第四話 光る!喋る!DX魔王様の首
「なぁ、これ何だと思う……?」
街を脱出した俺たちは、ヴィオラの手配した馬車に揺られていた。
お尋ね者になっても忠実なるヴィオレット家の執事が無理を押して出してくれたらしい。本当に頭の下がる思いだ。
それはそれとして俺はさっき俺の手の甲に浮かんだ謎の刻印? 痣? ……みたいなものが気になってしょうがなかった。だって怖いじゃん。
「え、何それ……怖……」
「ちょっと待ってお前も知らねェの? お前のくれた剣使ってから出て来たんだけど???」
「知らん知らん知らん知らないわよそんなの。王宮の宝物庫から必要なモノと一緒にかっぱらってきたモノだもの! 私が聞きたいぐらいよ」
そんなもの人に使わせるんじゃないよ。
「ま、まぁ今んとこ身体に異常はないんでしょ? じゃあ大丈夫よ……多分」
多分かぁ……。
「そんなことよりこれからのコト話しましょ! わからないものはしょーがないから!!」
そうかな……。そうかも。
「まぁそうか。で、これからどうすんだよ」
「と思ったけど……その前に私の目的を話しておきましょうかね」
「目的ィ?」
「あんたは私の下僕になったワケだけど、だいぶ騙した形になっちゃったしね。」
「だいぶどころじゃねェだろ!! ……もしかしてヤったのも噓じゃ」
「ヤったわよ」
「いやちょっと信じられな」
「あんたと私はヤった。あんたは私の処女を奪った……いいわね?」
「アッハイ」
怖えよ目が。
「はぁ……単刀直入に言うわね。私の目的は────帝国を滅ぼすことよ」
「そりゃまた……大きく出たな」
なんとなく察してはいた。なんか王宮爆破とか聞こえたし。
「しかし何でそんなことを? 公爵令嬢だったら普通に暮らしてりゃそれなりの生活はできたろうに」
「何も無きゃあそうしてたわよ! ……あのクソ皇子が私との婚約を破棄しなければねぇ!!」
ヴィオラは急に気色ばんで壁を殴って怒鳴った。なにやらのっぴきならない事情があるらしい。
「え……お前皇子様と婚約してたの!?」
「そうよ! 結婚したら早々に実権を握ってぇ! いずれは私が帝国を支配するつもりだったのに!!!」
コイツ、もしかして悪い奴なんじゃないか?
「ちなみになんで破棄されたんだよ……まぁお前の性格ならわからなくもないケド」
「ちょっとそれどういう意味かしら??? ……まぁいいわ。私が聖女への反逆罪で追われてるのは知ってるわよね?」
「それだけじゃねェよな」
「聖女アンナ・ベッカー……あいつは私の婚約者のクソ皇子に色目使いやがったのよ。あいつのコトなんてどーでもいいけど私の覇道の邪魔をしてきたワケ」
無視かよ。
しかし聖女様か。俺は全然見たことないけど何やら神の啓示を受けた女の子で、とんでもない癒しの力を持ってるとか。聖女の言葉は神の言葉だから、皇帝も逆らえないらしい。怖いね。
「当然私は対策したわ。奴が自ら宮廷から離れるように……具体的には死ぬほど嫌がらせした」
「嫌がらせ?」
「……いや、高度な政治的行為よ、言い間違えた。」
左様でございますか。
「まぁとにかく! その政治的行為がなんでか知らんけど皇子に露見! それが原因で私はめでたく婚約破棄からの死刑判決!! 多分聖女と私ん家と敵対する貴族連中のせい!! くたばれ帝国!!! ……ってワケ」
「なるほどな……お前が悪いよ」
「は? ぶっ殺すわよ??」
理不尽が過ぎる。
「そこでプランB!! 私が帝国ぶっ潰して、新たな秩序を築き上げるのよ!!」
「帝国潰すって……簡単に言うけど俺たち二人だろ? できるのか、そんなことが」
帝国は魔王の軍勢に対抗するために、かつてあった諸国をまとめ上げて造られた巨大すぎる国だ。……俺たち二人でどうにかなる代物じゃあない。
「確かに私たちだけじゃあ無理よ。でも、帝国に対抗しうる勢力との協力を取り付けられたなら……どうかしら?」
「帝国に対抗できる勢力だあ? そんなものあるワケ────いや、まさかお前」
ある可能性に辿り着いた、いや辿り着いてしまった俺の顔を見てヴィオラはニヤリと笑った。
「あら、察しが良くて助かるわぁ。そうよ。帝国に対抗しうる勢力、私たちが協力を取り付けるのは──────魔王軍よ」
魔王軍。帝国と敵対する唯一の勢力、俺たち人間の不俱戴天の敵。
「……本気で言ってんのか?」
「本気も本気よ。帝国を潰すなら、それ相応の勢力を味方につけないといけないわ」
「そういう話じゃねェ。奴ら、魔族は人間と見れば問答無用で殺しにかかってくるぞ? そんな相手と交渉ができんのかってコトだ」
「できるかじゃなくて、やんのよ。その為のカードも持ってるわけだし、ねぇ?」
カードだと? そんなのどこに……という前に、ヴィオラは胸の谷間に手を突っ込みそこから何か────ガラスの容器のようなものを重たそうに取り出した。
その中には……
「!? なんだよ、それ……。ヒトの、首か……?」
容器の中に入っていたモノは、艶やかな黒髪で、青白すぎる肌をした少女の生首だった。
「聞いて驚きなさい? これぞ六十年前にあんたの祖父──勇者ナイトハルトが取ってきた魔王の首よ」
ヴィオラは首をドカッと馬車の座席に置いて、どうだと言わんばかりのドヤ顔を俺に向ける。
魔王の首、だって……? これが、あの、魔王の首なのか。
容器に保管されている魔王の首らしい少女の顔は、ひどく安らかだ。
「でもよォ、取った首持ってくなんて凄く挑戦的じゃないのォ……? 宣戦布告か何かか??」
「あぁ安心して。こう見えて──生きてるから、コレ」
「は?」
「ノックノ~ックもしも~~し魔王様~? 起きてますかぁ~?」
容器をコンコン叩くと、中の生首の眉間にシワが寄る。
「……騒々しいのぅ、なんじゃ小娘。」
その幼いが、不思議な威厳を感じさせる声と共に両の眼が開かれた。
「えっ、えっえっ……えぇ~~~~~? マジで生きてんのォ~? えッ、魔法とかじゃなくてェ……?」
「あぁ庶民は知らないのね。魔王って不老不死らしいのよ、私も実物見るまで信じられなかったけど」
俺は顔を近づけて、魔王の首を舐めるように見た。
きゃ~かわちぃ~! 超かわいいじゃ~ん魔王様。目の白いとこ黒いけど。
「のう小娘なんじゃコイツ。めっちゃ見てくるんじゃが。」
「あぁ魔王様、彼ですよ。貴女の首を狩った勇者……ナイトハルトの孫です。」
「ほう……ほうほう? そうか彼奴の……おい孫、名は?」
「あっ、レオンハルトっス……。レオンって呼んでください」
「そうか。で、彼奴は……勇者は息災か?」
「……さぁ、でも生きてるとは思いますよ。」
「ほう、その心は?」
「あの人が、おじいちゃんが死んでるトコ想像できないんで」
魔王は俺の言葉を聞くと、目を細めてしみじみと、昔を懐かしむように笑った。
「ふふ、そうか。生きておるのか。……そうか、そうか」
ひとしきり笑った後、魔王は両の眼をヴィオラに向けて言った。
「小娘。そちらの話、聞いてやってもよいぞ」
「あら、魔王様。どういう風の吹き回しですの? あの時は取り付く島もありませんでしたのに?」
「ふん、気が変わったんじゃ。……ただし条件がある」
「条件、ですか」
「───今度こそ、我を殺せ。この魔王カーラを、完膚なきまでにのぅ」
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