自撮りタイム(聖羅・美藍)

春空はるく君、チアガール好きなのかな」



 帰宅した聖羅せいらは、自室にて借りてきたチアガール衣装を広げて眺めていた。


 四月になり、千夏ちなつさんと杏樹あんじゅさんという、新しいライバルが二人も出現したのだ。


 特に千夏ちなつさんは、毎日のように春空はるく君にマーキングしている様子。……春空はるく君の匂いでそれを毎日確認している自分のことは棚に上げておく。



 とにかく、春空はるく君を取られないようにするには、何らかの方法で気を惹くしかないのだ。



「……ちょっと小さい、かも」



 ひとまず衣装を着てみたは良いものの、少し小さかったようで胸が少しきつくて苦しい。が、鏡に映る自分の姿は、男の子を見惚れさせるのには十分だろう。



「これなら……」



 ベッドの上にスマホを置き、上から覗き込むように写真を撮る。想像するシチュエーションは、春空はるく君に襲い掛かる自分だ。


 少々自分の欲望が溢れてしまったけど……。



「ふふ……♡」



 春空はるく君の反応を想像しながら、撮った写真を彼に送る。そして———



「っ……! 返信きた……!」



 数分後、通知の届いたスマホを慌てて手に取り、春空はるく君のメッセージを確認する。そこには、『似合ってて可愛いよ』という簡単なメッセージが記されていた。



「っ~~♡」



 そんな簡単な返事を見て、ボフッと枕に顔を埋めて悶えてしまう。春空はるく君が自分の姿を見て、『可愛い』と思ってくれている……嬉しいような恥ずかしいような、なんとも言えない感情に顔が熱くなる。


 それと同時に、『もっと見てほしい』と思うのは、きっと獣人として本能とは別の感情だろう。



「こんなのはどうかな……」



 仰向けに寝転び、わざと着崩して一枚撮影。

 胸元を指で引き下げ、さらに一枚。



「ちょっと見えすぎてるかな……でも、春空はるく君が喜んでくれるなら……」



 お腹や谷間がガッツリ強調された写真を選択し、悩むこと数秒。送信ボタンを押すと、10秒ほどで既読が付き、途端にカァッと頬が熱くなる。



「……これ、春空はるく君に保存されちゃうかな……」



 春空はるく君が一人、私の写真を見て……あっ、この妄想ちょっといいかも……じゃあ次は……


 下着が見えないギリギリを攻めてみたり、むしろ背中をガッツリ見せてみたり……。


 もはや最初のチアガール衣装とは関係なくなってしまったけど、『春空はるくに見られている』という快楽・・で、徐々にエスカレートしていくのだった。



        ♢♢♢♢



「ハルがチアガール好きだったなんて……まぁ、ハルなら好きよね、これ……」



 自室でチアガール衣装を着た美藍みらんは、鏡の前で姿を確認しながら複雑な感情を抱いていた。


 ちょっと動いただけですぐに中で見えそうな短いスカートも、全く隠す気がないノースリーブの袖も、なかなかの性癖を持っているハルの大好物だろう。


 しかし、そもそもこれは中にインナーやスパッツを着た上で着用するもので、下着の上からそのまま着るなんて、もはやいかがわしいお店のコスプレにしか……



 聖羅せいら千夏ちなつにスタイルで劣っている美藍みらんは、どうにかしてハルに性的に見られたいという思いと、『こんな恥ずかしい思いをしてまで……』という思いの間で揺れていた。



 ……一度、ハルの立場になって考えてみてはどうだろうか?


 もし幼馴染みからちょっとエッチなコスプレ写真が送られてきたら……


 頭の中にハルの姿を想像した美藍みらんは───



 自分ではなく、チア部の女子達を眺めて鼻の下を伸ばしていたハルの姿を思い出し、ムカついて勢いのまま写真を撮った。


 誰が見ても、『誘ってるだろ』としか思えないほど挑発的な感じで。



 もちろん、ハルが好きな身体の部位もバッチリ写っている。



「私が隣に居るのに他の女の子を眺めてるなんてあり得ないわよね……ハルは私だけ見ていればいいのよ!」



 そしてそのまま、写真をハルに送りつけた。

 ハルの反応がどうあれ、どうせ聖羅せいらちゃんや千夏ちなっちゃんも同じようなことしてるだろうし……



「ってことは、普通に衣装を着て写真撮っただけじゃダメじゃない……?」



 聖羅せいらちゃんは同じ女性でも見惚れるほど凄まじいスタイルだし、何より千夏ちなっちゃんは、衣装を着た姿を直接見せられるのだ。


 それでもなお自分に視線を向けさせるには……



「これはどうかしら……」



 ポーズをとり、下から見上げるような構図で撮影。

 ……スカートがめくれて下着が見えちゃってる……


 流石にそれを送るのは躊躇われるので、今度は上半身にズームしてもう一枚。



「ん~……ハル的には腋はマストなんだけど……しっかり見せる感じじゃなくてチラ見せするのもいいかしら?」



 逆にパーカーを着て隙間からチラリと覗くのを演出してみたり、脱ぎかけの状態でギリギリ隠れている姿を撮ってみたり……


 そして撮影した何枚もの写真をハルにまとめて送信する。



「これでどうかしら。ハル、絶対あたしのことを見てよね」



 写真の感想を心待ちにしながら、美藍みらんはハルの様子を想像して顔をにやけさせる。もしかしたら、我慢できなくなって使って・・・いたりして……。



 そんな風に妄想していた美藍みらんが、下着がばっちり映ってしまっている写真を送ってしまっていたことに気づいて悶絶するまで、もう間もなく———

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