あれ……? 俺嫌われた……?

「んっ……」



 翌朝、俺は目覚まし時計の音で目を覚ました。誰かに起こされることなく目覚ましで起きるなんて、珍しいことがあったものだ。


 けど、今日に限っては誰も来なくてよかったのかもしれない。



「…………」



 布団を捲り上げてを確認し、俺は深いため息をついた。脳裏に浮かぶのは、昨日の光景……と言っても、見ていたわけじゃないけど。


 でも、聖羅せいらさんと美藍みらんの喘ぎ声、そして彼女達に触れていた指の感触は、今でもはっきりと覚えている。



 二人は確実に俺の手でオ———いや、考えるのは止めよう!


 とはいえ、思春期男子の前でそんなことが起こって、我慢できるわけもなく……昨晩一人で何度か処理した・・・・・・・……はずだったのに。今朝のこの光景を見るあたり、それでも全然足りなかったのだろう。


 もし今朝誰かが起こしに来ていたら、これを見られて恥ずか死するのは当然の事……下手したら、俺は欲望のままにその誰かを襲っていたかも知れない。


 それぐらい、今の俺はどこかおかしかった。



 ひとまず俺は着替えを持って風呂場へ移動し、シャワーを浴びることにした。



        ♢♢♢♢



「あっ、うっ……お、おはよう、ハル……」



 千夏ちなつと一緒に学校へ向かう道中、合流した美藍みらんがそうぎこちなく挨拶した。顔は真っ赤に上気していて、昨日の一件を意識しまくっているのは丸分かりだ。



「お、おう……おはよう美藍みらん


「えっと、昨日は助けてくれてありがと———んぁっ♡」


「っ!?」



 昨日のお礼を口にしながら近づいてきた美藍みらんが、突然表情を蕩けさせて色っぽい声を漏らした。


 直後、ハッと我に返った美藍みらんは深呼吸を一つ。ススッと俺から離れ、千夏ちなつの隣へと移動した。微妙に感じる距離感……。



「えっと……どうしたんだ? 美藍みらん


「ううん、なんでもない……けど、今はちょっとこのままが良いかな……」



 消えそうな声でそう訴えてくる美藍みらんには、いつものような覇気は見られない。『なんでもない』と言いながらも、普通ではないことは明らかだ。



「気を付けてね美藍みらんさん……今のお兄にケダモノだから……」


「そうみたいね……千夏ちなっちゃんが距離を取ってた理由が分かったわ……」



 本人に自覚は無いが、春空はるくも例に漏れず発情期に入り始めているのだ。妹である千夏ちなつはオオカミの嗅覚ゆえにいち早く気づいていたものの、今朝の春空はるくは昨晩よりもさらにすごい匂いを纏っていたのだ。


 同じく発情期に入り始めている千夏ちなつも、あまり近づきすぎると所構わず本能のままに子作り【ピ——】を始めてしまう自信があった。



 そのため、ある程度の距離を空けて歩いていたのだけど……不用意に近づいてしまった美藍みらんは、春空はるくの匂いに瞬時に分からせられてしまったようだった。



「ぁうっ……今の一瞬でこんな……♡」


美藍みらんさん……気を抜いたら一瞬でメスにされるから、油断したらダメ」



 美藍みらん春空はるくには聞こえないほどの小声で呟きながら、自身のお腹……と言うよりは子宮の位置を手で撫でる。


 襲い掛かる疼きを抑えるように。



 ただでさえずっと想いを寄せてきた相手が、初めてを捧げる約束をした後に、自分が発情期に入ったタイミングで、その彼も発情した匂いを振りまいてくる……


 これはもう、完全に合意で良いのでは?



「いや、でも……できればそういう雰囲気の時にシたいわね……」


美藍みらんさんって、意外と乙女ですよね……」


「どういう意味かしら?」


「……二人とも、そろそろ学校行かない?」


「ひぅっ……!」


「やっ……! い、いきなりそんな近づいてこないでよハル……!」


「えっ、もしかして嫌われた……!?」



 まるで磁石で反発するように、俺が一歩近寄ると、千夏ちなつ美藍みらんは一歩下がる。


 昨晩の千夏ちなつといい、今日の二人といい、俺に対して妙によそよそしいというか何というか……。


 とはいえこのままでは遅刻するため、俺はひとまず二人との距離感を探りながら学校へと向かうのだった。












「あれ? 聖羅せいらさんは先に来てると思ったけど……」



 朝の時点でなんとなく思っていたけど、聖羅せいらさんの顔を見ていない。てっきり先に学校に行っているものだと思ってたんだけど、そこにあったのは誰も座っていない席……


 どうやら聖羅さんは、学校にも来ていないようだった。



聖羅せいらちゃん、今日は欠席よ。聞いてないの?」


「いや、聞いてないな……。欠席なんだ。なんで?」


「それは……」



 ———発情期で性欲が止まらなくて出歩ける状態じゃない……なんて、異性であるハルには言えるはずもない。聖羅せいらちゃん自身がハルに言わなかった理由を察するべきだろう。


 たとえ相手がハルであっても、正直にそれを明かしてしまうのは少し可哀そうだ。



「……ちょっと熱があるみたいなのよ」


「そうなんだ……大丈夫かな」


「ま、そう酷くないみたいだし……少し休めば大丈夫でしょ」


「それならいいんだけどね……」



 風邪でも引いたのかな……確かに季節の変わり目だし、寒かったり温かかったりで体調も崩しやすいか。


 うーん……今日の帰りにでも、見舞いに行ってみようかな。

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