君たち、欲望に忠実すぎませんか!?

 翌朝、少しだけ早く目が覚めた俺は、ぼんやりしたまま真っ先にスマホを手に取ってロックを解除する。



 画面に表示されたのは、昨晩聖羅せいらさんや美藍みらん千夏ちなつ杏樹あんじゅちゃんから送られてきた写真の数々だ。


 ……夢じゃなかったのか。

 途中から、どう見ても『チアガール関係ないよね』と言いたいほどに露出が過激になっていって、杏樹あんじゅちゃんと美藍みらんに至っては下着が見えてたし……。


 美藍みらんは下着が見えていたことに気づいてなかったみたいだけど、杏樹あんじゅちゃん、明らかにわざとだよねそれ……。



 いや、聖羅せいらさんと千夏ちなつも大概なんだよな……二人とも重要な部分が見えてないだけで、肌色の面積の方が大きいし……。


 …………すまん、正直好き。



「———いや、写真を見返して何を考えてるんだ俺は……」



 だんだん過激になってきた写真に対して、『さすがにそれ以上はダメだ』と注意をしておいて、後でこっそり写真を見返すとか最低だな。



「こんなところ誰かに見られたらまず——」


「何を見られたらまずいの?」


「っ!?」



 突然聞こえてきた声に、驚きのあまり俺はビクッと身体を跳ねさせる。慌ててスマホから目を離して確認すると、ベッドの縁に両腕を乗せ、その上に顎を乗せてこちらを見上げる美藍みらんの姿があった。


 少しだけ微笑みを湛えた大きな目が、じっとこちらを覗いている。



「い、いつの間にっ!?」


「ついさっきよ。ちゃんと自分で起きれただなんて、偉いじゃない」


「全然気づかなかった……」


「ふふ……ヘビは音を立てずに移動するのも得意だから」


「いや、狙われてそうで怖いわ!」



 嬉しそうに笑いながら舌なめずりする美藍みらんに、俺は思わずツッコミを入れる。安心できる場所のはずの寝床に音もなくいきなりヘビが現れたら、死を覚悟するわ!



「ところでハル、スマホ見ながらニヤニヤして、何を見てたのかしら? ……もしかして、あたしが昨日送った写真とか……?」


「っ!? いやっ、違っ———」


「体温が0.5℃ぐらい上がったわよ? 相変わらず嘘が下手ね?」


「っ~~!」



 くぅぅっ、超精密サーモセンサー美藍みらんめっ!



「えいっ♪」


「あっ……!」



 隙をつかれ、美藍みらんにスマホを取られてしまう。

俺が制止する間もなく、美藍みらんはスマホに目を落とし、にんまりと口を歪める。



「ふふ……ハルったら、やっぱりあたしの写真を見———」



 ———と、美藍みらんが余裕の表情を浮かべていたのも束の間。フッと笑顔が消えた彼女の頬が、徐々に赤く染まっていく。



「ハ、ハル……あたし、これ……下着見えてた……?」


「えっと、その……うん……」


「あっ、うっ……ってことは、ハルは私の下着で———」


「いやっ! そんなことしてないからなっ!?」


「でも、ほら……熱がそこに———」


「違っ———ただの生理現象だからっ!」



        ♢♢♢♢



「おはよう、春空はるく君」


「お、おはよう聖羅せいらさん……と杏樹あんじゅちゃん」


「出ましたね雪谷ゆきやさん!」



 朝からひと騒ぎあったものの、俺と美藍みらん、そして千夏ちなつは、ようやく家を出た……ところで、待ち構えていた聖羅せいらさんと杏樹あんじゅちゃんに会った。


 何だか珍しい組み合わせだ。



「二人が一緒だなんて珍しいね?」


「私は普通に春空はるく君を迎えに来ただけよ。杏樹あんじゅさんが春空はるく君の家の前でうろうろしてたから捕まえたの」


「捕まえたって……だから杏樹あんじゅちゃんが浮かない顔してたのか……」


「……雪谷ゆきや先輩、怖いです……」


聖羅せいらさん、怖がらせたらダメだよ?」


「ん、春空はるく君が言うなら気を付ける…………ところで春空はるく君」


「何……?」


「昨日の写真、使えた・・・?」


「使っ———えっ!?」


「だって、春空はるく君に見てほしくて撮ったんだもの……春空はるく君も可愛いって言ってくれてたし、春空はるく君が気に入ってくれたらいいのだけど……」



 ……あの、『可愛い』っていうのは、『エロい』って直接言えないからそう言うしかないんですよ聖羅せいらさん?



「そ、それなら私も……先輩も私の身体を見て可愛いって思ってくれたんですよね……? そ、それなら気に入ってくれたってことですよね……?」



 杏樹あんじゅちゃん、君が一番直接的に性的だったんですが……? ここで『気に入った』って言ったら、俺は後輩に下着を露出させた写真を送らせて、それを眺めて楽しむ変態になるんですが……?


 いや、間違ってないなこれ……。



「もう、ハルが困ってるじゃない! こんなところで痴話喧嘩していないで、早く学校に向かうわよ!」


「そ、そうだな! 遅刻する前に行こうぜっ……!」



 ナイス美藍みらん

 これ以上追及されたら、色々とボロが出そうだ!



「……仕方がないわね。でも、美藍みらんさんも気にしてほしいくせに、なんだか怪しいわね……」


「べ、別にあたしは……あんた達よりも計画的にほしょ───近づこうとしてるだけよ!」



 ……『捕食』って言いかけたのは聞かなかったことにしよう……。



「……美藍みらんさん……さては自分の写真が使われた・・・・のね?」


「いやっ、違っ───」


「っ!? お兄、本当なの!?」


「先輩……まさか、そんな……」


「違うからっ! 美藍みらんも否定してくれ!」


「ふふん、だったらどうするのかしら?」


「なんでそこでさらに煽る!?」


「分かったわ。春空はるく君、また今夜も新しい写真送るわね? 次は何がいい? パジャマとか……メイド服とか? それとも……いっそ水着……?」


「……ハル、水着って聞いて、ほんの少し体温が上がったわね? ってことは、水着がいいのね?」


「いやっ、待っ───」


「次は水着で勝負ですか、負けませんよ雪谷ゆきやさん!」


「せ、先輩のためなら私も……頑張りますから、楽しみにしててください!」



 ど う し て こ う な っ た !

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