第十二話 俺たちの戦いはこれからだ
「……はっ」
目が覚めるとそこは……知ってる天井だった。つまりレヴィアちゃんの館の部屋だ。
視線を動かすと、傍らで俺の顔を見つめるヴィオラがいた。
「あら……閣下、レオンの奴起きましたわ」
身体を起こしてヴィオラが顔を向けた方向を見ると、そこには包帯を巻いたゾーネンシュリーム閣下がいた。レヴィアちゃんは席を外しているようである。
「む……気が付いたようだな」
閣下は俺の方に歩いてきて、ベッドのすぐ横の椅子にどかっと腰かけた。
「身体は平気か?」
「……んまァ、大丈夫っス。自分不死身なんで……」
「そうだろうなぁ……えぇ!? アスモデウスよ!?」
『なんだいマリナ、まだ怒っているのかい? 小ジワが増えるよ』
「余計なお世話だッッッ! ……ゴホン、話を戻す」
アスモデウスの軽口にキレかけつつも、ゾーネンシュリームは大きな咳払いをしてから俺に語りかけた。
「単刀直入に言う、カーラ様を城にて復活させた後に……貴様らを始末するつもりだった」
「えッッッ」
ゾーネンシュリームの衝撃の発言に目ン玉が飛び出そうだった。
「まあそんなコトだとは思ってましたわ……」
ヴィオラはやれやれといった風にため息をついた。
「ほう? ではそのままコトが進んでいたら、どうするつもりだったのだ?」
「知れたこと、やられる前に爆殺してやるつもりでしたわ」
「ふっ……己の力を随分と過信しているようだが?」
「私、生まれてこの方嘘をついたことがありませんの。……全て本当にしてきましたもの」
「フフフフフフ……」
「おほほほほほ……」
見えない火花が彼女らの視線の間でバチバチと散っているようである。
顔は笑っているけれど目が笑ってねェ。
つうか俺のいるベッドを挟んでやんないでくれよ怖いから。
「ゴホン、また話が逸れたな。……つまり何が言いたいかというと、気が変わった。貴様らを始末するのは止めて我が魔王軍に正式に迎え入れようと思う」
「はぁ……そりゃありがたいスけど……また何で?」
「お前のせいだレオンハルト。私を負かした貴様らを始末してしまったら、卑怯者の上に私は一生涯貴様に負けたままではないか。……それに、な」
ゾーネンシュリームは少し言葉に詰まったようで、ふっと視線を外した。
「その、なんだ。レヴィアのことで世話になったからな」
「いや別に、俺はレヴィアちゃんの為に閣下に喧嘩売ったワケじゃないスよ! ……ただ俺がちょーっと気に入らなかったってだけで」
「それでもだ。あいつとの付き合い方を考えなおす良い機会になった、感謝する」
ゾーネンシュリームにそう軽く頭を下げられて、俺は困ってしまった。
「いやでも……」
「やかましい、拳を交えたら大体のことは分かる。お前はコスいクズ野郎だが、なんだかんだ心根は善人だ。中途半端な甘ちゃんだとも言うがな……」
ちがわい、そんなんじゃないやい。
「まあそんな奴だからこそ……頼める事もあるわけだが───」
「えっ」
「しぃ……! 失礼いたしまぁす!!」
ゾーネンシュリームの言葉を遮って、突然レヴィアちゃんが部屋に入ってきた。
「おば様……折り入って、お話が……あります!!」
「そうか、言ってみろ」
ゾーネンシュリームは昨日とは違った穏やかな顔で応えた。
「れっ、レオンひゃんたちはお城に行って魔王軍に入るって聞きまひたぁ!」
(噛んだ)
(嚙んだわね)
(嚙んだな)
どもりながらも、噛みながらも、決意が途切れないようにか早口でレヴィアちゃんはまくし立てて、勢い良く頭を下げた。
連動してそのすげえデカい胸もどったっぷーんと揺れた。
「お願いしますっ! わたしも……わたしも行かせてください……っ!!」
ふるふると震えながらレヴィアちゃんはそう言った。
……うん、やっぱ俺よか強い子だ。俺なんかよりずーっと。
「うん、うん……そうか」
ゾーネンシュリームは穏やかな顔で彼女の言うことに静かに耳を傾けると言った。
「……なぁレヴィア、お前
「はえッ……? は、八十一ですぅ……?」
「えっ」
ウソ、めっちゃ年上じゃないのよ!! 年下の子みたいな接し方しちゃったよ!!
「そう、か……もうそんな歳になっていたのだなぁ……おい」
「はいっ」
「座れ」
「ひゃいっ!!!」
ゾーネンシュリームの命令にレヴィアちゃんは声を裏返らせながら従い、爆速で床に正座した。
するとゾーネンシュリームはいきなりレヴィアちゃんの頭をわっしゃわっしゃと撫で始めた。
「ひゃっ、お、おば様? 何を……」
「このっ、無駄にでっかくなりおって……! こうでも、せんと、撫でられんではないかッ!」
「えっ、えっ、えぇ~~~~~!? ちょ、れ、レオンさん!? おば様が、おば様がおかしくなっちゃいましたぁ!!」
「ええい何もおかしくなどなっておらんわ! このっ、このっ!」
「ひいぃ~~~~~~~~~っ!!!」
ゾーネンシュリームがレヴィアちゃんをもみくちゃにしているのを見て、俺の心に去来したのは微笑ましさと、ある種の嫉妬の感情だった。
……いいなぁ、俺誰かに頭撫でてもらったコトなんてあったっけ。
そんなことを思いながら頭をさすさす擦っていると、ヴィオラがニヤニヤ厭らしい笑みを浮かべながら話しかけてきた。
「なぁにアンタ、頭ナデナデされたいの? 案外可愛らしいトコあんのねぇ?」
「……うるせぇやい」
クソ、弄られるネタを提供してしまったぜ。
「あ、あのぅ! そろそろ返事を聞かせて欲しいんですけどぉ……!」
わしわしと頭を撫でられることに耐えかねたレヴィアちゃんがそう切り出す。
「む、そうだったな……いいぞ行っても」
「ですよねぇ……って、えぇ?」
「だからいいぞと言っている」
「えぇっ!!? ほ、本当ですかぁ!? ……でもなんで」
「さぁな……気が、変わったんだ」
「あっ、ありがとうございますっ!!」
「礼はいい……どうしても言いたいのなら、そこの男に言うんだな」
「へっ?」
ゾーネンシュリームが俺の方を指さしたので、レヴィアちゃんがこっちを見る。
だから違うんだって。そりゃあ彼女の話を聞いたからゾーネンシュリームに喧嘩を売ろうと思ったんだけどさ、結局はレヴィアちゃんの為とかじゃなくてただの自己満足っつーか……そんな大層なコトはしてねぇんだって。
「~~~~~~っ!! ありがとうございますっっっ!!!」
ガッっと手を握られて、とんでもない質量の胸がどむにゅッと押し付けられたらなんかどうでもよくなってきた……うん、俺のおかげってことにしておこう。
「いやまぁ……どういたしまして?」
「ありがとうございます、ありがとう、ございますぅ~~~……!」
「いいよ礼なんて……」
とは口では言いつつも悪い気はしないどころかいい気分だ。
……というか胸がね、当たってね、へへ。
「ふんッ」
「いてえ」
急にヴィオラに小突かれた。
「い~いご身分じゃない……鼻の下が伸びに伸びまくってるわよ」
「いいだろ別に……」
「私の預かり知らんところで好き勝手やったみたいだけれど……まぁ結果オーライみたいだから許すわ。次からなんかやる時は事前に報告すること、いいわね?」
「あいあい……上司みてェなこと言うんだな」
「上司でしょうが、下僕なんだから」
そういやそうだった。
「……よし!」
俺たちがガヤガヤやっていると、ゾーネンシュリームが立ち上がった。
「そろそろ行くか、魔王城に」
「……はいっ!」
「レヴィアは先に出ておいてくれ、私はちょっと準備があるのでな」
「わかりましたっ!」
ばたばたとレヴィアちゃんが部屋から出ていき、足音が遠ざかったのを確認すると、ゾーネンシュリームが話しかけてきた。
「レオンハルトよ……レヴィアのことよろしく頼むぞ、あいつは箱入り娘だからな……」
「あっはいそれはもう……」
俺がそう言いつつ、ベッドから出ようとすると急に頭をガッと掴まれた。
「へっ?」
「もし……もしあいつに何かあってみろ……その時は分かるな?」
「……はい」
「そしてだ……あいつに手を出したら……不死身のお前が死を懇願するくらいの凄惨かつ残酷な方法でお前を永遠にいたぶり続けてやる……覚えておけよ?」
「ぅヒッ……かしこ……まりました」
戦った時よりも強い殺意を感じた俺の身体から血の気がひゅんと引く。玉と息子も史上最小に縮んでる、かわいそうに……。
「ならばよし。では行くぞ、お前のせいでだいぶ遅れてしまったからな」
そう言うとゾーネンシュリームはさっさと出て行ってしまった。
青ざめる俺の顔を、ヴィオラが覗き込んでニヤニヤ笑う。ヤな女だなぁ。
「ふふん? 残念ねぇ、せっかくアンタでも落とせそうな女だったのにねぇ?」
「なァ……ヴィオラよう……」
「なによ」
「肩貸してくれねェか……? 腰抜けて……立てねェ……」
「はぁ!?」
うう……なんと情けないことだろうか。
でもまあ、これで俺たちの野望の足掛かりができたワケだから、結果オーライだ。
ヴィオラに支えられてよろよろ歩きながら俺は決意を新たにする。
俺たちの戦いは、これからだ!
……なんか打ち切りみたいだけど違うよ!? ちゃんと続くからね!!!!
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