俺の拒否権は……?

 入学してすぐの1年生は校内の案内やオリエンテーションなど、やることは色々あるためすぐに授業には入れない。


 俺ら2年生も同じく授業はなく、新しい教科書を受け取ったりするのだが……時間が割りと余るのだ。


 この余った時間をどうするのかと言うと───



「さ、まずはクラス役員を決めましょうか」



 担任の牛山うしやま真緒まお先生がそう宣言した。俺と聖羅せいらさんは、去年も真緒まお先生だったからよく知っている。


 雰囲気も体型もふわふわした、優しくて人気の先生だ。


 俺と聖羅せいらさんというのは、2年生になって担任が変わった生徒もいるわけで……



「ね、ハルは何かやるつもり?」



 ……そう、今年からは美藍みらんも同じクラスになったのだ。


 俺と聖羅せいらさんと美藍みらんは、全員同じ教科コースを選んだから、同じクラスになるのは必然の事であった。



「うーん、あんまりやりたくないなぁ……」


「あら、消極的なのね」


「クラス役員って、そのクラスの代表みたいなものだろ? 俺はそんなクラスを引っ張っていくような人じゃないし……」


「……そういう美藍みらんさんはどうなの?」



 俺と美藍みらんが話していると、聖羅せいらさんがそう言って会話に参加した。



「あたしもあんまり、『やりたい!』ってほどでもないんだけど……」


「ふぅん……」


「何か企んでる顔ね?」


「別に何も……美藍みらんさんなら、一緒に何かやりたがる男子はたくさんいると思うけど」


「そうかしら?」


「えぇ、実際に今も周りから視線が集まってるわよ」



 美藍みらんが周りを見渡すと、慌ててサッと視線を逸らす男子が多数。俺に対する言動が肉食獣すぎるだけで、何も知らない男子から見たら、美藍みらんは『学校の三大美女』の一人なんだよな……


 いや、最近千夏ちなつも入って『四大美女』になったんだっけ。



「では、学級委員長をやりたい人はいるかしら?」



 俺達が話をしている間にも、真緒まお先生の司会は続く。まずは学級委員長のようだが……



「はい」



 お手本のような挙手を見せたのは、鷺沢さぎさわさんだった。去年も委員長をやっていた彼女は、今年も引き続き委員長を続けるつもりのようだ。



「まぁ委員長つったら委員長・・・しかいねぇよな」

「委員長の代名詞みたいになってるしな」

「ま、鷺沢さぎさわさんがやってくれた方が私たちも安心だしね!」


「じゃあ、鷺沢さぎさわさんでいいかしら?」



 先生の呼び掛けに対し、クラス全員の拍手が

 響く。本人の立候補&満場一致の信任で、学級委員長は鷺沢さぎさわさんに決定した。



「ま、やっぱり鷺沢さぎさわさんだよね」


「去年も学級委員長だったのよね?」


美藍みらんはクラス違ったからあまり知らないだろうけど、すごく頼りになるんだよ」


「……そっかぁ、ハルは鷺沢さぎさわさんも守備範囲だったかぁ」


「えっ」


「あんまり猛禽類と戦いたくないんだけど……」


「待って、何の話!?」



 いや、鷺沢さぎさわさんには色々相談に乗ってもらったりしただけで、そういう気は全然……


 美藍みらんさん、ちょっと発想が過激すぎやしませんか?



「じゃあ、次ね。学校祭の実行委員会が2人欲しいんだけど、やってくれる人いないかしら?」


「……私がやります」



 手を挙げたのは、なんと聖羅せいらさんだった。去年はあまり積極的ではなかったから、今年になって自ら立候補した聖羅せいらさんに、俺と美藍みらんは驚きの目を向けた。



「あら、雪谷ゆきやさんがやってくれる?」


「はい……私と春空はるく君の2人でやります。……ね、春空はるく君?」


「えっ───」


「あら~、じゃあ雪谷ゆきやさんと有栖川ありすがわ君の2人にお願いしようかしら」


「えっ、あの───」


「くそっ、ミスった!」

「先に手を挙げてればワンチャン聖羅せいらさんとペアになったのに……!」

「ご指名かよ春空はるくのやろう……!」

「……いよいよ隠さなくなってきたわね……てぇてぇ……」



 なんかもう断れる雰囲気では無いような……。



「ふふ……」


「っ……!」



 聖羅せいらさんが美藍みらんに向けて、悪い笑顔を見せる。それを見て、美藍みらんが『やられた!』と悔しそうな表情をしていたのは、また別の話だ。



 こうして俺は流されるままに学校祭実行委員会になり、聖羅せいらさんとペアになったのだった。


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