ヘビの喉はすごすぎる

 ようやくの思いで家を出た俺達は、学校に行く前にある場所を訪れていた。それは、美藍みらんの家であった。


 今朝、美藍みらんが俺を起こしに来なかったから察していたけど、急な寒さで身動きが取れなかったらしい。


 気温によって体調が左右されるから、やっぱりヘビは大変だ。



 インターホンをならし、しばらく。

 玄関を開けて出てきたのは、かなり着込んだ美藍みらんだった。



「おはよう、美藍みらん


「おはよう、ハル……今日起こしに行けなくてごめんね?」


「いや、大丈夫だよ。急に寒くなったしね、動ける?」


「うん、しっかりお風呂はいったから、今は十分温かいわよ、ほら」



 美藍みらんは俺の両手を取ると、そのまま自分の頬を包むように触らせてきた。お風呂から上がってすぐなのか、お湯に手を入れたかのように暖かく、小さくてスベスベで気持ちがいい。



「ね?」


「本当だ。でも、身体冷やさないように気を付けなよ?」


「ん……あれ?」


「どうした?」



「……ハルの手から、聖羅せいらちゃんと千夏ちなっちゃんの匂いがする……朝からナニしてたの?」


「えっ、いやっ———」


「ふふん、お兄は美藍みらんさんとじゃなくて、私との熱い朝を選んだだけです!」


「なっ……何したのハル!?」



 これでもかとドヤ顔を浮かべた千夏ちなつがそう言い放つ。

 あまりの勢いに気圧されたのか、美藍みらんは俺に詰め寄ってきた。



「いや、何もしてな———」


春空はるく君の指、すごかった……♡」


「言い方ぁっ!」


「指がすごかったって何!? ねぇハル!?」


「違っ……そういうのはしてなくてっ!」


「……まぁ、ちょっと春空はるく君の指を舐めてみただけ」


「指を舐め———ハル、それ本当?」


「うっ……本当です……」


「ずるい……聖羅せいらちゃん、舐めたのはどの指?」


「私は右手の親指、千夏ちなつさんは薬指と小指ね」


「ふぅん……ねぇハル?」


「ひぃっ」



 ガシッと俺の手を掴んだ美藍みらん

 縦に割れている瞳孔がキュッと細くなり、輝くような瞳に俺の姿が映っている。


 ……ちょっと怖い。



 そんな美藍みらんは俺の手を見つめ、一言。



「じゃああたしは人差し指と中指ね」


「えっ———ぅおおおっ!?」



 ずるぅっ! っと、俺の二本の指が一気に根元まで美藍みらんの口の中へと飲み込まれる。


 聖羅せいらさんや千夏ちなつよりもさらにミッチリねっとりしていて、お風呂上りということも相まってかなり熱い。


 しかも、美藍みらんの長い舌が触手のように絡みついてきて、すごくすごい(語彙力)



「ちょっ、美藍みらん……!」


「んぅっ、んっ♡」


「やめっ、んひっ!」



 彼女の口の隙間から出てきた舌が、手のひらを這って手首まで絡みついてくる。ぞわぞわとした感覚が背筋に走り、俺は思わず変な声を上げてしまった。



 しばらく俺の指を楽しんでいた美藍みらんは、満足したようにゆっくりと離す。口の中の唾液を嚥下し、ほぅっと吐息を吐いて表情を蕩けさせた。



「どお、ハル? あたしは丸飲み・・・が得意なんだけど……シたくなったりしない?」


「うっ……いやっ……」



 こんなのを見せられたら、想像してしまうのは男の性だ。触った感じ、美藍みらんのそれは千夏ちなつ聖羅せいらさんとはレベルが違うように感じたし……ヘビってすごい。


 後ろからものすごいプレッシャーを感じるんだけどね。



「お兄……」

春空はるく君……」


「違っ……これは仕方がないと言うか……!」


「……ふふっ……♡」



 俺が千夏ちなつ聖羅せいらさんに詰め寄られている間、美藍みらんが何やら含みのある笑顔を浮かべていたことに、皆気づいていなかった。


 美藍みらんのその視線が、俺の下半身に向けられていることも……。



 朝からそんな風に遊んでいれば当然時間が過ぎていくわけで。

 俺達が学校に向けて出発できた時には、急がなければ遅刻するという時間に差し掛かっていたのであった。









 学校へ向かう道中、美藍みらんはふと振り返り、後ろを確認する。



美藍みらん……?」


「……ううん、何でもない」



(ずっと後ろを着いてくる熱源がある気がするんだけど……気のせいかな……)

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