負けられない戦いがここにある
「ハル……!」
「あっ、噂をすれば……」
帰りのHRが終わってすぐ、俺と
「ごめんね、ハル。あたしが変なこといったせいで……」
「ううん、別に
「でも……怒ったでしょ……?」
「怒ったというか、羞恥心で死にそうだったというか……まぁとにかく、子供みたいに拗ねた俺が悪いわけで……」
スルーしてくれたら、一番それがありがたかったんだけど……。
とにかく、なんだかんだ帰りの時間になる頃には落ち着いていて、逆に無視したり逃げ出したりと、
帰りのHRが終わって、ちょうど
「でも……
「……そうね、あたしも何かしなくちゃダメね」
「本当に大丈夫だって……さらにお詫びなんてされたら、俺は何も返せなく───」
「お詫びなんだから返す必要なんて無いわよ。あたし達が何かしてあげないと気がすまないんだから!」
「ぅっ……」
そう言われると断りづらいな……。と言ってもなぁ……お詫びになる何かなんて、あんまり思い付かな───っと、いかんいかん、今日の朝見た夢の事は一旦忘れよう。
「でもいきなりそう言われても、何も思いつかないというか……」
「あたしに何かしてほしいこととかないの?
上目遣いで見つめてくる
……
『何でもいい』とか言われると変な妄想が……ダメだ、余計に今日の夢がフラッシュバックされる!
と、とりあえずもっと無難で簡単な何かを……えっと……あっ!
「あれだ、えっと……二人の手料理が食べたいな、なんて……」
「手料理?」
テンパった俺の頭が弾き出した答えは、なんともまぁ当たり障りのないものであった。
学校一の美少女と有名な『雪のお姫様』と、それに勝るとも劣らない美少女の幼馴染に、『手料理が食べたい』と頼むなど、他の男子が見るとどう思うのかは置いておいて。
「なら……早速明日、
「えっ……いいの?」
「えぇ、
「あ、あたしも作ってくるわ!
「……じゃあ、私と
「望むところよ! 絶対負けないんだから!」
「
「首を洗って待っていなさい!」
「お、おぅ……」
『首洗って』って、決闘じゃないんだから……。
……ひとまず、明日は二人が弁当を持って来てくれるっていうし、楽しみにしておこう。
しかし……
♢♢♢♢
翌日の昼休み、俺の前には、色とりどりの料理がぎっしりと詰まったピクニックに行くかのように大きな弁当箱が2つ、広げられていた。
「
「ちゃんと感想聞かせなさいよ?」
「……これ、ちょっと本気出しすぎてません?」
「絶対に負けられない戦いなんだもの」
「それに、あたし達も一緒に食べるしね。ピクニック感あって楽しいでしょ?」
そしてお互いにおにぎりの入ったバスケットを持ってきており、三人でも食べきれるか心配だ。
「感動するのは分かるけど、早く食べないと時間無くなるわよ?」
「こんなに凄いなんて、ちょっと圧倒されちゃって……それに、
「っ!? べ、別にこれは何でもないからっ!」
少し顔を赤くし、サッと手を背中に隠す
その指先に、絆創膏が貼ってあったのを、俺は見逃さなかった。
彼女なりに、かなり頑張ったのだろう。そう思うと、途端に
「あたしのことはいいから、早く食べてよねっ!」
「分かった、いただきます」
じゅわっと美味しさが口の中に広がり、味付けも俺好みで完璧。幼馴染だから好みを知っているとはいえ、俺の好みドンピシャに作れるなんて……
「めちゃくちゃ美味いよ、
「えへへ……、まっ、当然よね!」
「
「もちろん、いただきます」
「
「ふふ、それなら良かった……♪」
「っ……」
ふわっと柔らかく微笑む
照れ隠しに、俺はそれぞれの弁当を口に運ぶ。自然と次々に箸を伸ばしてしまうような美味しさ。こんなに美味しいんだったら———
「……毎日でも食べたいな……」
ギンッ! っと、俺を見つめる
無意識に言ったけど、なんかプロポーズみたいな———
「いやっ、今のは———」
「ふふふ、仕方がないわね。ハルが望むなら、あたしがずっと側で毎日料理作ってあげるわよ?」
「私だって……他にも
「一旦後にして……と、とりあえず皆で食べようぜ?」
「むぅ……絶対、
「仕方ないわね……絶対逃がさないから、覚悟しなさいよ?」
強い意志が燃える彼女達の瞳に、俺は背筋がゾクッと震える。
すまん、妹よ。俺は結局、肉食獣からは逃げられそうにない……。
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