……消すのはもったいないから保存しとくか

「ん……?」



 その日の帰り、HRが終わってすぐの時間だというのに、グラウンドの方で何らや慌ただしく動く生徒達の姿が見えた。



「あれは……すめらぎ先輩?」


「ハル、どうかした?」


「いや、先輩の姿が見えたんだけど、なんだか忙しそうだなって……」


「あー……」



 俺と美藍みらんが並んで、窓からすめらぎ先輩の姿を眺める。すると、それなりに距離があるはずのすめらぎさんの視線が、こちらを射抜いた。



「えっ……目があった?」


「……なんだか手招きしてない?」



 美藍みらんの言う通り、視線の先のすめらぎ先輩は、俺達に向かって手招きをしていた。



        ♢♢♢♢



すめらぎ先輩、どうしたんですか?」



 すめらぎ先輩に手招きされた俺と美藍みらん、そして途中で合流した聖羅せいらさん、千夏ちなつ杏樹あんじゅちゃんの5人は、すめらぎ先輩の元にやってきた。



「来てくれてありがとう。明日のレクリエーションの準備をしていたのだが、人手が足りなくてな……」



 『レクリエーション』とは、毎年新入生が入学してすぐのタイミングで行われる、球技大会的なイベントである。


 1年生と2、3年生の交流を深めて学校に慣れるためのイベントで、男子はバドミントンかサッカー、女子はバドミントンかバレーを選択できる。



 選択した種目で、学年関係なくチームを組んで試合ができると同時に、バドミントンは男女混合・・・・でペアを組めるため、活気に満ちたイベントになることは間違いのだ。



「それで、僕らに手伝ってほしいってことですね?」


「うむ、君を呼んだら他の子達も来てくれると思っていたよ」



 行動が見抜かれていて、何とも言えない表情を浮かべる美藍みらん聖羅せいらさん、千夏ちなつの3人。



「まぁいいですけど……あたし達は何をすればいいのかしら?」


「やることはたくさんあるぞ。ライン引きと道具の確認と……体育館ではバドミントンとバレーのネットを張っておかなければならないからな」


「うへぇ……」


「よし、男の子の有栖川ありすがわ君と、背が高い雪谷ゆきや聖羅せいら2年生と私で体育館でのネット張り。桜庭さくらば美藍みらん2年生と有栖川ありすがわ千夏ちなつ1年生、月野つきの杏樹あんじゅ1年生でグラウンドのライン引きを手伝ってくれ」



 テキパキと指示を出すすめらぎ先輩に従い、俺達はそれぞれ動き出す。


 俺もこのレクリエーションは楽しかった思い出があるから、その準備にも力が入るのだった。











「ありがとう、皆。お陰で比較的早く準備を終えることができた。これで明日はスムーズにレクリエーションを始められることだろう。皆、ご苦労だった!」



 それからおよそ一時間後、全ての準備を終えた俺達は、再びグラウンドに集まってすめらぎ先輩の挨拶を聞いていた。



「そして君達も……急な申し出にも関わらず、手伝ってくれて助かった。お礼をしたいのだが、この後時間はあるだろうか?」


「……春空はるく君?」


「っ……!? ごめん、ちょっとぼーっとしてた」



 ぼーっとしていた俺は、聖羅せいらさんに声をかけられてハッと我に返った。



「お兄、話聞いてた?」


「ねぇハル、もしかして……あれ?」


「……春空はるく君、ああいうの・・・・・が好きなの?」


「いやっ、違っ……!」



 俺がぼーっと眺めていた先、野球部の応援のためのチアリーディングの練習が行われている光景があった。


 俺の視線に気づいた聖羅せいらさん達がそちらを見て、スッと目を細めて俺に視線を戻す。



 それは美藍みらん千夏ちなつすめらぎ先輩までも同じで、『なんで目移りしてるの?』と咎めてくるような視線だ。



「まぁ確かに、あの衣装可愛いもんね……」

「でもちょっとスカート短くない……?」

「ハルのフェチ的にはストライクっぽいけど……」

「お兄のフェチ?」

「そこ、詳しく教えて」

「うん、ハルはノースリーブから覗く───」


「わぁぁぁっ! 待て待て待てっ!」



 暴露しようとするな美藍みらん! さすがに恥ずかしいわっ!


 美藍みらんの言葉を遮り、何とか俺の人権を守ることに成功する。美藍みらんさん、人の性癖を暴露しようとするのは止めてね!?



        ♢♢♢♢



「んっ……?」



 その夜の風呂上り、ふとスマホを見ると、いくつもの通知が届いてた。



千夏ちなつ美藍みらん聖羅せいらさん……杏樹あんじゅちゃんまで。いったい何が……。千夏ちなつは直接話しに来ればいいのに」



 そう思いながらも、何気なくLINEを開く。

 そこには———



「っ!?」



 『いつでも使えるようにちゃんと保存しといてね!』というメッセージと共に、千夏ちなつのチアガール衣装の自撮り写真が送られていた。


 衣装の上からでもはっきりと分かる大きな胸、裾が短いからか露出されているお腹、腕を伸ばして撮ってるからかチラリと覗く腋と、首に煌めくチョーカーとハート形のチャーム。


 妹とはいえ、これはちょっと刺激が強い。



「まさか……」



 とある考えに行きついた俺は、聖羅せいらさん達からのメッセージも確認する。すると、案の定・・・だ。



 聖羅せいらさんは四つん這いで覗き込むように撮った写真で、衣装がはち切れそうなほどの彼女の胸がかなり強調されている。


 細めた眼と少しだけ紅潮した頬、そして唇を濡らす舌先が、襲われてる感・・・・・・を醸し出してくる。




 美藍みらんは姿見に映った自分を撮った写真のようで、背が小さくとも素晴らしいスタイルが一目でわかる。


 ムチッとした太股、見せつけるように晒した腋、そして煽るような眼とぺろりと出した長い舌が、全部俺の性癖に突き刺さってヤバい。美藍みらんのやつ、全部分かってやってやがる……




 そして、まさかの杏樹あんじゅちゃんからも送られてきていた。



「デッッッ……!?」



 杏樹あんじゅちゃんのそれ・・は、聖羅せいらさんにも引けを取らないほど大きかった。


 恥ずかしいのか顔を真っ赤にし、谷間を隠すように胸元に当てた手でムニィッと形を変えており、余計に大きさが際立っていた。そしてちょっと肉感のあるお腹が、刺さる人には刺さりそうだ。


 メッセージには、『恥ずかしいですけど、先輩が見たいなら……』『こんなの見せるの先輩だけですから、誰にも言わないでくださいね……?』と……。


 ……こんなエッッッな写真を送って、どうしろと言うのだろうか……。いや、ありがたく頂いておくけども。



 『似合っていて可愛いよ』としか言えない俺は、それぞれにそう返しておく。すると全員からさらに新しい写真が送られてきて……


 俺が止めるまで、徐々に過激になっていくのだった。

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