四大美女、集結!

 始業式も終わり、帰りのHRが終わった頃。多くの生徒が昇降口へと向かっていくなか、逆に教室へと向かう生徒の姿があった。


 可愛らしく結んだツインテールを揺らし、小さくスキップするのは、愛しのひとを思ってか。


 彼女の首に着けられたチョーカーと、ハート型のチャームがキラリと光を反射する。



 無意識に顔を綻ばせる様子は彼女の魅力をさらに押し上げており、すれ違う男子生徒が皆振り返り見惚れるほどであった。


 そんな彼女はとある教室の前で足を止めると、中を見渡し、愛しのひとの姿を目に止めた。



「来たよ、お兄!」


千夏ちなつ! 別にわざわざ教室まで来なくても……」


「んーん、私が来たかったから……♪︎」



 そう言ってはにかむ千夏ちなつは今まで見たことがないほどに可愛かった。というか、千夏ちなつ……学校にまでチョーカーを……。


 中学の卒業&高校入学で、俺から何か贈ろうと話したとき、千夏ちなつが真っ先に欲しがったのが『首輪』だった。



 どうもあの時・・・の感覚が忘れられないらしいけど……さすがに妹に首輪を着けるのはどうかと思ったが千夏ちなつも譲らず、結局お洒落な感じのチョーカーで妥協することになったのだ。


 千夏ちなつは気に入ってるみたいで、今もこうして着けてきてるほどだ。



「おー、春空はるくの妹ちゃんかぁ」


「あっ、先輩。バスケの時以来ですね」


「なにっ!? リスちゃんの妹だと!?」



 2年生の教室まで来た新入生を物珍しそうに眺めていたクラスメイト達は、彼女が俺の妹だと知って驚いた様子で声を上げた。



「かっっっっっわ……!? えっ、マジ? お前こんな可愛い妹がいたの!?」

「わ~、本当に可愛い……スタイル良っ!」

「確かに目元とか似てるかも~」


「えへへ……」



 基本的に物怖じしない千夏ちなつは、口々に誉められて嬉しそうに頬をかく。そんな姿もまた、クラスの男子にはクリティカルしたらしい。



「はじめまして、千夏ちなつちゃん……かな? 俺は翔貴しょうき。ぜひ君と仲良くなりたいんだけど……どうかな?」



 キザッたらしい仕草で髪を掻き上げながら、千夏ちなつへと右手を差し出す翔貴しょうき


 ……可愛い感じの女子にはこうして次々と声をかける奴だから、この光景も見慣れたもので……クラスメイトも『またやってるよ……』と呆れた様子で眺めている。



「目の前で妹をナンパするの止めてくれない?」


「良いだろ別に、千夏ちなつちゃんがどうするか次第だろ?」


「うーん……なんだか胡散臭そうなのでお断りしますね!」


「ぅぐっ」


「フラれやがったww」

「そりゃそうだろ、千夏ちなつちゃんには翔貴しょうきじゃ釣り合わん」

「いや、でもまじで可愛いな……ついに三大美女が四大美女になるか?」

春空はるく君も可愛かったけど、女の子になるとあんな感じなんだろうね」


千夏ちなつ、一応先輩だからもうちょっとオブラートに包んであげても……」


「中途半端に返事をしても変な風にとらえられるし? だったらハッキリとチャンスはないって伝えてあげた方が親切でしょ」


「おぉ、手厳しい……」

「これは今まで散々コクられまくった経験があるな……」

「このルックスとスタイルならそうでしょ……」


「くっ……じゃあどんな男ならいいんだ!?」


「どんなって言われても……」



 チラッとこちらを見た千夏ちなつと目が合う。僅かに頬を染め、何かを言おうとした彼女の口は一度閉じられるも、少しの悛巡のあと、再びゆっくりと開いた。



「……せめて、お兄を越えるぐらいの魅力がないと」


「くっそぉ! また春空はるくかよぉっ!」



 翔貴しょうきの魂の叫びが、教室に響いた。



聖羅せいらちゃんも美藍みらんちゃんも、春空春空って……しってるぞ!? 今日お前が聖羅せいらちゃんと千夏ちなつちゃんとそれぞれ腕を組みながら、美藍みらんちゃんをおぶって学校まで来てたことをな!」


「マジ? 三大美女の内2人と密着しながら、それに匹敵する可愛さの妹までも……?」

「リアルハーレムじゃねぇか」

「いいぞ、言ってやれ!」

「美少女を独り占めして胡座をかいてるリア充を許すな!」


聖羅せいらちゃんにも美藍みらんちゃんにも千夏ちなつちゃんにもフラれ……俺と付き合ってくれる可愛い女子はいないってのか……」


翔貴しょうき、お前新学期始まって浮かれてるだけなんだよ……ほら、一旦落ち着けよ?」


春空はるく………お前もよく見たら結構可愛い顔してるな」


「えっ」


「えっ」

「アッ────!」

「ホモぉ……」

「激熱展開キタァァァッ!」


「それは聞き捨てならないわ」

「ちょっと! ハルはノーマルだから巻き込まないでよね!」


「えっ、ちょっ……何この展開」


「嫁キタァァァッ!」

「まさか春空はるくを取り合うなんて思いもしなかっただろうなぁ」

「いいじゃねぇか、翔貴しょうき春空はるくでお似合いだぞ!」

「春空×翔貴? 翔貴×春空?」

「どちらも大好物」



 聖羅せいらさんと美藍みらんも俺を取り囲み、ハーレムルートかと思ったら、翔貴しょうきのまさかの発言でBLルートに向かっているカオスな状況。


 ……いや、本当にどうしてこうなった。



 聖羅せいらさんと翔貴しょうきが真っ向から睨み合い、謎の緊張感が走る。


 その時だった。



「新学期早々騒ぎを起こすとは感心しないな、後藤翔貴しょうき2年生、雪谷ゆきや聖羅せいら2年生」



 快刀乱麻を断つかのような、凛とした声が通り抜ける。シンと静まり返るこの場に響く、シューズが廊下を打つ音。


 男女関わらず見惚れるほど凛とした立ち姿の彼女は、この学校で最も有名な人物だった。


 皆の視線の先に現れたのは、生徒会長のすめらぎアリサ先輩であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る