第31話 ワンオペ生徒会長、再び

 ガノスから戻ってきて一週間が経った。

 あれから町はかつての活気を取り戻し、以前よりも経済が活発に動いているという。


 俺は例の録画機能つき水晶をルチーナに改良させ、映像付きの通信機を生みだすと、それをアルゼが世話になっているギャラード商会系列の店に設置。


 そこで時々彼女から町の様子をうかがっていた。


 こちらは平和そのものなのだが、俺にとってよろしくない話題もある。


それは騎士団の躍進であった。


どうもあの事件を皮切りに、あちこちで犯罪組織が摘発されているらしい。

 しかも大物貴族が相手だろうが決定的な証拠を突きつけて有無も言わせず牢獄にぶち込んでいるんだとか。


 以前は事なかれ主義を貫いていた騎士団が、一体どういう心境の変化なんだ?

 単に今までいいように扱われていたから憂さ晴らしも兼ねているのか?

 

 俺としては迷惑極まりない話だ。

 おかげで暗躍もより慎重に進めなくてはいけなくなったし。

 

その謎の真相については今朝、学生寮のロビーで椅子に座りながら読んだ新聞に描かれていた。

騎士団が変わった大きな原因はガノスでも顔を合わせた騎士団長の心境に変化が起きたことらしい。


新聞では騎士団長のインタビュー記事が掲載されており、それによれば「ある人物の活躍に触発された。女房にも好きに暴れて来いと背中を押されている」とある。

奥さんはともかく、元凶となっている活躍した人物というのは一体どこのどいつだ?

 はた迷惑にもほどがある。


 とはいえ、ガノスでは未来に向けてバッチリ投資ができた。

 卒業後は商売もやりやすくなっているはず。


 おかげで学園購買部の準備も着々と進められていた。

 今は使われていない教室を店舗として改装し、生徒たちの学園生活をより豊かな物とするアイテムをバシバシ売っていけるぞ。


 たまらず表情が緩んでしまうが、ルチーナがこちらへと歩いてきているのが視界の端っこに入ってきたので顔を引き締める。

 そのルチーナだが、逆に彼女の方は暗い顔つきをしていた。


 ……どうやら、例の件はうまくいっていないようだ。


「様子はどうだ?」

「まだ熱が下がりません。食欲もないようで……」

「そうか」


 熱を出して寝込んでいるのはコニーだ。

 ガノスから帰ってきてから、ずっと体調不良が続いている。


 なんとか授業には参加できていたものの、三日前とうとうダウン。

 未だに熱が出たままという状況であった。


 おかげで、予定していた属性診断は延期せざるを得なくなってしまったんだよな。

 コニーの秘密に一歩近づける大きなヒントとなるはずだったのに残念だ。


 念のため、俺が学園で授業を受けている間、定期的に様子を見て、必要があれば看病をしてやってくれと言っておいたが……このまま不調が続くようだと、さすがにただの疲労や風邪で済ませられる問題じゃなくなる。


 学園に常駐する医者にも診せたが、お手上げだという。

 紹介状を書くから大きな専門病院で診てもらった方がいいという話になり、現在手続きが行われている。


 容体をチェックしながらになるが、三日後には移送を開始するという。


 ――つまり、それまでに彼女を元気にしなければ、最悪治療が長引いて退学なんて話にもなりかねない。


 そうなったらそうなったで、そのままうちで働いてもらえたらいいんだけど……ザルフィンがビビるほどの施設で育ったとなったらすんなり帰してもらえると思えない。


 なんとかして早いうちに解決をしたいが、医療知識に乏しい俺たちではどうしようもない。


「ここはやはり……あの人へ相談するしかなさそうだな」

「あの人というと?」

「決まっている――学園長だよ」


 オークション会場で俺を侮辱したザルフィンに対し、コニーはブチギレて本来であれば存在しないはずの氷属性魔法を使った。


 間違いなくそれが原因だろう。


 それに、ザルフィンが口にした「あの施設」という言葉もずっと気になっている。


 聞くところによると、ヤツは元魔法兵団の有望株だったらしいので、そこからアプローチしていろいろと調べてみたのだが、該当する条件の施設は発見できなかった。


 ……間違いなく非合法の施設だよな。


 恐らくコニーはその施設からなんとか逃げだし、無我夢中でさまよい歩いているうちに育てられた教会へとたどり着いたのだろう。


「ですが、学園長はお忙しい身……そう簡単に会えないのでは?」

「そうなんだよなぁ」


 何せ学園長だからな。


 おまけに生徒の大半が貴族やら有力者やらでいろいろと大変そうだし。


 コニーをこの学園に招き入れた学園長にいろいろと話を聞きたいところではあるが、今すぐにというわけにはいかないだろう。

 とはいえ、早期に彼女の体調不良を治すためにも、なんとかして会えないものか。


「何やらお困りのようですわね」


 悩んでいる俺のもとへ、ひとりの女子生徒がやってくる。

 それは御三家の一角を担うワンオペ生徒会長ことトリシア・ハートランドであった。


「トリシア生徒会長? どうしてここに? 今はまだ生徒会活動の最中では?」

「本日の業務はすでに終了しましたので、寮内を見回っていましたのよ」


 基本的に学生寮は男子寮と女子寮に分かれているのだが、俺が今いる場所は共有できるロビー。だから女性であるトリシア生徒会長も入れるのだ。


「元気がないようですが、やはりコニーさんのことで悩まれているのですわね?」

「えぇ、熱が下がらず食欲もない……近いうちに大きな病院へ移って精密検査を受ける予定になっています」

「なるほど……それはどうしても避けたいですわね」

「そうなんですよ――って、えっ?」


 まるでこちらの思考を読み解かれたかのような発言に、俺は思わず素の反応を出してしまった。

 ……いかんな。


 こういう時こそ冷静に対処しなければいけないのに。

 俺もまだまだひよっこだ。


「あなたの気持ちはよく分かりますわ。彼女の特別な力を考慮すれば、手元に置いておきたいですものね。病院で魔力検査でもしようものならすぐに事実が発覚してしまいますから。下手をすれば二度とこの学園には戻って来られない可能性もありますし」

「っ!?」


 お、おいおい、なんだ、その物騒すぎる情報は?


 ひょっとして、生徒会長はコニーの秘密について何かを知っているのか?

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