勝負だ春空ぅっ!

 電車で移動し、さらに歩いて少し。到着したのは、総合アミューズメント施設であった。


 最初の目的であるボウリング場はもちろん、スポッチャ、カラオケ、ゲームセンター……その他諸々、一日中遊ぶことができるぐらいに広い施設である。


 今日も相変わらず、学生に子供連れ……多くの人達で賑わっている様子だ。


 というわけで、何人かずつに分かれてボウリング開始。俺がいるレーンには他に、聖羅せいらさん、美藍みらん、そして鷺沢さぎさわさんがいる。


 そう、クラスの陽キャ集団に混じって、今日は真面目系学級委員長の鷺沢さぎさわさんも来ていたのだ。



鷺沢さぎさわさんも来てたなんて、なんだか意外だね?」


「断る理由もありませんでしたし……私がいたらいけませんか?」


「そ、そんなんじゃなくて! どっちかというと関わりが少なかったし、これを機に仲良くなりたいだけだよ!」


「そう……では、よろしくお願いします。雪谷ゆきやさんも、美藍みらんさんも」


「えぇ、よろしくね」


「……ハル、もしかして鷺沢さぎさわさんのことも狙ってるの?」


「狙ってって……そんなことないけど!?」


「どうかしら……あんた、無自覚に女子を落とそうとするから」


「そんなことした覚えはないんだけど……」


「だから無自覚なんだって」



 本当にそんなつもりはないんだけどなぁ……。



 そんな風に駄弁りながらもゲーム開始。


 一部男子だけのレーンもできていて、女子3人と一緒になっている俺に対する視線が鋭い気がする……。


 けど、それも美藍みらん鷺沢さぎさわさんの視線の鋭さには及ばないようで、平和にゲームが進んでいった。



聖羅せいらさん、そんな風にボールで遊ばなくても……」


「っ……! 球状の物を見たらつい……」


「ねぇハル、もっと軽いボールないの? 重いんだけど、これ」


「ちょっと待って……へぇ、ボウリングのボールって、自分の体重の10分の1がちょうどいいんだって。ちょっと探してくるよ」


「……ハル、私の体重知ってるのね。それってなんか……」


「ぇっ、違っ───」


「獣人は普通の人よりも力も強いでしょう?」


「ヒョウみたいな猛獣と一緒にしないでよね! 私はヘビなんだから!」


「ヘビこそ全身筋肉なんじゃ……」


「何よハル、あたしがそんなに筋肉質に見えるの? 確かめさせてあげよっか?」


「待て待て待てっ!」


「……そうね。さすがに外では……帰ってからにするわ」


「そうじゃないんだよなぁ」



 俺と美藍みらん聖羅せいらさんが集まれば、会話の内容は自然と獣人の特徴を踏まえたものになる。


 会話に入らず、俺らを眺めているだけの鷺沢さぎさわさんには申し訳ないな……



「ごめんね、鷺沢さぎさわさん。身内の話ばかりで」


「いえ、見ているだけでも楽しめますから」


「そう? それならいいんだけど……」


「えぇ、ぜひあなた達で楽しんでください。私は十分に楽しめていますから」



 鷺沢さぎさわさんがそういうなら……。











 というわけで、以下1ゲームが終わった時点でのスコア。


 1位:鷺沢さぎさわさん(スコア210)

 2位:聖羅せいらさん(スコア120)

 3位:美藍みらん(スコア96)


 ……鷺沢さぎさわさん、強すぎん? 俺3ゲームぐらいやらないと勝てない気が……


 俺?

 ……75でしたけど、何か?



「ふふん、ハルに勝てるゲームは面白いわね♪︎」


「……まだだ、次のゲームがある!」



 迷わず2ゲーム目を続行。

 男のプライドに賭けて、負けたままでいられるかよ!



        ♢♢♢♢



 燃え尽きたぜ……真っ白にな……。



「ご、ごめんねハル? あたしが全部勝っちゃって」


「傷口えぐるのやめて……?」



 そう、結局3ゲームして、俺は美藍みらんに勝てなかったんだよ……。


 決してバカにする感じはなく、本当に心配した様子の美藍みらんが、肩を落としていた俺の顔を覗き込んでくる。


 普段の鋭い視線とは違い、クリクリと大きく開かれた潤んだ瞳に、真っすぐに俺の姿が映る。それが何だか恥ずかしくて、俺は思わず少し目を逸らした。



「ふふっ……お前、結局桜庭さくらばさんに負けたのかよww」


「うるせぇ、どうせ俺は下手なんだよ……」



 満面の笑みで揶揄いに来た修也しゅうやがうざい……。けど実際負けてるし、反論する気力もない。そもそも体力がないのに、競い合って3ゲームも連続でやるから……。



春空はるく君は疲れただけ……休めばもっとできるもんね?」


「ちょっ……!」


「なっ!?」



 隣に座り、俺の腕を引く聖羅せいらさん。

 力では太刀打ちできず、俺の身体は聖羅せいらさんの方へと倒れ———


 そのまま、彼女の太腿に頭を乗せる形で収まった。

 つまり、膝枕だ。



「えっと、聖羅せいらさん……?」


「こうすれば休めるでしょ?」


「いやっ、それはそうなんだけど……!」



 見上げると、こちらを覗き込む聖羅せいらさんの顔が……ごめん、ほどんど見えない。この視点だと、聖羅せいらさんの巨乳で視界がほどんど埋められて……


 ムチムチして、なんか……すごい良い触り心地と、運動した後だからこう……本能的にクる・・香りが……。



「デレデレしてるんじゃないわよハル! ほら、こっちにも来なさい!」



 ムッとした表情に早変わりした美藍みらんも負けじと、聖羅せいらさんの向かいに座って自身の膝をポンポンと叩き、俺を誘ってくる。


 あぁ……こっちもなんかすごい誘惑が———



「くそっ、負けても結局イチャイチャしてんじゃねぇか! なんでこうなる!? 俺の方がスコア良いのに、何だこの敗北感!」


「どこで戦ってるんだよお前は……」


「くそっ……こうなったら、春空はるくとはハッキリ白黒つけるしかない……!」


「っ!? 修也しゅうや、やるんだな!? 今……! ここでっ!」


「あぁ! 勝負は今! ここで決める!」



 何やら盛り上がってる修也しゅうや達は、ビシッ! と俺を指さし、高らかに宣言する。



「勝負だ春空はるく! ここでお前に一泡吹かせてやる! と言うか、せめて何かで勝った気分を味わいたい!」



 そんな、魂の叫びだった。

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