第32話 コニーの秘密

「生徒会長……あなたはコニーについてどこまで御存知なのですか?」

「大体あなたと同じくらいですわ」

「俺と?」

「もう隠す必要はありませんのよ? わたくしはとうに見抜いておりますから」


 トリシア生徒会長はあんな風に言っているが……俺としては何を見抜かれているのかさっぱり分からない。

 ここはもう少し探りを入れてみるか。

 

「……と、いうと?」

「ふふふ、さすがはギャラード商会の跡取り息子。そう易々と尻尾は出しませんわね」


 いや、本当に意味不明なのだが?


 でもまあ、いい感じに勘違いをしてくれているようだから訂正する必要もないか。

 なんとなく強キャラっぽく見られているようだし。


「あなたは平民という立場でありながらコニー・ライアルさんの秘密を握っていた。さすがはギャラード商会の情報網と褒めるべきでしょうね。学園側は秘密が外部へは漏れないよう細心の注意を払っていたようですが、それを潜り抜けてしまうなんて。相応のリスクもあったでしょうに」

「そ、それほどでも」

「御謙遜を」


 ボロが出ないように細心の注意を払ってそれっぽい返答をしていく。

 まさに綱渡り状態だな。


「ですが、彼女の持つ自在魔法属性セレクト・マジックの力を知れば、手に入れたいという気持ちが働くのは無理もないことですわ」

自在魔法属性セレクト・マジック? ――あ、ああ、自在魔法属性セレクト・マジックね。そうですね。自在魔法属性セレクト・マジックですね」


えぇ……何それぇ……初めて聞いたぞ。

でもバレないように話を合わせないとな。


「やはり御存知でしたのね。隠し続けていたなんて人が悪いですわ」

「しょ、商人には守秘義務というものがありますからね」

「まあ、そうですわよね。よもや裏闘技場を壊滅させ、悪徳教師の愚行を見抜き、ついには交易都市の危機を救ったあなたほどの実力者であるあなたが、平民で魔法を使え、尚且つ顔やスタイルがいいという低俗な理由だけで商会に招き入れたわけではないでしょうから」


 まさにその低俗な理由で選んだとは口が裂けても言えなかった。


 もともとは魔銃を完成させるために必要な技術と専門知識を持った子が欲しくて、それ以外は完全に顔とスタイルで決めていた。


あと、平民出身だから誘いやすそうっていうのも理由ではあったが、トリシア会長の言うような名前だけでヤバそうと分かる能力を有しているなんてマジで知らなかった。


たぶん、うちの商会の誰も知らないんじゃないか?

そもそも調べさせようとさえ思わなかったし。


 ――だが、ここで「いえ知りませんでした」と無知をさらけ出すのは控えたい。

 せっかく会長の中で俺の評価が謎の急上昇をしているっぽいんだ。


 ここはなんとしても押し通す!


「……無論ですとも」

「さすがですわね」


 予想は大外れなのだが、それを勘づかれたくない俺は嘘をつく。

 対して、トリシア生徒会長は自身の予想通りだったとドヤ顔を浮かべていた。


 さて、重要なのはここからだ。


「トリシア生徒会長は自在魔法属性セレクト・マジックについてどこまでの情報を掴んでいるのですか?」

「彼女がその気になれば、自分の意思でどんな属性にも自由自在に変化させられる――それが自在魔法属性セレクト・マジックですわ」


 なんじゃそりゃ!?

 俺の想像の十倍はヤバい能力じゃん!


自在魔法属性セレクト・マジックを持つ者は世界のパワーバランスを大きく変える可能性を秘めています。学園の上層部もそれを知っていて『素晴らしい才能の有る彼女を学園に入学させる』という名目で教会から引き取ったわけですし」


 なるほどね。

 そういった裏事情があったのか。


「学園に常駐している医者はその事実を知らされていないのでしょう。そちらの手続きは御三家の一角を担う我がハートランド家がなんとしても食い止めるとして……問題はどうやって救うか、ですわね」

「学園長に相談はできませんか? あなたが話をしたいといえば、予定を変更してでも時間を作ってくださると思うのですが」

「……望み薄ですわね」

「や、やはり……」

「ただ、わたくしに考えがありますの。この件については目的地を目指して歩きながらにしましょう。さあ、こちらですわ」

 

 授業後ということで外出が許可されている時間はあと二時間ほど。

 それまでに到着する場所――つまり、学園内にあるってことなのか。


 一体どこなのだろうと考えながらついていくと、やがてたどり着いたのは優等生御用達の大図書館。


 建物は校舎に匹敵するほど大きく、魔法、剣術、歴史、経済――などなど、さまざまなジャンルの本が五万冊ほど並んでいるらしい。


「治療法が記載されている本を探すわけですね」


 中には司書もいるらしいので、病状を説明すればすぐに見つかるだろう。

 そう思っていたのだが、どうもトリシア会長の狙いは別にあるらしい。


「本を探すのではありません。人を探すのです」

「人を?」


 一体誰を探すというんだ?

 疑問を残しつつ、俺とルチーナは会長の後を追って図書館へと入っていった。

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