ガザミのハサミの間に蒼い光の珠が出来上がった。
「この光は……」
「……!!」
その蒼い光は、この海に産まれた存在の命の光。ヨクトマシンが優しさの意思を感知して表す光だった。
それを掲げるガザミは、流児に期待するような視線を向け、命の光を差し出してくる。
「……ああ、ありがとう……オオオッ!」
表情を引き締め、傷だらけの手を無理矢理動かして光を受けとる。
すると、光が傷に沁みるように身体へと溶け込み、傷を治し体力を戻し、更に力を引き上げる。
周囲の海洋生物達もそれに呼応するように、流児に向けて命の光を放ち、力を託す。
身体に満ちるエネルギー。それを確認すると、流児は海底を蹴り、ヴォズマーへと突撃する。
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