第62話 危険なリゾート地
夜の間も何か異変があるんじゃないかと気になって警戒をしていたが、特に何事もなく朝を迎えた。
バカンスの二日目はリゾート地内にあるショッピングモール的な施設で過ごすことになっている。これに関しては特に女性陣が張り切っているようだが、俺としては商人としての目線で過ごすことになりそうだ。
こういうリゾート地ではどういう店舗経営を行っているのか。
そしてゆくゆくはギャラード商会の支店を出せるか。
口にするとトリシア会長から「今日は仕事のことを考えず楽しみなさい」と怒られそうなので黙っておく。
俺としても心から楽しみたいって気持ちもあるが、こういう機会でもないと来られない場所なだけに、証人としての好奇心も勝っている。
それとなくチェックを入れておくか。
さて、そのショッピングモールだが……俺の想定を遥かに超越する規模だった。
デカすぎる。
以前訪れた、交易都市ガノスに匹敵するんじゃないか?
ここは貴族など限られた者しか利用できないため賑わいこそ劣るものの並んでいる商品に関しては目を見張るものがある。
真っ先に飛び込んできたのは同業者の出店だった。
「ライマル商会……あの超有名どころが出店しているのか」
名前や評判は何度か耳にしたことがある。
なんでも、最近の一押しは野菜らしい。
驚くべきはこの野菜が育てられている場所にあった。
「うん? ダンジョン農場?」
「おや、そこに気がつきましたか」
思わず口に出すと、出店を仕切るおっちゃんに声をかけられた。
「ダンジョンに畑を作るなんておかしなことをするヤツもいたもんだってちょっとバカにしてたんですがね……これがなかなかどうして、素晴らしい野菜を作っちまうんです」
「確かに、ここで売られている野菜は魔力回復効果のあるものだったり、滅多に市場へは出回らない品種ばかりだな」
それでいてお値段もリーズナブル。
これでは採算がとれてなさそうだが……その謎を尋ねようとした時、急に両肩を誰かにガシッと掴まれる。
「「お仕事の話(ですか)?」」
真後ろに立っていたのはコニーとクレアだった。
ふたりとも笑顔だが……なんか怖い。
「ど、どうしたんだ、ふたりとも……ショッピングは?」
「レーク様がいなくちゃ始まらないじゃないですか!」
「えっ? 俺が?」
頬を膨らませながらプンプンと可愛らしく怒るコニー。
女子のショッピングに俺がいる必然性を感じないのだが……そう俺が疑問を抱いていると察したのか、クレアが詳しく教えてくれた。
「私たちはこれからお洋服を選ぼうと思うの」
「なるほど」
「その服が似合っているかどうか、レークにチェックしてもらいたいの」
「そこが分から――いや、了解だ。微力ながら頑張らせてもらおう」
自分たちの気に入った服を着ればいいじゃないかと言いかけて、それをグッと飲み込む。
……コニーが泣きそうな顔しているんだもんなぁ。
あれはずるい。
しかし、彼女は我が商会においてもはや欠かせない超重要人材。
へそを曲げられて「転職します!」と言われたらかなわない。
この世界にハイクラス転職サイトがあったら通知が鳴りやまないだろう。
引く手数多の有能即戦力社員だからな。
というか、トリシア会長が店の前で手招きしているんだが……まさかあの人の服選びにも参戦しなくてはいけないのか?
なんかいろいろ言われそうで怖いなぁと思った――次の瞬間、
「きゃあああああああああああ!」
すぐ近くから女性の悲鳴が。
また何かあったのか?
昨日の今日でセキュリティーはどうなってんだよ!
急いで声のした方向へ走る。
場所はコニーたちが入ろうとしていた店の裏通りで、青ざめた表情をする人たちに囲まれるようにひとりの男性が狼狽えていた。
手には短剣を握っているが……どうも様子がおかしい。
誰かを脅すようなマネをせず、ただただパニック状態に陥っているだけのようだ。
そもそも、なぜあの人はここにいるんだ?
失礼な話だが、あのボロボロの身なりからここの住人とは思えないし、店で働いているというわけでもなさそう。
その時、不意に男性と目が合った。
何かを訴えかけているような……いや、あれは助けを求めている目だ。
やがて自警団が駆けつけ、男性の身柄は拘束されるとそのまま連行されていった。
「トリシア会長……彼はどこに?」
「とりあえず自警団の詰所にある檻に入れて騎士団の到着を待つのでしょう
「そうですか……」
昨日のアンナの件といい……このリゾート地では何かが起きようとしている。
そんな予感があった。
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