モンスターテイマーへの道

 それから数日経ったある日。

 クラスのみんなで遊びに行ったあの日、初めて目の当たりにした彼女達の本気・・を思いだし、俺は遠い目をしていた。


 聖羅せいらさんも美藍みらん千夏ちなつも、ヤバい動きしてたな……あんなに運動ができたなんて……


 おかげで修也しゅうやから持ちかけられた勝負には勝つことはできたけど、また新しい問題も発生してしまったのだ。



 ……簡単に言えば、俺はどう頑張っても彼女達に身体能力で勝てないということだ。


 自然界ならともかく、本来なら男性が女性に体力的に勝って然るべき。けど、結果はこの通りで……


 このまま今の状態に甘んじていれば、俺は本当に狩られるだけの小動物になってしまう……! だから、このままではいけないのだ!



「というわけで、聖羅せいら美藍みらんを抑えるというか……手懐ける方法とかないかな……?」


「……どうして私に聞くのですか?」



 俺の問いかけに、鷺沢さぎさわさんは怪訝な表情でそう答えた。



「いや、その……鷺沢さぎさわさんがワシ・・の獣人だってことを知ったし、それなら肉食獣を制御する方法とか、知ってたりしないかなって……」


「……まず、その言い方をやめた方がいいです。獣人の中には、獣扱いされることに嫌悪感を示す人も少なくありません」


「ぁっ……! ご、ごめん! 全然そんなつもりはなくて……」


「私は別に構いませんけど。……おそらく、雪谷ゆきやさんや桜庭さくらばさんも。とにかく、今後気を付けてくれれば良いです」


「考えが足りてなかったよ……ごめん」


「それで、雪谷ゆきやさん達を手懐ける方法ですか……」


「そうなんだよ……このままだと命の危険が……」


「……喉を撫でてあげれば良いのでは?」


「ぇっ……えっ?」


「だから、喉を撫でてあげてはどうですか?」


「……それ、イヌかネコにやるやつでは……」


雪谷ゆきやさんはの面が強い人ですので、ネコが喜ぶことなら雪谷ゆきやさんも喜ぶかと」


「そんな適当な……それに、男に触れられるのは嫌なんじゃないかな」


「絶対に失敗しません。必ず喜んでくれるでしょう。すぐにやってみるべきです。なんなら、毎日撫でてみてください」


「な、なんか圧が……」



 急に饒舌になり、そう捲し立てる鷺沢さぎさわさん。なんだか、有無を言わせぬ圧を感じる……。



「ところで、相手がヘビだった場合は……」


「『ヘビは懐くことはない』とは聞きますね。慣れれば手に乗ったりすることはできるらしいですけど」


「懐かないんだ。……だから美藍みらんはあんなにツンツンしてるのか……」


「あれは照れ隠しだろぉ……気付けぇ……」


「えっ……どうしたの鷺沢さぎさわさん?」


「いえ、何でもないです。ただ、ヘビが匂いや顔を覚えるのには時間がかかるようなので、根気よく慣れさせていくのが良いかと」


「なるほど、時間が……あ、でも俺と美藍みらんって幼馴染みだし、十分すぎるぐらい一緒にいた気がするな」


「調教済みかよぉ……幸せになってくれぇ……」


「えっ……どうし───」


「何でもありません。それなら、あとはもう触れ合うだけですね。手に……は乗らないので、膝の上とかお腹の上に乗せてあげてください。きっとリラックスすると思いますよ」


「本当にそんな上手くいくのかなぁ……」


「まぁ……もしかしたら興奮して、セッ───戦い・・になるかも知れませんが」


「戦いって……美藍みらんに噛まれたら終わりなんだけど……」


「骨は拾ってあげますよ」


「最初から死ぬ前提!?」


「とにかく、やられてばかりでは相手の思う壺です。野生の世界でも、抵抗する獲物より無抵抗で弱った獲物から狙うのは必然ですから。なので、貴方の方から打って出なければなりませんよ」


「わ、分かったから……でも、いきなりはちょっとハードル高いから、まず練習を───」


「はぁぁぁ……ヘタレ……」


「えっ───」


「何でもないです。……では、貴方にこれをあげますね」


「これは……?」



 鷺沢さぎさわさんが差し出した小さなカードのようなものを受け取る。よく見てみると、それはネコカフェのクーポンだった。



「これ……貰っていいの?」


「えぇ、私は一度行きましたが、おそらくもう行かないので」


「それはまたどうして……」


「……ネコが怖がって、一匹も寄ってこなかったので……私が『オウギワシ』なのがダメでした……」


「……なんか、その……ドンマイ」


「ありがとうございます……とにかく、いきなり雪谷ゆきやさん本人が難しいのであれば、そこで練習してみるのも良いでしょう」


「ありがとう鷺沢さぎさわさん、早速行ってみるよ!」


「お役に立てたのなら何よりです」


「お礼はまたするね!」



 貰ったクーポンを財布にしまっておき、俺は教室を後にする。今日は別に予定はないし、早速行ってみようかな!









鷺沢さぎさわ陽奈子ひなこは、嬉しそうに教室を後にする春空はるくの背中を見て、静かに笑みを深める。



(上手くいけば、小動物に撫でられて気持ちよくなってしまう猛獣が見られる……ふふふ……)



鷺沢さぎさわ陽奈子ひなこは、どこまでもブレない女であった。

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