なんか俺のイメージが変になってないか!?

聖羅せいらさん、一緒に帰る?」


「……ううん、ごめんなさい。今日は美蘭みらんさんの日だから……」


「えっ……?」



 放課後、聖羅せいらさんを誘ったものの、まさかのお断りを入れられた。『美蘭みらんの日』って、どういうことだ?



美蘭みらんの日って何?」


「待っていれば美蘭みらんさんが来るから、そこで教えてくれると思うわ。……その代わり、私は明日ね……?」



 そう言い残した聖羅せいらさんは、俺をその場に残して教室を出ていった。


 この場面だけを見て、『春空はるく聖羅せいらが破局した』という噂が流れたのは別の話だ。



「?? ……よく分からないけど、とりあえず美蘭みらんを待てばいいんだな」



 要領を得ない聖羅せいらさんに、とりあえず従って教室で待つ。美蘭みらんが来たのは、それから数分後だった。



「良かった……待っててくれたのね、ハル」


美蘭みらんが来るからって、聖羅せいらさんに言われてさ……聖羅せいらさんはもう行っちゃったけど」


「ふぅん……あの執着が強いネコ科にしては我慢したわね……」


「執着……?」


「ううん、何でもない。それでね、ハル……この後ちょっと付き合ってくれない? 帰りに寄りたいところがあって……」


「寄りたいところ? いいよ、一緒に行こうか」


「うん、ありがとう!」



 顔を綻ばせる美蘭みらんを見て、なんとなく俺は見当をつける。『美蘭みらんの日』って、これ・・のことか……?












「ん~……♪︎ 美味しい……♪︎」



 そう言って表情を緩める美蘭みらんの手には、ス○バの新作が握られていた。


 そう、学校を出た俺と美蘭みらんは、その足でス○バに行き、新作を手に入れたのであった。



「ん……めっちゃ久しぶりに飲んだけど、確かに美味いなこれ」


「でしょ? 頻繁には行けないけど、新しいのが出たときぐらいはねぇ……」


「……カロリーえぐそう───」


「ハル、禁句」


「ひぇっ」



 スッと目を細め、こちらを睨み付ける美蘭みらんに、身体がビクッと震えて硬直する。ここ最近で一番鋭い眼だ……



「……まぁ、多少は気にしてるけどさ……最近ちょっとお肉ついてきてるし……」


「い、いや全然! 美蘭みらんはまだまだ細いから大丈夫だろ……!」


「そう……? ハルがそう言ってくれるなら……」



 ギリギリセーフ!

 本当、どうして俺はこう……見えてる地雷を踏みに行ってしまうのか……。女子にカロリーの話は地雷だって明らかなのに。


 少し会話が途切れ、気まずい空気が流れる。何か別の話題は……あっ。



「そう言えば美蘭みらん、『今日は美蘭みらんの日』って聞いたんだけど、それって……」


「っ……! それ、聖羅せいらちゃんが……?」


「そ、そうだけど、どうした?」



 頬を仄かに赤く染め、こちらを見上げる美蘭みらんの眼は、瞳孔がキュッと細くなっている。


 慌てたときとか、驚いたときの反応だな……。



「何かの記念日とか?」


「そ、そうじゃないんだけど……」


「うーん……聖羅せいらさんも一緒にいたらダメなのか?」


聖羅せいらちゃんも一緒がいいの!? ハ、ハルの変態ぃ……」


「待って、何で今俺罵られた?」


「と、とにかく、私と二人じゃないとダメなの!」


「……よく分からないけど、今日は美蘭みらんと二人きりで何かするってことか?」


「そ、そういうことよ……!」


「そっか……何するかは知らないけど、楽しみだな」


「た、楽しみなのっ!?」


「ぅおっ!? まぁだって、美蘭みらんとだし……」


「私とだから……えへへ……分かったわ、私も覚悟を決めるから……! ってことで、早速行くわよ」


「お、おう……つぎは何処に?」


「私の家」


「えっ……?」



        ♢♢♢♢



 結局来てしまった……。

 基本的に美蘭みらんが俺の部屋に来るばかりだったから、俺が彼女の部屋に入るのは久しぶりなんだけど……


 色調とか置いてあるものとか全部が可愛らしくて、語彙力はないけど『女の子らしい部屋』って印象だ。


 そして彼女がヘビだからか、かなり性能が良いエアコンが少し暑めの室温で安定させてくれている。



「準備するから、ちょっと後ろ向いててくれる……?」


「お、おう……」



 準備って……何の準備だ?

 疑問に思いつつも、俺は美蘭みらんに背を向ける。



 ふと、彼女のベッドの上に置かれているリスのぬいぐるみが視界に入った。枕の近くに置かれたそれは、ベッドに寝転ぶとちょうど目が合うだろう。


 ──なんか恥ずいなっ!

 いや、同じリスだからって、このぬいぐるみと俺を重ねるのは自意識過剰だけど……色々想像しちゃって……



 少し暑くなってきて、俺は上着を脱ぐ。とりあえずベッドの上に置かせてもらおう。……い、一応丁寧に畳んでおくか!



「お待たせ、ハル。こっち見ていいわよ」


「オッケー……っ!?」



 振り向いた俺は、視界に飛び込んできた美蘭みらんの姿を見て、俺は慌てて目を逸らす。


 彼女は今、ブレザーもスカートも脱ぎ、なんならインナーもブラも外し……上半身は制服のシャツのみ。下はパンツとニーハイソックスのみの状態だった。


 しかも、そのシャツも上から2つのボタンしか留まっておらず、彼女の白い肌も、芸術品のように見事なクビレも、ニーソが食い込むムッチリした太股も、全部丸見えだ。



 この姿、どこかで見覚えが……じゃなくて!


 聖羅せいらさんと比べればロリ……慎ましいスタイルだが、男女問わず見惚れてしまうような美しさがある。



 そんな彼女は、頬を真っ赤に染めながらおずおずとした様子でシャツの裾をたくし上げ、蚊の鳴くような声を絞り出す。



「ハルは、その……な、舐めるのが好きなんだよね……? あたしにだったらいいから……シて……?」


「なっ───」



 何を言い出すんですか美蘭みらんさん……!?

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