第2章

プロローグ

まえがき


あまりにもアネファンが思い付かないので、こちらを更新……毎日更新できるほどのストックはないですけどね


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「……なんだか今日は平和だ」



 見慣れない街並みを眺めながら独り・・ぶらぶらと歩いていた春空はるくは、思わずそう呟いた。


 平和だと感じた原因は明らか。今日は聖羅せいらさんも美藍みらん千夏ちなつも、この場には居ないからである。


 千夏ちなつは中学を卒業し、卒業記念として同級生と遊びに行っている。

 聖羅せいらさんも似たようなもので、家族でどこかに出掛けているのだとか。



 そして美藍みらんは、今日はたまたま定期検診を行う日だったようだ。


 と言うのも、爬虫類系の獣人というのは世界的に見てもかなり珍しいのだ。その中でも美藍みらんは、縦割れ瞳孔やスプリットタンは言わずもがな、高性能の熱感知や毒腺など、ヘビとしての特徴を色濃く残す。


 これ程顕著に特性が現れていることは非常に珍しく、『地球上に数人』といったレベルなのである。


 だからこそ美藍みらんは頻繁に定期検診を行っていて、その検査の場には様々な学者が集まるのだとか。



 というわけで、今日は俺一人なのだ。



「……誰も居ないなら居ないで、なんか寂しくなってくるな」



 まだまだ外は寒いとは言え、あまり外に出ないのもどうかと思って外に出てみたのだ。せっかくだし、あまり行ったことのないところへ出掛けようと思って。


 一人の時間を満喫していても、思い浮かぶ彼女達の顔。自分でも想像以上に、『彼女達の側に居たい』と心のどこかでは思っていたのだろう。



「んっ……?」



 ふと目に入ったのは、なかなかにお洒落なスイーツのお店だった。イートインもできるそのお店は、如何にも女子高生が好きそうな……というか、インスタ映えを狙って多くの女性が集まりそうなところだった。


 俺が思わず足を止めたのは、『聖羅せいらさん達が好きそうだな』と思ったのはもちろんだけど……そのお店の前に明らかに挙動不審な人物がいたからだ。


 しかも俺は、その人物に激しく見覚えがあった。



「……すめらぎ先輩ですよね、何してるんですか?」


「っ!?」



 声をかけられ、ビクッと肩を震わせるその人物は、俺が通う学校では一番の有名人……生徒会長の『すめらぎアリサ』先輩だった。


 聖羅せいらさん並に背が高く艶やかな黒髪を後ろで束ねた姿は、まるで空から吊り下げられているかのようにピシッと整った姿勢と相まって、『綺麗でカッコいい』という印象を与える。


 様々な武術を嗜んでいるらしく、肉体と共に精神も鍛え抜かれており、天性のカリスマで全校生徒を纏め上げている超人だ。


 ちなみに、『アリサ』という海外っぽい名前ではあるものの、純日本人らしい。



「だ、誰かと思えば、有栖川ありすがわ春空はるく1年生か……」


「えっ……? 先輩、俺の名前を……」


「私は生徒会長だぞ? 全校生徒の顔と名前ぐらいは覚えているよ」



 天才かな?



「すごいですね、生徒全員だなんて……」


「生徒会長を務めているのだから当然だろう?」


「ところで、そんな生徒会長がここで何を……?」


「やっ……べ、別に、この店が気になったわけじゃなくてだな……」


「……入りたかったんですか?」


「ぅ……」



 図星だったのか、少し顔を赤らめて俯くすめらぎ先輩。これは初めて見る反応だった。



「わ、私のような女の子らしくない女には似合わないだろう……?」


「いや……」



 狙ってるのか素なのか分からないけど、今のすめらぎ先輩はめちゃくちゃ女の子なんですけど?



「今なら可愛っ───似合うと思うので、入っても大丈夫だと思いますよ?」


「し、しかしだな……」



 うーん……あっ、そうだ。



「実は俺もここに入ろうかと思ったんですけど、男一人だと入りにくくて……」


「えっ……?」


「だからすめらぎ先輩、俺と一緒に入りませんか? 後輩を助けると思って、お願いします!」


「……ふっ、そこまで言われたら断るわけにはいくまい。他でもない後輩の頼みだ、私に任せろ」



 ……この人、頼られてると分かった瞬間持ち直した……というか、取り繕ってるのか? 俺の中では『鬼教官』みたいなイメージだったんだけど、もしかしたら彼女は猫を被っているだけなのかもしれない。













「はぁぁぁ……可愛い……」



 注文し、到着したイチゴパフェの写真を撮りまくるすめらぎ先輩と、目を丸くする俺。俺も頼んだケーキにはまだ手をつけず、すめらぎ先輩が満足するのを待つことに。



「ハッ……! す、すまない……」


「いえ、すめらぎ先輩がこういうの好きだったなんて……意外ですね?」


「あっ! いや、そのっ……違くて───」


「あれ? 違うんですか?」


「違っ……くはないが……その、他の者には内緒にしてくれないか? 生徒会長としての威厳が……」


「最初から言いふらす気なんてありませんよ!?」



 いや、まぁすめらぎ先輩が可愛いものとか甘いものが好きって分かったら、ギャップがあってもっと人気になりそうだけど……。



「そ、そうか、助かる……君は優しいな」


「俺もケーキとか好きですしね。……でも、そろそろ食べていいですか?」


「す、すまない! 待たせていたな、食べようじゃないか……!」


「そうですね、いただきます」



 ふんわりとしたケーキにフォークを通すと、抵抗もなくふすりと刺さる。甘すぎず、イチゴの酸味と甘いが心地よい。


 ここは間違いなく当たりのお店のようだ。



 パフェを頬張ったすめらぎ先輩も、顔を綻ばせて喜んでいる様子。なんだろう、急に乙女で可愛い。


 そんなわけで俺は、たまたま出会った『三大美女』筆頭のすめらぎ先輩と擬似デートの時間を過ごしたのだった。



        ♢♢♢♢



「今日はありがとう、有栖川ありすがわ君」


「いえ、こちらこそ。一緒に入っていただいてありがとうございました」


「久しぶりにリフレッシュできたよ。これでまた、4月から頑張れるな」


「そっか、すめらぎ先輩は生徒会長ですもんね……」


「うむ。私がこの学校をより良いものにしてみせる。有栖川ありすがわ君も、学校ではよろしく頼む」


「はい!」



 にこやかにそう言い、ポニーテールを揺らしてその場を後にするすめらぎ先輩。そんな彼女の背中を眺めながら、振れ幅が大きい彼女のギャップに、俺は思わず笑ってしまうのだった。

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