第61話 謎の少女アンナ
ドタバタ劇はあったものの、その日は豪華な夕食をいただき大満足。
明日はこのリゾート地内にある町を案内してくれるらしい。
そこは町というより商店などが集まった複合施設になっており、トリシア会長から聞いた話をまとめるとショッピングモールみたいな印象を受けた。
ただ買い物をするだけでなくさまざまなアクティビティーを楽しめるらしい。
ここに別荘を構えるってことは相応の金持ちか権力者になるからなぁ。
彼らを満足させるために施設を運営する側も大変な努力をしているのだろう。
世界が変わっても、セレブの思考は変わらないってわけだ。
――って、思考が思わず商人側に偏ってしまった。
俺も普段はそういう態度で貴族をはじめとする権力者たちと渡り合っていかなくちゃならないんだよな。
……ただ、思い返すとここまではそんな素振りを微塵も見せていないが。
食事が終わり、お茶を飲みながら話し込んでいた俺たちだが、ふとトリシア会長が保護されたアンナという名の少女について言及する。
「あのアンナという子ですけど……うちの学園の二年生みたいですわ」
「そうだったんですか?」
俺は知らないな。
二年生ということは会長のひとつ下で、俺たちよりひとつ上――ちょうど間の世代ということになる。
入学する前にチェックしたリストに名前は載っていたのだろうが、目に留まらない程度の家系や実績ってことか。となると、コニーと同じく平民から抜擢されたタイプか?
「会長はそのアンナという女生徒を知っていますか?」
「特に接点はありませんわ。ただ、彼女もコニーさんと同じように平民出身なので何か秀でた能力を持っているようですわね」
やはりそうか。
普通ならコニーの持つ
彼女の場合は一体どんな力なんだ?
「その能力については?」
「まだ報告があがっていませんわね。ただ、彼女があの場所にいた理由も判明しましたわ」
それもまた大きな謎のひとつだった。
ハートランド家のプライベートビーチに紛れ込むなんてあり得ないからな。
大体、平民であるはずの彼女がどうしてリゾート地にいたんだ?
俺たちのように誰か別の貴族に招待されていたとか?
気になるその答えは――
「アルバイトに来ていたようですわ」
「ア、アルバイト?」
意外すぎる理由だった。
「学園に通うための費用を捻出するため、去年もこのリゾートにあるお店で働いていたようですわ。お店の休憩時間に海を見ようとあの辺りを歩いているうちに迷い込んでしまったというのが彼女の言い分ですわ」
「ふーむ……」
アンナって人と面識がないのでなんとも判断しづらいが……少なくともトリシア会長はその証言を鵜呑みにはしていないようだ。
「いずれにせよ、彼女は現在拘束中。何も心配はいりませんわ」
「じゃ、じゃあ、明日の予定は……」
「予定通り、町へショッピングに行きましょう」
「「っ!」」
コニーとクレアの表情が一気に明るくなる。
ふたりはめちゃくちゃ楽しみにしていたからな。
とはいえ、安全面についてはこちらも警戒をしておく必要がありそうだ。
「レーク様――」
「皆まで言うな。君の働きには期待している」
「お任せください」
浮かれ気味の女子ふたりに対し、すぐ近くでアンナと顔を合わせているルチーナは何か思うところがあるようで表情を引き締めていた。
……やれやれ。
息抜きで訪れたはずのバカンスだったが、こちらの世界の俺はどうにも俺はトラブルを引き寄せる体質らしい。
だが、同時にそれら問題を蹴散らせるだけの力と仲間がある。
何が起きようともしっかり対応してみせるさ。
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