思い出作り

「なぁ春空はるくぅ……最近お前の昼飯、随分豪華じゃねぇか」



 ある日の放課後、帰ろうとしていた俺の背後から肩を組んできたクラスメイトの修也しゅうやがそう声をかけてきた。


 『お昼が豪華』と言うのは、当然聖羅せいらさんと美藍みらんが作ってくれる弁当のことだ。



 あの日から2人は毎日弁当を作ってきてくれるようになり、俺は悪いと思いながらも、そのあまりの美味しさに完全に胃袋を掴まれてしまっていた。


 ただ作ってもらうばかりはあれなので、せめてこれぐらいはと、材料費は渡すようにしている。


 2人とも『自分がやりたいだけだから』と言うものの、『それならもう作らなくても──』と言いかけると、おとなしく受け取ってくれた。



 そんなわけで、俺は毎日彼女達お手製の弁当を食べているのだ。



「いや、まぁ……二人の好意に甘えてるだけだよ」


「羨ましすぎるだろちくしょう! この学校の三大美女・・・・の内二人に毎日弁当を作ってもらえるとか……!」


「……何その『三大美女』って」


「えっ、お前知らねぇの?」



 得意気な修也しゅうやが言うには、『三大美女』とは、この学校の生徒の中で圧倒的に可愛い美少女三人に付けられた称号だとか。


 生徒会長の『すめらぎアリサ』先輩、クラスメイトの『雪谷ゆきや聖羅せいら』さん、そして、『桜庭さくらば美藍みらん』の三人が、そう呼ばれているらしい。



「なんでこう……みんな『三大○○』みたいの付けたがるの?」


「実際、この三人は明らかに別格・・じゃん? 全校生徒の憧れ的な感じで、神聖視したくなるんだよね」


「まぁ……」



 確かに聖羅せいらさんも美藍みらんも、それこそモデルや女優も顔負けの美人だと思う。当然すめらぎ先輩も……入学した時の生徒会挨拶で見ているから、当然顔は知っている。


 思わず言葉を失うほどに綺麗だった。



「でも、美藍みらんまでそう言われてるとなんか……」


「違和感があるって? お前それ贅沢すぎるからな! お前の存在で何人もの『美藍派』が撃沈したって言うのに、その上毎日弁当を……くそがっ!」


修也しゅうや美藍みらん派かぁ……そんなに言うならアプローチすればいいのに」


「『他のやつがアプローチしたところで靡かないから大丈夫だ』だってか? 幼馴染み様は余裕だな?」


「別にそういう意味じゃ……」


「知ってるか? お前がいつも見てる美藍みらんさんの笑顔、あれお前の前でしか見せてないんだぜ? ……冷たくあしらわれ過ぎて、だんだんあの目で睨まれるのが快感になってきた」


「ところで、何か用があった?」



 修也しゅうやの名誉のため、話題を変えてやろう。



「あぁ……そろそろ3学期も終わるじゃん? 同じクラスになった縁ってことで、思い出作りに遊びに行こうかってメンバーを集めてんだよ。春空はるくも行くか? というか、行くよな?」


「……何か圧が強くない……?」


「当たり前だろ! お前が来るなら聖羅せいらさんも美藍みらんさんも来る可能性が高いからな!」


「それが目的かぁ……」


「当然! 夢見るぐらいはいいだろ?」


「……まぁ、俺も行くよ。美藍みらん聖羅せいらさんも誘えばいいんだろ?」


「頼むぜ春空はるく、お前に全てがかかってるんだ……!」


「そんな大袈裟な……」


「じゃあ頼んだぞ、春空はるく


「オッケー」



 そう話を終わらせ、修也しゅうやは教室を出ていった。あっ、どこに行くか聞き忘れたけど……まぁいいか。



春空はるく君、どこか遊びに行くの?」


「あっ、聖羅せいらさん……うん、思い出作りにって。聖羅せいらさんも行く?」


「えぇ……負けられないから」


「?? ……良く分からないけど、次は美藍みらんに声をかけてみるか……」



 もうすぐ美藍みらんも来るだろうし、意外とノリが良い美藍みらんなら来てくれるだろう。



        ♢♢♢♢



 それからしばらく経った後の休日、待ち合わせ場所の駅前には、修也しゅうやを中心に、陽キャグループが10人ほどのクラスメイト達が集まっていた。


 そんな様子を遠目に発見した俺は、聖羅せいらさんと美藍みらんと並んで駅前へと向かっていた。



 今日は『身体を動かすこともある』とのことで、聖羅せいらさんも美藍みらんも、スカートではなくズボンだ。


 元々高身長の聖羅せいらさんがタイトめのパンツを履くと、めちゃくちゃ脚が長い……。美藍みらんもロリ……身長が小さいだけで、スタイルはすごいんだよなぁ。



「ハル、やっぱりあたしも来てよかったの? あたしクラス違うのに」


「もちろん。寧ろ、あいつらの方から美藍みらんを連れてきてくれって言ってくるぐらいだから」


「それならいいんだけど……」


美藍みらんさんが来ないなら、私が春空はるく君を独り占めできたのに……」


「……やっぱりあたしも来てよかったわ! 聖羅せいらにだけいい思いはさせないんだから!」



 俺を挟んで、両側から睨み合う聖羅せいらさんと美藍みらん。プレッシャーが怖いから俺を挟まないでくれ……。



「おー、来たか有栖川ありすがわ! 雪谷ゆきやさんも桜庭さくらばさんもどうもっ!」


「どうも。あたしも来てよかったの?」


「もちろん! みんな桜庭さくらばさんが来てくれるの楽しみにしてたから!」


「そう。それならいいのだけど」


「くっ……桜庭さくらばさん、相変わらずの塩対応……」

「羨ましすぎんだろ春空はるくのやろう……」

「はぁぁぁ……聖羅せいらちゃん、スタイル良すぎ……」

美藍みらんちゃんも可愛い!」



 静かに俺の隣を陣取っている聖羅せいらさんと、塩対応しながらも俺の手を離さない美藍みらん。両手に華の状態の俺を睨んで、舌打ちをする男子陣が多数。



「そ、そろそろ移動するか! とりあえず最初はボウリングってことで!」



 そんな男子陣の様子に気づいた修也しゅうやは、これ以上空気が壊れないようにと、そう場を仕切って声を出す。


 クラスメイト達の嫉妬の視線を受けながら、俺はとりあえず移動することにした。

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