チッ……これだからリア獣は……

「あれ? リスちゃんじゃん」


美藍みらん~、愛しの幼馴染くんが来てるよ~」


「相変わらずリスちゃん可愛~!」



 その日の昼休み、俺は弁当を持って一目散にクラスを抜け出し、別のクラスへと駆け込んでいた。目的地は、当然美藍みらんのクラスだ。



「愛しじゃないし! ハルがこっちに来るなんて珍しいじゃん」


「いや……ちょっとクラスの奴らの追求から逃れようと思って……」


「追及って……ハル、何かしたの?」


「それがさ……」



 空いている机を美藍みらんの机とくっつけ、弁当を広げながら、今朝の雪谷ゆきやさんとの一件を説明する。



「……で、ハルは満更でもなかったと」


「いやっ、別にそうは言ってない———」


「ふ——————ん?」



 軽く頬を膨らませな、ジトッとした目を向けてくる美藍みらん

 なんだ? 俺はまた地雷を踏んだのか?



「そうだよね~、長身クール系美少女の聖羅せいらちゃんって、ハルの好みどストライクだしね~」


「待って、千夏ちなつといい、なんで皆俺の性へ……好み把握してんの?」


「あっ……今度、借りてた薄い本返すね? その……すごく使えた・・・よ……?」


「借りっ———えっ!? いつの間に!? 使えたって何!?」


「それ聞いちゃう……? もちろんオ——」


「言わなくていいから!」



 うーわっ、恥っっっっず!

 幼馴染の美藍みらんは俺の家に頻繁に出入りしてるとは思ってたけど……まさか美藍みらんにまで俺の秘蔵・・がバレているとは……。



「別に、シたくなったらあたしが……じゃない、その時聖羅せいらちゃんに何か言われた?」


「えっ? うーん……『オオカミにマーキングされてる』とかどうとか……」


「あー……」(察し)


「オオカミって千夏ちなつの事だよな? マーキングって……」


「まぁアレよね……ハルの身体に千夏ちなっちゃんの匂いが付いてるんじゃない?」


「いや、まぁそうなんだろうけど……それって分かるものなのか?」


聖羅せいらちゃんってユキヒョウ・・・・・だし、匂いには敏感なんじゃない?」


「ユキヒョウ……?」


「あれ、知らなかった? 獣人の間では結構有名だけど」


「全然知らなかった……」



 いや、でもユキヒョウか……。

 それなら確かに、雪の中で転げ回ってたことにも納得が行くな。


 ユキヒョウなら寒さに強そうだし……それでも厚着してるのは、本物のユキヒョウと違って毛皮がないからか?



「オオカミもそうだけど、自分のテリトリーとか所有物に匂いを付けて『自分のモノ』ってマーキングしておく習性があるからねぇ……。もしかしたら……というか、ほぼ確実にユキヒョウに目を付けられたっぽいね」


「マジかぁ……俺ってそんなに千夏ちなつの匂いついてる?」


「ん~……あたしは普通に嗅ぐと・・・・・・人間と一緒だし? あんまり分からないかな~」


「……普通じゃない嗅ぎ方があるの?」


「あ、あるけど……やらないわよ? 相当な覚悟がいるのよ」


「覚悟って……そんな大げさな」


「大げさじゃないわよ。食欲と性欲を我慢しなきゃ……まっ、どうしても確認してほしいって言うなら家でやってあげるけどっ!」


「……? よく分からんけど、頼むな」


「うん……ふふ、これはもう同意だよね……♡」


「?? 確かに同意だけど……?」


「ふふ、ありがと♡」


「ところで、なんで雪谷ゆきやさんは俺を狙うんだ? 美藍みらんもそうだし、昔から疑問だったんだけど……」


「あんたね……あんたは自分の価値をもっと認識しなさい!」


「えぇ……」


「だってあんた、普段から野菜中心に食べてるじゃん? あとナッツとか結構食べてるし」


「……えっ、それって関係あるの?」


「当然! 豚でも牛でも、飼料から拘って育てると肉が美味しくなるのよ。生まれてずっとそうやって育ってきたあんたは、あたしみたいな肉食系・・・の子から見ると高級サーロインが歩いてるみたいなものなのよ!」


「ちょっ……完全に俺を食肉と見てんじゃん!?」


「……半分冗談よ。実際に食べようなんて気はないから」


「本当だろうな……」


「……何よ、信じてないの?」


「今朝の一件があるし……」


「あ、あれはちょっと高ぶった・・・・だけだから! とにかく、あんたを前にすると肉食系の子は本能を刺激されるってこと! ……ってのが半分の理由ね」


「半分の? まだあるの?」


「あるにはあるんだけど……」



 そこまで言って、言葉を濁す美藍みらん

 ほんのりと頬を染め、もじもじしながらこちらをチラッと見ては、すぐに目を逸らす。



「……言いにくいこと?」


「う~……あ、あんたが男として結構……み、魅力的なのよ……。見た目とか優しいとことか……改めて言葉にするとめっちゃ恥ずかしいわね……」



 話しながらだんだん小声になり、自慢のゆるふわウェーブヘアを両手で持って顔を隠す美藍みらん。顔は隠してるものの、真っ赤になってる耳は丸見えだ。


 な、なんだこれ、めっちゃ恥ずっ!

 美藍みらんってこんなに可愛かったっけ……?

 なんかこっちまで顔が熱く……











「なぁ、あれで付き合ってないとかマジで言ってる?」


「いや、どう見てもバカップルですちくしょうめ」


「しかしまぁ……リスちゃんを前にすると桜庭さくらばさんがマジで可愛いよな……。普段からツンツンしてるからあんな表情することなんてないのに」


「幼馴染にしか見せない表情ってか? 爆発しろ」



 互いに向かい合いながら照れ合う2人は、傍から見ればただただイチャついてるカップルでしかないわけで。


 昼休みの間、春空はるくは多くの男子生徒から怨嗟の目を向けられることになるのだった。



─────────────────────

あとがき


ヒント:ヘビは鼻だけでなく、で匂いの成分を取り込む。つまり……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る