妹は、兄を食べたくて堪らない

「ただいま~」


「あーっ、やっと帰ってきた!」



 俺が帰宅すると、それに気づいた妹の『千夏ちなつ』の声がリビングの方から聞こえてきた。


 千夏ちなつは俺の一個下、現在中学3年生の妹だ。

 身長は160cm近くあり、俺と同じぐらい……俺が小さいのか、千夏ちなつがでかいのか……。


 中学生にしては巨にゅ……発育がとても良いから、俺が小さいんじゃなくて千夏ちなつがでかいのだと思いたい。



 そんな千夏ちなつは風呂上りなのか、ラフなタンクトップとホットパンツ姿で、肩にバスタオルを掛けながら俺を出迎えた。


 ほんのりと上気した肌と隠す気もないムッチリとした太腿、そしてチラチラと覗く横乳が目に毒だ。



「お兄、遅かったじゃん」


「帰りにちょっとクラスメイトに会っただけだよ。ほら、ちゃんと買ってきてやったぞ」



 妹から目を逸らしつつ、ソファに座った俺はテーブルの上に買ってきたプリンを出す。一応お詫びってことで、上にモンブランの乗った特別感のあるやつだ。もちろん自分の分もある。



「ふーん……お兄は私よりクラスメイトを優先するんだ……」


「なんかこういう時間に会うって、特別感あって良くない?」


「分かるけど……ところで、そのクラスメイトって男の人? 女の人?」


「女子だけど……って、なんでそんなこと気にするんだ?」



 スゥッと、千夏ちなつの目のハイライトが消える。

 えっ、何?

 俺地雷踏んだ?



「私より他の女の子を優先するなんて……そんなダメなお兄にはお仕置き・・・・が必要だよね♡」


「えっ、ちょっ───」



 ふわりと花のような香りが鼻を擽り、続いてしっとりとした熱が俺を後ろから包み込む。


 千夏ちなつに後ろから抱きつかれたのだ。ムニィッとした弾力を背中に感じ、彼女の声と吐息が耳を撫でぞわぞわとした感覚に襲われる。



「えいっ♡」


「※○▲□~~~~っ!?」



 千夏ちなつに首筋を甘噛みされた俺は、声にならない叫び声を上げて悶絶した。


 残念ながらこれは、シスコンとブラコンのイチャイチャとは訳が違う。なぜなら、千夏ちなつオオカミ・・・・の特性を持つ獣人なのだから。


 リスにとって、肉食獣オオカミは圧倒的な捕食者。つまり今の状況は、リスがオオカミに後ろから押さえ付けられて自由を奪われ、首筋に牙を突き立てられるという……。


 『死』を感じさせるには、十分すぎる効果がある。



「んっ♡」



 そのままカプカプと数回甘噛みを繰り返した千夏ちなつは、歯形が付いた俺の首筋を軽く舐めると、ようやく満足したのか離してくれた。


 その頃には、俺はもう放心状態だった。

 バクバクと心臓が早鐘を打ち、ぼんやりとした視界に小悪魔な笑顔を浮かべた千夏ちなつの表情が見える。



「……お兄、本当これ・・好きだよね」


「……本気で命の危機を感じてるのに、今の何を見たら『好き』になるんだこれが……」


「えっ? 男って妹にこういう絡みされるのが好きなんじゃないの?」


「それフィクションだからな? エロ本の読みすぎだぞお前」


「それはお兄でしょ。『長身クール系』の本いっぱいあった気がするけど?」


「おまっ──何故それをっ……!?」


「んふふふ、お兄の好みは把握済みですぅ♡」



 兄に対してこの狼藉……何て酷いやつだ。虎狼之心の持ち主とは千夏ちなつのことを言うのだろう。狼だけに。


 あまり痛くはないけど、じんわりと熱を帯びる首を擦ると、ぬるっとした感触。

ドン引きの目を千夏ちなつに向けてやると、千夏ちなつはどや顔で鼻を鳴らしてきた。


 何やってんだこいつ。



「ところで、その女の人って誰?」


「俺のクラスメイトの名前を言ったところで分からんだろ?」


「いいから」


「……雪谷ゆきや聖羅せいらさんだよ」


「待って、聞いたことある」


「えっ?」


「だって、めちゃくちゃ美人って有名じゃん」


「いや、まぁ確かに美人ではあったよ」



 俺のクラス……というか、学校でも噂になるほどだ。


 170cmは軽く越えていそうな長身に加え、真っ白な肌と輝くような白銀の髪。クールな雰囲気とどこか現実離れした完璧なルックスと相まって、『雪のお姫様』として有名な人である。



 寒い冬はしっかり着込んでるから体型は分かりにくいけど、夏場の彼女を知っている俺らクラスメイトは分かる。


 彼女の、暴力的なまでに凄まじいスタイルを。


 何でお腹はあんなに細いのに、胸と太股はあんなにむっちりしてるんですかね? そんな肉の付き方、フィクションの中だけだと思ってた。



 当然、入学から何度も告白をされてきた彼女だが、その全てをこっぴどくフり、今では遠巻きに憧れを抱かれるばかりの存在になっている。


 というのが雪谷ゆきやさんへの評価なんだけど……あれ・・を見てしまった俺は、『雪谷ゆきやさんって意外と面白い人なんじゃね?』と思い始めている。


 だってあんなおおはしゃぎして……文字通り転げ回ってる人なんてそうそう見ないし。



「私の中学でも、『あそこの高校にすごい美人の先輩がいる』って有名だからねぇ……ふーん、お兄、私以外の女の人と話せたんだ?」


「お前は俺をなんだと思ってるんだよ!」


「妹に欲情する、草食動物の皮を被った肉食獣?」


「え、自己紹介?」


「またまたぁ……私がカプッ♡ ってすると、真っ赤になって喜んでるくせに♡」


「う、うるせぇっ! 風呂入ってくる!」


「あっ……」



 いたたまれず、俺はその場から離脱。無造作に着替えを掴んで風呂場へと向かった。


 一人残された千夏ちなつはと言うと……



「んっ……ふふ、おいしかった……やっぱり好きだなぁ♡ あぁ、今すぐ食べちゃいたい……♡」



 歯に残る肉の感触・・・・を思い出し、恍惚な表情を浮かべた千夏ちなつは、ペロリと唇を舐めながら兄の後ろ姿を見送った。



─────────────────────

あとがき


第1ヒロイン:雪の中を転げ回る長身巨乳クール系美少女


第2ヒロイン:ヤンデレ気質補食系妹


もう一人増えます(←

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