まだ勝負は終わっていませんよ!

「えいっ……!」


「っ!?」

「待っ……今完全に死角だっただろ!? 背中に目でもついてんのか!?」


「あたしは熱を見れるんだって。死角なんてあるわけないじゃない」


「ナイスカット、美藍みらん!」





雪谷ゆきやさんや委員長はやべぇが、お前がなのは変わらねぇだろ春空はるくっ!」


「残念、そこは私の守備範囲ですぅっ!」


「うおっ! なんでその距離から間に合うんだよっ……!」


「ナイスブロックだ、千夏ちなつ!」






「ふっ……!」


「なっ……片手で!?」

「空中のボールを片手でキャッチとかチートかよ……!」


鷺沢さぎさわさん、ナイスリバウンド!」






「うぉぉぉぉっ! ぐぁっ!」


「うわっ……寛孝ひろたかを吹っ飛ばしてそのまま上からダンク……?」


聖羅せいらさん、ナイスだけどほどほどにね!」


「ん……怪我させない程度に全力でやる」



 体力、スピード、瞬発力すべてが化け物級な聖羅せいらさんと千夏ちなつが点を取りまくり、片手でボールを扱える鷺沢さぎさわさんがパス回しを、コート全体が視野の美藍みらんがディフェンスで暴れ回っている。



 ……これ、俺要らないな?

 俺、さっきから『ナイス』しか言ってないもん。


 俺がフィジカル的に劣る分を、千夏ちなつが動き回って助けてくれている。二人分のディフェンスを行い、その上さらに最前線で攻撃にも参加しているのに、千夏ちなつのスピードは全く衰えないんだよな……。


 オオカミの体力って、マジで無尽蔵なんだな。

 もちろん他の子達も……


 獣人が本領を発揮すると、これほど人間離れするんだな……。



        ♢♢♢♢



「えー……と言うわけで、58対14で、獣人ハーレムチームの勝利!」


「ん~……久しぶりにたくさん運動できてすっきりしたわ」


「流石にこれだけ動くと、冬でも汗かいちゃうわね」


聖羅せいら千夏ちなっちゃんは特に動き回っていたものね。ほら、タオルあげるから」


桜庭さくらばさんはいいのですか?」


「あたしはあんまり汗かかないから。その代わり、体温が変わりやすいから気を付けないとダメだけどね」


「なるほど、変温動物特有の問題ですね」



「「「「「  」」」」」



 余裕の表情でお喋りを始める聖羅せいらさん達と、バテて死屍累々の修也しゅうや達5人。誰がどう見ても、勝敗は明らかだった。


 ……俺も体力は残ってるよ。

 だって、千夏ちなつ聖羅せいらさんがカバーしてくれて、俺はあんまり動いてないんだよね……。



「なんか……すごいね、皆……」


「あたしや鷺沢さぎさわさんはともかく、聖羅ヒョウ千夏オオカミが一般人と遊んだらこうなるでしょ」


鷺沢さぎさわさんも大概だと思うんだけど? バスケのボールを片手で掴むとかヤバくない……?」


「まぁ……全力なら握力が150kgぐらいありますし」


「ゴリラかな?」


「オウギワシですが?」


「ひっ……! ご、ごめんっ……!」


「ハルって……ホント学ばないわね……」


「と、とにかく、皆のおかげで勝てたよ! ありがとう」


「まだ終わってないよ、お兄!」


「えっ……?」


「私と雪谷ゆきやさんの得点が同じなんだもん! まだ私と雪谷ゆきやさんの勝負がついてない!」


「……確かにそうね」


「まだやる気なのか千夏ちなつ!? しかも聖羅せいらさんまで!」


「当たり前よ! いくら綺麗でスタイルも良くて、お兄の好みドンピシャだからって、そう簡単にお兄を渡したりしないんだから!」


「それじゃあ、次はバドミントンで遊んであげるわね? ワンちゃん・・・・・


「なっ……! 私はイヌじゃなくてオオカミです! もう怒りました、いくら雪谷ゆきやさんといえど、容赦しませんからね!」


「ん……望むところ」



 そう言い合って、次はバドミントンのコートへと移動する千夏ちなつ聖羅せいらさん。


 さっきまでバスケであれだけ走り回ったのに、ほとんど休憩なしで次の競技に行くとか……本当どれだけ体力が有り余っているのだろうか。



「なんだかんだ言って、あの二人も仲良くなりそうね?」


「まぁ……千夏ちなつの奴も、ツンツンしているように見えて、ああやって誰かに構って遊んでもらうのが好きだしな」


聖羅せいらちゃんもあんまり表情とか変わらないけど、ああ見えて面倒見の良さはあるしね。『ちょっと遊んでやろう』みたいな、上から目線かもしれないけど」


「……オオカミとヒョウで、ケンカに発展しないかが心配だけどね……」


「ま、それは大丈夫でしょ」


「本当に? 俺の中ではイヌとネコは結構ケンカするイメージなんだけど」


「え、だって……」



 2人とも、ハルの事が好きなんだから、ハルを心配させたり怒らせたりするようなことはしないでしょ。


 そう言いかけて、美藍みらんは口を噤む。

 聖羅せいらちゃんも千夏ちなっちゃんもまだ自身で言葉にしていないそれを、あたしが暴露するわけにもいかないものね。



美藍みらん?」


「んーん、なんでもない。本当にケンカするんだったら、わざわざバドミントンを提案しないだろうし」


「あー、それもそうか」



 千夏ちなつの奴も、身体能力があれだから、結局全力で遊べる相手が欲しかっただけなんだよな……。


 そう思ったら妙に納得がいった俺は、一喜一憂しながら聖羅せいらさんに挑む千夏ちなつの姿を見て、思わず嬉しさが込み上げてきた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る