第10話 特別な生徒

 いじめられていた女の子は、恐らく今年から導入された新しい入学制度で学園に通うこととなった者だろう。


 ――王都にはさまざまな理由で親をなくした子どもたちを育てる養護施設が存在する。

 本来、そこに通う者は学園の試験を受ける権利さえないのだが、俺の集めた情報によれば今年からとある理由で入学への【特別枠】が設けられることになったという。


 その理由こそ、目の前にいる平民の少女だ。


 名前はコニー・ライアル。


 銀色のボブカットが特徴的な可愛らしい女の子だ。

 魔法適性持ちだが……ただの魔法適性ではない。


 この辺の詳細な情報は国家機密扱いになっているようで収集ができなかった。

 ただ、施設に近しい者からの証言によると、常軌を逸した魔法の才能を持っているらしい。


 何を隠そう、俺が商会の魔法分野を任せたい候補の筆頭は彼女だった。


 優れた才能を持つ可愛い平民。

 まさに俺の探し求める人材像にピッタリ当てはまる。


 ――だが、やはりそういうヤツはいじめの的になりやすい。


 出る杭は打たれるというべきか、とにかく金持ちとか地位のあるヤツは自分よりも低い身分のヤツに抜かれることを嫌う。


 これは前世でも嫌というほど経験してきた。


 しかし、この状況は俺にとって喜ばしい。

 ここで颯爽と駆けつけて助ければ好感度爆上りは間違いない。


 突っかかっている男子生徒は上流階級の人間――だが、こびへつらうまでの価値もない雑魚家系ばかりだ。


 俺の最終目標は国のあらゆる権力を牛耳る御三家だからな。

 それ以外とは多少トラブルになっても問題ない。


 善は急げ。


 俺はコニーへ殴りかかろうとした男子生徒の腕を掴んだ。


「な、なんだ、てめぇ!」

「いかなる理由があろうと、女性に対して手をあげるというのは感心しないな」

「はあ? 何を言っでででででで!?」


 腕を捻りあげ、ちょっと力を込める。

 それだけで男子生徒は悲鳴をあげた。


 ちょっともろすぎないか?


「こ、こいつ!」


 仲間を助けようともうひとりの男子生徒が飛びかかってきたが、そのタイミングで俺は力を緩めて手を放す。反動で締め上げていた男子と飛びかかってきた男子が正面衝突。


しかも……うわぁ……口と口がぶつかってる。

あれがファーストキスだったら申し訳ない――とは微塵も思わない。


「調子に乗るなよ!」

「おらぁ!」


 残りふたりはまとめてきた。

 おかげで手間が省ける。

サラッとかわしてひとりには前蹴りを食らわせ、もうひとり襟首を掴んで投げ飛ばした。


後ろでルチーナが参加したそうな顔をしているけど、アイコンタクトで助太刀無用と合図を送る。


ちなみに、彼女のメイド服のスカートの裏にはびっしりと小型の武器が隠されている。


「メイド服は苦手ですが、武器を隠せる場所が多いのは気に入っています」


 と、笑顔で語っていたが、たぶんメイド服って武器を隠すためにあんなデザインをしているんじゃないと思う。


 まあ、彼女の助けがなくてもすでに向こうは戦意喪失状態のようだが。


「まだやるかい?」

「ちぃ……覚えてやがれ!」


 四人はヨロヨロと立ち上がって逃走。

 ふん、所詮は群れなければイキれない雑魚だ。

 俺の敵ではなかったな。


「さすがはレーク様」

「ふん。あんなのは倒せて当然だ。――それより、大丈夫か?」


 座り込んだまま怯えているコニーへと声をかける。

 彼女はまだ助かったという実感がないようで、わずかに体を震わせながら視線を泳がせていた。 

 よほど怖かったのだろう。


「君にひどいことをしようとした連中はもういない。安心してくれ」

「あ、ありがとうございます」


 手を差し伸べると、コニーはそれを取って立ち上がった。


「君の名前……教えてもらってもいいかな」


 すでに彼女に関する情報はいろいろと入手済みだが、初対面という形を崩しては怪しまれるので名前を尋ねる。


「あっ、わ、私はコニー・ライアルといいます」

「俺はレーク・ギャラード。同じ新入生だ。それでこっちは世話役を務めてくれるルチーナ」

「よろしく」

「よ、よろしくお願いします」


 コニーの顔から恐怖心が消えた。

 ようやく自分が助かったと理解したらしい。

 こう言ってはなんだが……ちょっとどんくさいタイプか?


「ほ、本当に、危ないところを助けていただき、改めてありがとうございました」

「気にしなくてもいいさ。当然のことをしたまでだからね。それじゃあ、俺たちはこれで失礼するよ」

「は、はい」

「いくぞ、ルチーナ」

「はっ! いつでもおそばに!」


 俺はそれだけ告げて颯爽とその場を立ち去る。

 

 ――本来ならば、ここで今すぐ仲間にするよう甘い言葉をかけるのだが……今日のところは一旦退いておく。


 これはついさっき知ったコニーの性格を考慮しての判断だ。

 ああいうタイプはがっついていくより一度引いて少しずつ距離を詰めていけばいい。


 平民という身分であれば、貴族連中が目をつける可能性も低い。

 しっかりと関係を深めて舞踏会へ誘う。


 ついでに不良生徒から女子を守ったことでルチーナの忠誠度がカンストを通り越して青天井に入ったようだし。


 まだすべては始まったばかり。

 慎重に計画を進めていかないとな。

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