モーニングコールにしては過激すぎないか?

「———く……はる……」



 遠くで、誰かの声が聞こえる。

 それはとても優しく、俺を包み込むような声だ。



春空はるく君———」



 声に導かれるように、俺の意識は急浮上していく。

 この声は———



「……もしかして聖羅せいらさん……?」


「えぇ……おはよう、春空はるく君」



 いつものように千夏ちなつ美藍みらんかと思ったら、まさか聖羅せいらさんが起こしに来るなんて……とんでもなく幸せな朝では?


 先輩後輩同級生拘わらず、学校中の誰もが憧れる聖羅せいらさんに起こされるという、誰もが羨む状況を喜びつつ、俺は布団を捲り———



「さっむ……!」



 身体を襲った冷気に負け、俺は再び布団に潜り込んだ。



春空はるく君?」


「なんか寒くない……?」


「ん……今日は季節外れの寒さになるんだって」



 四月になってるから徐々に暖かくなってくるはずなのに、まるで冬に戻ったかのような寒さだ。


 どちらかと言うと、リスは寒いのが苦手な方だ。種類によっては冬眠する程度には。せっかく過ごしやすくなってきたのに、まだ冬に逆戻りだなんて……。



春空はるく君、早く起きないと遅刻しちゃう」


「ごめん……でも寒いからもうちょっと……」


「……そう」


「んぐっ……!」



 布団に潜り込んで出てこない俺にしびれを切らしたのか、聖羅せいらさんが俺の上に乗ってくる。


 申し訳ないけど、美藍みらんと比べると重———



「……早く起きないと、春空はるく君が私の朝ご飯・・・になる」


「すぐに起きます」



 俺は冷気を我慢し、慌てて布団を捲り上げて聖羅せいらさんを見上げる。朝ご飯がどっちの意味・・・・・・だろうと、なんだか命の危機を感じるからな!



聖羅せいらさんって寒さに強いよね……」


「ユキヒョウだもの、当然よ」


「でも厚着はしてるんだね」


「温かい方が好きだから」


「そっか……」


春空はるく君も……寒いのが苦手なら、私のナカで温めてあげるけど」


「言い方ぁっ!」



 俺の上で馬乗りになっている聖羅せいらさんは、妖しい笑顔を浮かべながらコートの前を開け、広げて見せる。


 それと同時に、聖羅せいらさんのいい匂いがふわっと広がり、俺は思わず彼女の胸に飛び込みそうになってしまった。


 ……それはそれで、聖羅せいらさんは俺を包み込んで体温で温めてくれるんだろうけど……ヒトとしてダメになりそうだからお断りだ。



「大丈夫だから……とりあえず降りてくれる?」


「その前に……いつもの、して?」



 コートの前を開け、ベストをたくし上げて露出した聖羅せいらさんのお腹に、俺は咄嗟に目を逸らす。


 シミなど一切ない、雪のように白い肌。

 程よい肉付きがありつつ、引き締まったウエスト。


 これを撫でろと言うのはハードルが高すぎるんだけど……聖羅せいらさんが逃がしてくれないから仕方がない。


 ……という言い訳をして、俺も聖羅せいらさんのお腹を撫でるのは好きなのかもしれない。



「んっ……♡」



 俺が彼女のお腹に触れると、少し冷たかったのか、小さく声を漏らしてブルリと身体を震わせる聖羅せいらさん。彼女の体温が手から伝わってきて、じんわりと指先が暖かくなってくる。


 ゆっくりと撫でていくと、彼女は目を細めてゴロゴロと喉を鳴らし始めた。



「んぁっ……気持ちいい……♡」


聖羅せいらさん、あんまり変な声出さないで……」


「変な気持ちになっちゃう……?」



「お兄、早く起き———」



 ふいにドアを開けて入ってきた千夏ちなつが、俺と聖羅せいらさんの姿をみて硬直した。



「———お兄が大人の階段ダッシュしてる!?」


「いやっ、これは———」


「ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……」


「なんて気持ち良さそ……ずるいですよ雪谷ゆきやさん! お兄、私も撫でて!」



 駆け寄ってきた千夏ちなつが、同じように制服をたくし上げながら、俺の前にさらけ出してくる。


 千夏ちなつ雪谷ゆきやさんに負けず劣らず、白くて引き締ま———



「……あれ? 千夏ちなつ、ちょっと肉ついた?」


「あ?」


「失言でしたすみません」



 怖かった……とても怖かった……!



春空はるく君、それはアウト」


「うぅ……お兄に酷いこと言われたぁ……!」


「ごめんって! まだまだ細いから! むしろ今ぐらいの方が触り心地が良くて好きだから!」


「ダメ、それぐらいじゃ許さない……傷ついたから私が満足するまで撫でて♡ 撫でろ♡」



 空いている俺の手を取った千夏ちなつは、そのまま自分のお腹に俺の手を当てる。体温が高いのか、手がすごく暖かい。



「んぅっ……♡ これ好き……♡」



 最近の千夏ちなつも、隠さなくなってきたよな……本当……。



「まぁ、ワンちゃんはお腹撫でられるの好きよね」


「イヌじゃなくてオオカミですっ! そういう雪谷ゆきやさんも、ネコは普通お腹撫でられるの嫌なんじゃないですか!?」


「えっ、そうなの?」


「それはネコそれぞれよ。私は好きな方だから」


「……まぁ確かに、ネコはイヌみたいにあんまりお腹見せたりしないし……。どっちかって言うと、背中……というか腰を撫でられる方が好きそうだよな」



 流れてくるショート動画とかみても、撫でられてるネコは背中側ばかりだ。



「……春空はるく君が腰の後ろを撫でてくれるって言うのなら、私は最高なんだけど……」



 そんなことを言う聖羅せいらさんは、一度俺の手から離れると、背中を向けて俺の上に座り直した。


 むっちりしたお尻で視界が埋まり、なんかもう、やべぇ……。



「ここの辺り……春空はるく君、撫でて……?♡」



 聖羅せいらさんは俺の手を取ると、そのまま自分の腰の後ろに───



「んっ……!」


っ……!?」



 そんな俺の手に、千夏ちなつが噛み付いてきた。物理的に、パクッと。



「ちょっ、千夏ちなつ!?」


ふぉふぉぁらぇれほそこはダメでしょっ!」



 俺の薬指と小指が千夏ちなつの口に咥え込まれ、軽く歯が食い込んでくる。主人を取られたくない飼い犬のような反応だ。


 そのまま何か喋る千夏ちなつなのだが、よく聞き取れない。



「むぅ……千夏ちなつちゃん、邪魔しないで」


らぇれふダメです! ふぉふぉぁれぉのそこはネコのふぇーふぁんふぁいれふよぇ性感帯ですよね!?」


「なんて言ってるのか分からんよ千夏ちなつ、そろそろ離し……痛っ!」


「グルルル……」



 俺が手を引こうとすると、千夏ちなつが少し力を入れ、歯が食い込む。あの、結構痛いんですが……?


 千夏ちなつと目が合い、沈黙が流れる。どうやら千夏ちなつも、聖羅せいらさんが諦めるまで離さないつもりらしい。



「……」


「…………」


「………………」(れろぉっ♡)


「ぅわぁっ!?」



 千夏ちなつの口に収まった俺の薬指と小指に、温かくて柔らかいものが絡み付いてくる。


 千夏こいつ、舐めてきやがった……!



「んっ……ふっ……♡」


「ちょっ、擽った……!」


千夏ちなつちゃん……それいいわね、私も───」


「えっ、聖羅せいらさん? あの───」


「んっ……♡」


「ふぉぉぉっ!?」



 聖羅せいらさんが言っていることを理解するよりも早く、彼女は俺の親指を咥え込む。


 俺の右手の薬指と小指が千夏ちなつに、親指が聖羅せいらさんに咥えられた状態だ。


 温かく、少しざらざらした感触が親指を撫でる。こちらを見つめ、少し音を立てながら咥え込む2人の姿に、アレ・・を想像してしまうのは、仕方がないことだと言えた。



 いや、妄想してる場合じゃない。



「いい加減離して……!」


「「んぁ———」」



 空いている左手で二人の額を押すと、ようやく2人は俺の指を解放した。トロッと零れた2人の唾液が、俺の手を伝ってくる。



「ぅわっ……」


「あっ……ごめんなさい。ちょっと昂っちゃって……」



 俺がその光景に目を奪われている間に、聖羅せいらさんが取り出したハンカチで俺の手を拭く。一通り拭き上げると、そのハンカチをそのまま俺に握らせてきた。



「それ、あげるわね……好きに使って・・・・・・いいわよ……?」


「これぐらいで許してあげるかぁ……お兄、早く起きて朝ご飯食べて?」


「いや、あの……」



 2人の唾液がしみ込んだハンカチを渡されてどうしろと!?

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肉食『獣』系の美少女たちは、草食『獣』な俺を食べる気満々らしい 風遊ひばり @Fuyuhibari

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