美藍の家で……

「さて、今から学校祭実行委員会を始める」



 ある日の授業後、俺と聖羅せいらさんは会議室に集まっていた。


 すめらぎ先輩が宣言したように、今日は一回目の学校祭実行委員会だ。


 会議室には各クラスの実行委員が二人ずつ出席しており、多くの生徒達がすめらぎ先輩に注目するなか……



「「…………」」



 数名の生徒は、聖羅せいらさんに注目しているようだった。


 学校祭は10月だから、まだ半年はあるんだけど……この学校は学校祭ガチ勢が多く、より長く準備期間が欲しいとのことで、一回目の実行委員会は4月に行われるのだ。



「2年1組の有栖川ありすがわ春空はるくです。よろしくお願いします」



 自己紹介をし、チラッとすめらぎ先輩の方を見ると、彼女は挨拶代わりにウィンクを送ってきた。


 なんとなく気恥ずかしくなり、軽く会釈をして座り直す。



「…………」



 隣に座ってる聖羅せいらさんが、じっと見てきてる気がする……。えっ、今のやり取りも聖羅せいらさんにとってアウトなの?



春空はるく君、やけにアリサ先輩と仲が良さそうね」


「ふ、普通だと思うけど……」


「そうかしら……」



 ジトッとした目でこちらを見てくる聖羅せいらさん。ウィンクに会釈を返しただけなのに……なんか最近、さらに嫉妬深くなってない……?



「よし、一通り自己紹介を終えたな。では早速最初の協議なのだが、今回の学校祭のテーマは───」



 本番は半年後とはいえ、企画書の提出や予算申請、他クラスとの擦り合わせなどやることは色々ある。


 今回の会議では、イベント当日までの日程を確認していくのだった。



春空はるく君、お疲れ様」


「うん、聖羅せいらさんもお疲れ様」



 会議が終わって一息、俺と聖羅せいらさんは荷物をとりに教室へと向かった。


 やっぱりやる気がある生徒が多いからか、なかなかに白熱した会議が終わった頃には、すでに日が落ちかけている時間だったのだ。


 窓から見える空は曇っていて、少し肌寒い。



「なんだか雨が降りそうだね……早めに帰ろうか」


「ん……あれ?」



 教室に到着すると、その中に人影が一つ。俺と聖羅せいらさんの存在に気がついたのか、ゆるふわウェーブの金髪を揺らし、縦に割れた瞳孔・・・・・・・の視線がこちらを射抜いた。



「遅かったじゃない、ハル」


美藍みらん? 待っててくれたの?」


「待ってるって言ったから……こんなに遅くなるなんて思ってなかったけど」


「ご、ごめん……」


「別に怒ってないわよ……ハル、お疲れ様」



 そう言って顔を綻ばせた美藍みらんは、すかさず俺の腕を取って手を繋いでくる。美藍みらんの小さな手はすっぽりと収まり、少し低めの体温が伝わってくる。


 そして……



「っ……!」



 聖羅せいらさんを見上げた美藍みらんは、まるで挑発するようにニヤリと笑顔を歪めたのだ。


 さっきまで会議で俺と一緒にいた聖羅せいらへの対抗心だろうか……



 まんまと乗せられた聖羅せいらさんは、対抗して俺の空いている手を握り、美藍みらんと睨み合う。


 バチバチと火花を散らす2人。

 ……頼むから、俺を挟んで睨み合うのは止めてくれ……。













 ようやく帰路に着くことができた俺達だったが……



「ちょっと、歩きにくいじゃない。そろそろハルから離れなさい」


「それは私のセリフ……あなたもそんな風に腕を組んでいたら春空はるく君が歩きにくい」


「それは聖羅せいらもでしょうが!」



 俺の右腕は聖羅せいらにがっちりホールドされ、肩が彼女の胸に埋まってる……というか、確実に当ててきてる……。


 左手は美藍みらんに握られ、ヘビのように絡み付いて離れない様子。そんな状態だからかなり歩きにくく、俺達はいつもの倍の時間をかけてゆっくり歩いているのだ。



「早く帰らないと雨降ってきちゃうかもしれないじゃない」


「それはまずいわね……私は春空はるく君を送っていくから、美藍みらんさんだけでも先に帰って?」


「気を使ってるように見えて離したいだけじゃない! だいたい───あっ」



 ポツッと、顔に一粒の雨が当たる。ようやく春の暖かさがやってきたとはいえ、雨が当たれば当然寒いだろう。


 何より、変温動物ガラガラヘビ美藍みらんが雨に当たるのはまずい。



「ちょっ……ぅわっ!」

「やっ───」

「……冗談じゃなくなっちゃったかも」



 なんて考えたのも束の間、あっという間に雨足は強くなり、容赦なく俺達の身体を濡らしていく。


 美藍みらんが動けなくなる前に、家まで送り届けないと……!



聖羅せいらさん!」


「んっ……!」


「えっ……?」



 力強く頷いた聖羅せいらさんは、なんと美藍みらんをお姫様抱っこしてしまった。


 以前みたいに荷物を持ってもらって、俺が美藍みらんを背負っていこうと思ったんだけど……


 美藍みらんの不満顔を見れば分かる。美藍みらんは俺に背負ってもらうのを期待して、聖羅せいらさんがそれを阻止したのだ。


 君達の戦い、まだ続いてたのね……。



        ♢♢♢♢



「お帰り……って、あらまぁ、みんなビショビショじゃない! 身体冷えちゃうわ、上がって上がって!」


「いやっ、俺達は───」


「風邪引いちゃうわよ。ほら、いいからいいから!」



 美藍みらんを家まで送り届けると、美藍みらんの母親のご厚意によって(半ば強制的に)家に上がることに。



「家のお風呂は大きいから3人で入れるけど───」


「いやいやいやっ! 無理ですって!」


「うふふ、冗談よ。美藍みらん聖羅せいらちゃんで先に身体温めて来なさい? 春空はるく君は申し訳ないけど、お風呂空くまでタオルで我慢してね?」


「じ、十分です、ありがとうございます……」


「すみません、お風呂まで……」


「いいえ、家の美藍みらんを助けてくれたんですもの、むしろこっちがお礼を言わなきゃダメよね」



 聖羅せいらさんは、ニコッと可愛らしく微笑む美藍みらんの母親に一礼し、お風呂へと向かっていった。


 美藍みらんと一緒に……えっ、一緒に入るの?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る