獣人ハーレムvs拗らせ運動部

 修也しゅうやに高らかに宣言され、やってきたのはバスケのコート。要するに、俺側のチームと修也しゅうや側のチームとで、バスケで勝負をしようということらしいのだ。



「ちょっ……修也しゅうや、戦力に差がありすぎる気が……」


「そうは言ってもなぁ……春空はるくをボコっ……勝ちたいっていう奴らしかいなくてさ」


「くっ……お前らそれでも友達か!?」


「勝負の場に情など不要!」

「俺らは純粋に勝ちたいだけなんだよ!」



 口々にそういう彼らは、ニヤけるのを隠しきれていない。くっ……俺はただ聖羅せいらさんや美藍みらんと仲良くしているだけなのに……!


 しかし、ちょっと勝ち目がないんじゃないか?



 バスケに参加する相手のメンバーは、身長193cmのかける、185cmの洸雅こうが、188cmの寛孝ひろたか。この三人はバスケ部だ。


 さらにサッカー部の修也しゅうやとバレー部の賢人けんとを含めた、運動部5人で固めている。



 対する俺は……身長155cm。30cm近い身長差はどうしようもない。そして、美藍みらんに至っては身長が140cmちょっとだ。


 聖羅せいらさんが入ったとしても、170後半ぐらいだしなぁ……向こうと比べるとやはり劣る。


 そんなフィジカルの差はもちろんのこと……



「こっちのチーム、3人しかいないんだけど?」


「誰もそっちのハーレムチームに入りたくないんじゃね?」


「くっ……」



 確かに……男1人に女の子数人が寄り添うハーレムには、俺も入りたくないけど……!



「では、私がそちらに入りましょう」


鷺沢さぎさわさん……!」



 手を挙げたのは、まさかの鷺沢さぎさわさんだった。



「まさかの、鷺沢さぎさわさんもそっち側・・・・に───」


「普通に考えて、人数が合わなければ勝負にならないでしょう?」


「ぅっ……」



 正論である。

 こっち側にさらに女の子が増えるのは、ある意味修也しゅうや達のせいかもしれないな。



「あと一人、誰かこっちに入ってくれる人いない?」


「「「…………」」」


「……あの、俺の味方は……?」


千夏ちなっちゃんでいいじゃない」



 俺の問いかけに、シン──と静まり返ったその場に、美藍みらんの声がよく通る。千夏ちなつって……なんで?



「今から呼ぶのか? さすがにそれは───」


「ううん。千夏ちなっちゃん、今この場に来てるわよ?」


「……バレてしまいましたか……」


千夏ちなつ!? どうしてここにっ!?」



 美藍みらんは何を言っているのだろうと思っていた矢先、美藍みらんの視線の先の物陰から現れたのは、紛れもなく千夏ちなつであった。



「お兄が遊びに行くってなると、当然雪谷ゆきやさんも美藍みらんさんも来るじゃないですか! 下手したら他の娘も……抜け駆けは許しませんよ!」


「……ってことで、ずっとついてくる熱源があったから何かと思ってたんだけど、やっぱり千夏ちなっちゃんだったわね」


「なんか色々ツッコミたいところはあるけど、今は何でもいい! 千夏ちなつ、お兄ちゃんに協力してくれ!」


「もちろん! というか、私だけでも十分よ! 雪谷ゆきやさんにも美藍みらんさんにも、お兄は渡さないんだから!」


「……千夏ちなつ、宣戦布告する相手が違う」



 腰に手を当て、ビシッ! と聖羅せいらさんと美藍みらんに向けて指を指し、そう宣言する千夏ちなつ


 聖羅せいらさんも美藍みらんも、可愛い子供を見るかのような優しい目で千夏ちなつを眺めている……



「お、おい春空はるく……お前、こんな可愛い妹がいたのか……?」


「あれ? 言ってなかったっけ」


「言ってねぇよ! なんでこうお前は女の子に囲まれてんだよ!」

「しかも明らかに兄への好感度が高い、最高の妹じゃねぇか!」

「いや、それだけじゃねぇ……雪谷ゆきやさんや桜庭さくらばさんと並んでも遜色ない美貌……将来の『三大美女』候補じゃねぇか!」


「くそっ、やっぱりここで春空はるくに勝たなきゃ気が済まねぇ!」


「お前ら、拗らせすぎだろ……」



 とにもかくにも、一応5人揃ったわけだ。


 獣人ハーレムチームvs拗らせ運動部チーム、両者のプライドをかけた試合が今、始まる!



        ♢♢♢♢



「それじゃ、ジャンプボールからね!」



 センターサークルにて向かい合う、かける聖羅せいらさん。審判役を買って出てくれた女子がボールを構え、今まさに試合が始まろうとしていた。



「ほっ」


「「っ……!」」



 真上に投げ上げられるボール。それを見た二人が、タイミングを見計らって同時に飛び上がる。


 聖羅せいらさんも高身長だけど、190cm越えのバスケ部のかけると比べれば、遥かに劣る。


 当然の如く、最初のボールキープは拗らせ運動部チームである───かのように思われた。



「えっ……?」



 ジャンプしたかけるの目線の高さにあったのは、聖羅せいらさんの胸。


 身長差などものともしない驚異的なジャンプ力で先にボールに触れたのは、聖羅せいらさんの方だった。



「うっそだろ……」

「ちょっ、うぉぉっ!」



 聖羅せいらさんが叩き落とし、コートで跳ねたボールを取ったのは鷺沢さぎさわさん。


 彼女がボールを取り視線を上げる頃、オオカミ故の驚異的なスピードで既に相手ゴール下にまで侵入している千夏ちなつの姿があった。



「くそっ!」


 あまりに早い展開に、マークだとかゾーンディフェンスだとか言っている場合ではない。


 とにかく一本でシュートまで行かれないようにと、パスカットを狙った寛孝ひろたかは、パスを出す直前の鷺沢さぎさわさんの前へと飛び込み───



「……はっ?」



 そして、見た。

 出されたはずのボールが手から離れず、そのまま手首のスナップで全く違う方向へとパスが出される瞬間を。


 何てことはない。

 ただ彼女は、猛禽類・・・特有の凄まじい握力によってボールを掴んで離さず、パスの方向を変えただけである。



 パスの行く先───ボールを受け取った聖羅せいらさんは、そのままフリースローライン・・・・・・・・・から踏み切った。



(ちょっと待てっ……なんで俺より雪谷ゆきやさんの方が高っ……つーか俺の方が先に落ちて───!?)



 聖羅せいらさんの最高到達点は、ブロックに来た身長193cmのかけるが跳んだ手の位置よりも、遥かに上。


 それどころか、リングすら越えている。



 ユキヒョウ故の瞬発力とジャンプ力では、このコートは狭かったようだ。


 ドギャッ!!


 その勢いのまま、聖羅せいらさんはボールをリングへと叩き込む。



 誰もが驚愕に言葉を失い、目を奪われる。

 ボールが跳ねる音と、聖羅せいらさんが着地する音が木霊し、一拍。



獣人わたしたちと戦うんだもの、それなりの覚悟はしないとダメよ?」



 闘争本能が滲む聖羅せいらさんの眼は、いつになく輝いていた。

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