入学早々脳破壊される新入生達

「ご、ごめんなさいっ!」


「「「っ!?」」」



 聖羅せいらさんと美藍みらんの視線に耐えられなかったのか、二人の視線から逃れるため、その少女はなんと俺の背中に身体を寄せて隠れたのだ!


 背中に感じるのは、小さく震える彼女の身体と、柔らかい感触が……意外とでっか———いや、感想を述べてる場合じゃない!


 なにせ、彼女が俺の背中にくっついてきたことで、聖羅せいらさんも美藍みらん千夏ちなつも……表情がストンと抜け落ちて、この少女を睨んでいるのだから!



千夏ちなつ、『待て』っ!」


「っ!」


聖羅せいらさんと美藍みらんはちょっと落ち着け、な?」


「んっ……」



 千夏ちなつはほんの少しだけ頬を染めながら俺の指示に忠実に従い、俺に喉を撫でられた聖羅せいらさんは、気持ちよさそうに目を細めてゴロゴロゴロ……と喉を鳴らし始める。


 同じく俺に撫でられている美藍みらんはというと———



「……ハル、なんか撫でておけばいいとか思ってない?」


「いや、別にそんなつもりはなくて……」


「まぁ、別にいいけど……」



 そんな風に愚痴を言いつつも抵抗しないあたり、美藍みらんも悪く思ってないのだろう。そんなわけで、俺はあっという間に3人を止めることができた。



「す、すごい……猛獣・・の人達をこんなに簡単に……!」


「猛獣のって……もしかして、君は———」


「す、すみません、申し遅れました! 私は月野つきの杏樹あんじゅと言います! 一応、『ウサギ』です……!」


「っ! へぇ、月野つきのさんも、獣人なんだね」


「はいっ! その、先輩……ですよね? 杏樹あんじゅでいいですよ……?」


「じゃ、じゃあ、杏樹あんじゅちゃん……とりあえず、離れてもらえる?」



 いい加減、皆の視線が痛くなってきたから!



「あっ、ご、ごめんなさい! その、先輩の背中が何だか安心して———」


「「「…………」」」


「「ひっ……!」」



 ギンッと3人の視線が鋭くなる。

 何を言い出すんですかねこの子は!



「い、いえ、その……先輩も獣人ですよね……? 草食系の……。私もそうなので、肉食な方達よりも安心できるというか……」


「そ、そういうことね! みんな、怖がらせたらダメだぞ!」


「ハルがすぐに女の子を落とそうとするからでしょ」


「どうしてお兄はそう、すぐに女の子を引き寄せるの!?」


「そんなこと言われても……」


「ゴロゴロゴロゴロゴロ……」


聖羅せいらも早く戻ってきなさい!」


「と、とりあえず早く行かないと遅刻する……!」



 カオスすぎるこの状況、一刻も早く抜け出したい……!











 とにかく学校に向けて走り、何とか時間には間に合った。校門付近には新入生達も多く、時間に余裕がないはずなのに、結構人が多いようだ。



「ハァ、ハァ……なんか初日から疲れたな……」


「す、すみません……私がぶつかってしまったからですよね……」


「気にしないでいいよ。ケガもなかったし、時間にも間に合ってるしね」


「ギリギリになったのは、誰かさんが早速新入生の女の子を落とそうとするからよね」


「俺のせいか!?」


「初対面の後輩女子に『安心する』って言われて、鼻の下を伸ばしているんだもん」


千夏ちなつまで何を言い出すんだよ……」



「おい、見てみろよあれ……」



 どこからか、ふいにそんな声が聞こえてくる。

 気が付けば、その場にいる生徒たちからかなり注目を集めているようだ。


 それもそうか……聖羅せいらさんと美藍みらんは言わずもがな、千夏ちなつも贔屓目に見なくても美少女だ。さらに4人目の女子を連れているとなれば———



「うわっ、すげぇ美人……」

「入学式の時、あんな子いたっけ?」

「先輩なんじゃない?」

「こんな可愛い先輩と一緒の学校に通えるなんて……!」

「あれ、彼氏か?」

「いや、まさか。さすがに釣り合ってないだろ」

「でもなんで男一人に美少女が4人も……」



「注目されてるわね、ハル」


「これ、俺じゃなくて美藍みらん達のことを見てるんだよなぁ」


「……春空はるく君が見下されているみたいで少し嫌」


 そんなことを呟いた聖羅せいらさんは、ここぞとばかりに俺の右手を取って腕を組んだ。腕が彼女の胸に埋まり、ムニィッと柔らかく形を変える。



「っ! 油断しましたっ!」



 聖羅せいらの行動にハッとした様子の千夏ちなつは、『やられた!』と言いたそうな表情を浮かべてもう片方の腕を組む。



 突然、二人の美少女に腕を組まれるリアルハーレムの光景に、幼気いたいけな新入生たちの間にざわめきが広がる。



「やっぱり鼻の下伸ばしてるじゃない!」



 目つきが鋭い、小さな先輩みらんが声を荒げる。


 そうだ、男一人に美少女が二人だなんて間違っている! 頼む、俺達の気持ちを代弁してくれっ……!



「あーあ、あたしもぶつけた足が痛くなってきたわ。ハル、教室まで負ぶって行ってくれるわよね?」


「ちょっ、危なっ……!」



 あれ……?

 どうしてこの美少女はあの男の背中に飛び乗って、おんぶされているんだ……? いや、まさか……。でも、全員が頬を緩めて嬉しそうな表情を……


 それはつまり、これだけの美少女が3人もいて、3人ともあの男の———



「「「こんな世の中、間違ってる!」」」



 男からすれば夢のようなリアルハーレムの光景に、新入生達の中から絞り出すようにそんな声が聞こえてきた気がした。



        ♢♢♢♢



 新入生と在校生の顔合わせ……『対面式』が体育館で行われる。新しく入学した彼らの視線の先には、聖羅せいらさんがいた。


 美しい白銀の髪に、高身長、すごいスタイル……これだけの人が集まっても、聖羅せいらさんの美貌は群を抜いているのだ。新入生が見惚れるのも頷ける。



 けど、それも今の内だけ。

 入学したばかりの新入生のを初日から破壊する、『三大美女』の一人が登場するのだから。



「新入生諸君、まずは入学おめでとう」



 さらりとした黒髪を靡かせ、スカートから眩しいほどの綺麗な太腿を晒し、それでいて新入生達を前に自信に満ちた表情でそう言い放つ彼女は、今年3年生となった『すめらぎアリサ』先輩だ。



 『三大美女』と称される彼女は、生徒会長として人前に立つことも多く顔が広いため、聖羅せいらさんや美藍みらんを超える人気を誇る。


 アリサ先輩の姿を見た彼らは皆見惚れ、華々しい高校生活をスタートしようとアリサ先輩に告白して玉砕し、聖羅せいらさんや美藍みらんにたどり着く。


 去年も起こったこの流れは、きっと今年も同じだろう。

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